OplusE 2014年1月号(第410号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
3Dプリンターによる生産革命に期待する
- ■3Dプリンター特集に想う
- O plus E 編集部
- ■光造形法による3次元プリンターの実用化
- 大阪産業大学名誉教授 丸谷 洋二
- ■3Dプリンターがものづくりにもたらす革新
- K’sデザインラボ 原 雄司
- ■3Dプリンター:現状と今後の可能性
- スリーディー・システムズ・ジャパン 小林 広美
- ■ポータブル型3D形状計測装置P3Dとその応用
- ニコン 青木 洋
- ■医療への応用事例:再生する自己組織心臓弁「バイオバルブ」の開発
- 国立循環器病研究センター研究所 中山 泰秀
- ■設計現場における3Dプリンター活用
- ライオン 中川 敦仁
- ■生体質感臓器立体モデルによる手術支援
- 神戸大学大学院 杉本 真樹
- ■プリンタブルフォトニクスを用いたナノフォトニクスデバイス作製とバイオ分析への応用
- 大阪府立大学大学院 遠藤 達郎
連載
- ■【一枚の写真】上空9,000mからの地表面観測データを機上で即時処理・地上へ伝送
- 情報通信研究機構 上本 純平, 児島 正一郎, 浦塚 清峰, 梅原 俊彦,小林 達治, 佐竹 誠, 松岡 建志, 灘井 章嗣
- ■【私の発言】何が本当のエコなのかを考えなければいけない
- 東京工業大学大学院 理工学研究科 機械物理工学専攻教授 矢部 孝
- ■【第10・光の鉛筆】 25 フラウンホーファー回折の数学的表現1
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第102回 104.ミー散乱の断面
- 東芝 本宮 佳典
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第11章 半導体が光る(その3)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■【4k映像システム開発の歴史と展望】6章 ディスプレイ
- 小野 定康
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【研究所シリーズ】物質・材料研究機構 高対称量子ドットを用いた量子もつれ光源の開発
- 先端フォトニクス材料ユニット 黒田 隆
- ■【ホビーハウス】直角の面にアナモルフォーズを描く
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
3Dプリンター特集に想うOplusE編集部
2014 年における“O plus E”の新年号が「3Dプリンター特集号」となったことに関してある種の感慨を覚えながら過去を振り返り,また現状と今後への展望に触れさせていただく。科学技術においてわが国が果たしてきた役割を見渡すならば,その優れた成果を誇るとともに,特に基礎技術の実用への発展や技術応用としてもたらされた製品化への成功,あるいはいささか大げさな表現をとるならば,技術によって創出された新たな産業に関しては若干無念の思いを感じる例がいくつも知られている。その基はわが国から生まれながらも(やや自虐的な表現を用いるならば)わが国内における積極的な認知とともに全面的な技術的および資金的なバックアップを得ることができずに,極端な場合には陽の目を見ることができずに埋もれてしまった技術がある。後になって再評価されたとしても,今となってほぞを嚙む結果となっている例も少なくはない。ご関係の方がたにはいささか失礼な述べ方になろうが,現在の「3Dプリンター」あるいは「3Dプリンティング技術」も,その誕生,あるいは少なくとも誕生の地のひとつは日本であったことは間違いないであろう※。
※世界的に見るならば,1つの発明は3 人によって同時になされているという経験則がある。
読者諸兄におかれては,もしも新たに思いついたとしたら,すぐに世界特許なり英語での論文にしておくべきである。発明の気流は一瞬にして世界を巡っているのだ。
「3Dプリンター技術」,あるいはわが国においての1980 年代の表現である「光造形法」に関しては,例えば北口秀美氏による(と思われる)記述が以下のサイトで読むことができる(http://www.thagiwara.jp/rp/rphistory/kitaguchi.html)。
この「光造形法」に関しては本特集号においては,丸谷洋二氏によるご寄稿をいただいている。氏はパイオニアの1 人として興味深い内容を記しておられる。こうした技術に不明であった筆者は,当時本誌の編集同人の1人であったM 氏が「今度の学会で最も素晴らしかった発表は光硬化性樹脂を用いた光造形法であった」と強く述べられていたことを思い出す。もしも本号を読まれて当時の技術に関心を抱かれた方がおられれば,丸谷氏らが書かれた書籍(丸谷氏の記事においては文献2として挙げておられる)図1の「光造形法 レーザによる3 次元プロッタ」をご覧いただくことをお勧めする1)。
事実,この書名においてすでに「3 次元プロッタ」という表現が使われている。「プリンター」でないのが今となっては大変に惜しまれる。こうした基礎技術の開発は多くの光技術関係者によっても行われたが,基礎研究が一巡するといつの間にか光サイドからの関心が薄れてしまった。しかし,このことは製品化へのステップアップが行われるというフェーズに達したということでもあって,今回の特集にもあるように樹脂だけではなくて,素材としては紙や金属を用いて積層するという方式は,すでに「光造形」あるいは米国での表現である「ステレオリソグラフィ」の時代からスタートしていた。実は本誌No.121(1989)およびNo.126(1990)にはすでに「3次元プリンター」や「3 次元ファクス」に関するニュース記事が紹介されており,軍事技術関連をにおわせる記述内容ともなっている。米国GE 社のある技術者によれば,現時点でも3インチ立法程度のサイズであれば強度的にも十分実用に耐えられる機械部品が製造されているという。同社では金型を用いずに機械部品の生産を行うことを計画しており,まず次世代ジェットエンジン(LEAP)の燃料ノズルを生産するとのことである。製造業に本当に3D 革命が産れるかどうか今後が見ものである。
こうした3Dプリンターに関しては,光学分野に軸足の1つを置く本誌のようなジャーナルでは,特集号の切り口が必ずしも簡単ではなかった。そこでまずは典型的な光関連技術として,青木洋氏によるデータ入力手段としての3 次元形状測定器が興味深い。実利用のために扱いやすい小型軽量のポータブル型システムになっており,従来の門型やアーム式の三次元測定装置の概念を破るシステムとして今後の発展と普及が期待される。
さて今後3Dプリンターが各種産業分野に定着するかどうかは,ある意味では「用途開発」に依存する。今回の特集では,工業界ではどのような発想のもとに,そして具体的にいかなる検討を経てどのような「ものづくり」に利用されているかに関して,実務者として中川敦仁氏に述べていただき,さらには医学,バイオ関連分野での応用を含めている。医学分野への臨床応用にはまだまだ困難な面があることが懸念されるが,3Dプリンターの最大の特徴である「個別的な一品生産」を可能とするというメリットがまさしく適切に生かされている典型例である。また,遠藤達郎氏によるナノフォトニクスデバイスの製作は今後の発展とともに将来に期待するところが大きい。なお,ナノオーダーでの加工に関しては,ウイーン工科大学における2 光子リソグラフィ技術が次々と発表されており,全長が30 μm 程度のドラゴンや全長が300 μmのレーシングカーなどは眺めるだけでも楽しい。著作権の関係でここへの転載が困難であるためにご覧いただけないのが残念であるが,是非造り上げられたこれら微小物体の写真をご覧になり感嘆していただきたい2)~4)。
その他の同大学関連のサイトでは製作過程を示す動画を含めて興味ある結果を見ることもできる(http://www.tuwien.ac.at/en/news/news_detail/article/7444/)。
最近のマスコミ報道に見られるように,3Dプリンティング技術に期待する向きは多いが,その加工技術としての最大の特徴は,(切削や研削技術のような)除去加工ではなくて,積層方式に代表される付加加工(additive manufacturing)であることにある。そして自由形状を造り出すことができることから大きな注目を浴びている。図2は三次元スキャナーによって取り込んだ三次元データに基づいて,縮小して造り出したミロのビーナスである。これは光硬化性樹脂を用いて積層方式による「光造形法」によって製作されたものである。
したがって,このモデルはスキン(皮膚)だけから成り立っていることが図からも分かる。このように,1990 年当時から期待されていた用途の1つが医学応用であって,X 線CTによって取得されたデータから生きている人の頭蓋骨が製作されたりしていた5)。最近の例として,図3は人口関節の研究に関連して試みられているサンプルであって,3Dプリンターによって製作された関節が大腿骨の石膏模型に組み合わされている6)。
なお,一般論としての3Dプリンターに関しては読みやすい書籍がいくつか出版されており,なかでもクリス・アンダーソンによる著作7),8)は製造業の未来を考えるのに適していて広く読まれている。
参考文献
- 丸谷洋二,大川和夫,早野誠治,斉藤直一郎,中井孝:「光造形法」,日刊工業新聞社 (1990)
- A. Ostendorf, and B. N. Chichkov : “Two-photon polimerization: A new approach to micromachining,”Photonics Spectra, October, pp. 72-80 (2006)
- “Two-photon lithography creates detailed 3-D prints fast,”EuroPhotonics, Summer, pp. 8-9 (2012)
- “Nano 3D printing hits the fast track,” Physics Today, Vol. 65, No. 4, p. 80 (2012)
- 永森茂:“ 光硬化樹脂による三次元モデリング技術”,第2 回三次元工学シンポジウム資料 (1991)
- アルスロデザイン(株)・鬼頭縁氏のご厚意による
- クリス・アンダーソン著,小林弘人監修,高橋則明訳:「フリー」,日本放送出版協会 (2009)
- クリス・アンダーソン著,関美和訳:「MAKERS」,NHK 出版(2012)
広告索引
- エドモンド・オプティクス・ジャパン(株)410-997(表3対向)
- FITリーディンテックス(株)410-010
- オーシャンフォトニクス(株)410-007
- オーテックス(株)410-999(表4)
- (株)オフィールジャパン410-009
- (株)オプトサイエンス410-012
- コーンズテクノロジー(株)410-013
- コヒレント・ジャパン(株)410-003
- (株)システムエンジニアリング410-002(表2)
- (株)東京インスツルメンツ410-008
- 三鷹光器(株)410-011