OplusE 2013年10月号(第407号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
光周波数コム
- ■「光周波数コム」が拓く新しい光の世界
- 電気通信大学 美濃島薫
- ■光周波数コムと光時計の発展
- 産業技術総合研究所 洪鋒雷
- ■紫外光周波数コム発生と精密分光への応用
- 東京大学 小澤陽,小林洋平
- ■ギャップレスTHzコム分光法
- 徳島大学 安井武史
- ■デュアルコム分子分光
- Max-Planck-Institut für Quantenoptik 井手口拓郎
- ■光周波数コムによるメタン遷移周波数の精密測定
- 慶應義塾大学 佐々田博之
- ■マルチギガヘルツコム発生技術とその応用
- 東京農工大学*,新潟大学**,埼玉大学***,柏木 謙*,崔 森悦**,塩田 達俊***,田中 洋介*,黒川 隆志*
連載
- ■【一枚の写真】ガンマ線望遠鏡で探る宇宙線の起源
- 京都大学 田中 孝明
- ■【私の発言】特別寄稿「現場目線の開発力を積み上げ,創業60周年へ」
- 中央精機 相談役 堀田節夫
- ■【第10・光の鉛筆】22 Listerと顕微鏡対物レンズの理論分解能
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】99 101.球ベッセル関数の計算
- 東芝 本宮 佳典
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第8章 光は曲がる(その3)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■【4k映像システム開発の歴史と展望】3章 オンデマンドと著作権問題
- 小野 定康
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【研究所シリーズ】産業技術総合研究所 非標識・高感度検出が可能な局在プラズモンチップとスマホ対応超小型ポータブル光計測器の開発
- 電子光技術研究部門 福田隆史,江本顕雄
- ■【ホビーハウス】奥行き反転錯視についての話題から(第4報 お面の裏側)
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
「光周波数コム」が拓く新しい光の世界電気通信大学 美濃島 薫
光周波数コム(「コム」は櫛のこと。「光コム」とも呼ばれる)は,周波数軸上で精密な等間隔に並ぶ櫛状の光である。人類が手に入れた最も精密なものさしとも呼ばれ,それまで1測定が国家プロジェクト級だった時間・周波数標準に基づく光周波数の絶対計測を,研究室レベルで日常的に扱える技術にした。これにより,現在,最も精密な物理量である「周波数」をあらゆる科学・技術分野で利用できる可能性が拓かれた。同時に,マイクロ波から光に及ぶブロードバンドな周波数領域における電磁波のコヒーレントなリンクを実現したが,これは,広範な周波数領域の科学・技術を統一的に扱えることを意味し,技術分野としてもエレクトロニクスとフォトニクスの真の融合をもたらすことにつながる。このように,光周波数コムは単なる精密な基準としての役割を超え,光の性質を余すことなく操り利用するツール,すなわち「光シンセサイザー」の実現へとつながるものである。光波のあらゆる性質,すなわち時間,周波数,位相,偏光,空間,強度などの多次元のパラメーターを自在に操る基盤的かつ革新的ツールが誕生すれば,光のすべての応用分野に再考を迫るインパクトを持っている。
特に,光周波数コムは,フーリエ変換で周波数軸と関係づけられた時間軸においては超短パルス列であり,さらには光の等速性から,時間・空間・周波数軸間の精密な関係を持っている(図1)。加えて,超短パルスの高強度性を利用して,高効率な非線形光学効果によって,これらの多次元の性質を有機的に融合することにより,多次元情報を融合的に扱うツールとなり得る。 その利用によって,超高速と超精密,ミクロとマクロなど,互いに独立に発展してきた技術分野の融合が可能となる。また,光周波数コムは,その光周波数モードが単なる超精密なCW(continuous wave)レーザーの集合体ではなく,時間軸でパルスとなる相互にコヒーレントな関係を持つことから,動的にモード間の等間隔性を保つアダプティブな性質や各モード周波数や間隔周波数とオフセット周波数という高次の基準を内包する圧倒的なダイナミックレンジを利用し,さらにそれらの多数のレンジの異なるノブをカスケード的に用いることにより,自在な制御をもたらすツールとなる。
歴史的に見ると,従来,超短パルスレーザーの時間軸の技術と,超精密レーザーの周波数軸の技術は直交する分野であり,各々独立に進展してきた。しかし,超短パルスの制御技術が進展し,モノサイクルに迫る超短パルス発生技術,それを安定に実現する実用的な光源技術が進展し,単独パルスのみならず,パルス同士の相互関係を持つパルス列としての性質を利用できるようになってきた。このように,急速に進展してきた超短パルスレーザー技術を基に,1990年代終わりには,ドイツのマックスプランク研究所において光周波数コムを用いた周波数計測の実証に成功し,光周波数コムの時代が幕を開いた1)。その後,同研究所とアメリカJILA研究所を中心に光周波数コムの制御技術の開発が急速に進み2),3),20世紀中には日本を加えた世界3カ国で4),時間・周波数標準に基づく光周波数の絶対計測に成功した。これらは,超高速の分野と超精密の分野の融合による革命的な出来事であった。
初期には,光源として大掛かりな装置によるチタンサファイアレーザーが用いられ,連続稼働時間も短く,積算時間が十分でないため計測精度も限られていた。そこで,安定性に優れ長期運転の可能なファイバーレーザーによる光周波数コムの開発が大きな流れになった5)~8)。現在では,ファイバーレーザーは光周波数コム光源の主流となり,長さの国家標準(特定標準器)に用いられるほどの完成度を有しており9),応用分野の拡大に不可欠なものとなっている。
2005年には,光周波数コムの革新性とインパクトが認められ,ノーベル物理学賞がドイツのマックスプランク研究所のHänsch博士とアメリカJILA研究所のHall博士に授与され,光周波数コムの研究はますます盛んになった。現在では,当初想定された応用である周波数計測にとどまらず,基礎物理,分光,計測,通信,環境,医療,天文,宇宙などへ,大きく広がっている(図2)。 応用においては,利用する光周波数コムの特性から,光周波数の高精度ものさしとしての利用,単一モードの精密なCWレーザーとしての利用,そして,多周波モードやパルス列をそのまま光周波数コム・レーザーとして利用する応用の3つのカテゴリーに分けられる。初期の応用は,主として高精度ものさしとしての利用が進んだが,光源としての多様な応用もいくつかの分野で進んできている。特に,従来発生が困難であった波長域である真空紫外やTHz波などに精密な基準を持った光源を提供できることは,大きな意義を持つ。
このように,広がりを見せ始めている光周波数コムであるが,最初に述べたように,そのポテンシャルは光を利用するすべての分野に及ぶものであり,現在の応用分野は,まだ一部にすぎない。今後,技術の利用が爆発的に進むためには,以下の課題解決が必要と考える。
まずは,光源技術の進展である。光周波数コムは光シンセサイザーの基盤として,光波の自在な制御へのポテンシャルを持っている。しかし,現状では,応用に適用しようとすると,超精密性と制御自在性,周波数モードの間隔や強度と安定性,スペクトル帯域と波形平坦性など,その利点・特性同士の実用的な共存が困難である。これには,応用に即した特性を生かす実用的な光源の開発が必要であると同時に,その特性を生かす信号処理・情報処理手法の開発が必要である。2台の間隔周波数のわずかに異なる光周波数コムを用いるデュアルコム分光法10)が急速に発展しているが,今後,同様の基盤的利用技術の進展が望まれる。同時に,簡便化,コンパクト化,安定化,低価格化など,実用に不可欠な光源基盤技術の開発も不可欠である。
さらには,より実際の応用に踏み込んだ技術の進展が望まれる。光周波数コムの応用可能性は広い分野で関心を持たれてきているが,超精密周波数計測としてのツールを超えてそのポテンシャルを活用するには,前述の光源や手法の技術開発と同時に,実際に適用して利用可能性を示していく段階に入ってきている。そのためには,光源の研究者のみならず,応用を考える分野の研究者との分野融合的な研究の進展が今後ますます望まれる。
本特集では,光周波数コムの基礎から応用まで,最新の話題が取り上げられている。光周波数の精密なものさしとしての性質を利用した光周波数計測と時間・周波数標準(時計)への応用,精密光源を用いた基礎科学から環境,医療,天文,宇宙への展開が期待できる精密分光や非線形分光への応用である。また対象となる波長域も,可視光や近赤外光をはじめ,真空紫外からTHz波へと超広帯域に及んでいる。本特集をきっかけに,多くの読者に光周波数コムの可能性に振り向いていただき,そこから新しい応用展開が生まれ,広い分野に拡大していくことを期待したい。
参考文献
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- S. A. Diddams, D. J. Jones, J. Ye, S. T. Cundiff, J. L. Hall, J. K. Ranka, R. S. Windeler, R. H. Holzwarth, Th. Udem and T. W. Hänsch: “Direct link between microwave and optical frequencies with a 300 THz femtosecond laser comb,” Phy. Rev. Lett., Vol. 84, No. 22, pp. 5102-5105 (2000)
- D. J. Jones, S. A. Diddams, J. K. Ranka, A. Stentz, R. S. Windeler, J. L. Hall, and S. T. Cundiff: “Carrier-envelope phase control of femtosecond mode-locked lasers and direct optical frequency synthesis,” Science, Vol. 288, No. 5466, pp. 635-639 (2000)
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- F.-L. Hong, K. Minoshima, A. Onae, H. Inaba, H. Takada, A. Hirai, H. Matsumoto, T. Sugiura, and M. Yoshida: “Broad-spectrum frequency comb generation and carrier-envelope offset frequency measurement by second-harmonic generation of a mode-locked fiber laser,” Optics Letters, Vol. 28, No. 17, pp. 1516-1518 (2003)
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- T. R. Schibli, K. Minoshima, F.-L. Hong, H. Inaba, A. Onae, H. Matsumoto, I. Hartl, and M. E. Fermann: “ Frequency metrology with a turnkey all-fiber system,” Opt. Lett., Vol. 29, No. 21, pp. 2467-2469 (2004)
- http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2009/pr20090716/pr20090716.html
- I. Coddington, W. C. Swann, and N. R. Newbury: “Coherent multiheterodyne spectroscopy using stabilized optical frequency combs,” Phy. Rev. Lett., Vol. 100, No. 1, pp. 013902-1-4 (2008)
広告索引
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