OplusE 2014年8月号(第417号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
LEDと有機EL 照明
- ■総論
- O plus E編集部
- ■日本の照明空間におけるLED化の流れと今後の展望
- コイズミ照明 亀之園 薫
- ■中之島フェスティバルタワーの照明とこれからのLED照明
- パナソニック 發田 隆治
- ■知的照明システムの発展と知的オフィス環境
- 同志社大学 三木 光範
- ■高効率有機EL素子における材料への取り組み
- 山形大学 硯里 善幸
- ■フレキシブル有機EL照明デバイスの技術進展
- コニカミノルタ 府川 淳一
特別企画
- ■特別寄稿 末松安晴教授が2014年日本国際賞を受賞
- 東京工業大学・名誉教授 伊賀 健一
- ■特別コラム ガタのきた機械
- 尾上 守夫
画像センシング展2014 特別招待講演レビュー
- ■Kinect for Windows update 2014 テクノロジーの進化
- 日本マイクロソフト 千葉 慎二
- ■医用画像処理を始める前に知っておきたいこと~画像化の原理から実際の検査方法まで~
- 広島大学 檜垣 徹
連載
- ■【一枚の写真】拡張満腹感
- 東京大学大学院情報理工学系研究科 教授 廣瀬 通孝
- ■【私の発言】「これなら,俺は,やりたい」と思えるようなものをつかまえさせるのが教師の役目
- 小柴 昌俊
- ■【第10・光の鉛筆】32 非球面に関する興味ある文献 2 Huygensの非球面無(球面)収差単レンズ
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第109回 111.近軸の波動方程式
- 東芝 本宮 佳典
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第18章 面発光レーザーの登場(その1)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】ジャバラ式3D絵本と復刻版の絵本
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
総論O plus E 編集部
1.はじめに
1990年代に青色発光ダイオードが開発され,その応用として白色光照明灯や交通信号機のLED化,フルカラー電光掲示板,液晶ディスプレイのバックライト,車のヘッドライト等へ急速な応用展開に至っている。O plus Eでは,これまで2度のLED照明特集を行ってきたが,本号ではLED照明の最近の応用と新しい次世代照明としての有機ELについて,詳しくご紹介するのが目的である。これまでの復習の意味も込めて,総論ではLED照明の原理,LED照明の歴史概略をのべた後で,本特集の構成と簡単な内容もご紹介する。2.LED照明
2.1.LED照明の原理概要
LEDはlight emitting diodeを簡略した名称であり,p型半導体とn型半導体との接合,すなわちpn接合部から光が発せられる。p型半導体とは真性半導体に微少量のプラスの不純物(周期表において真性半導体材料よりも+1か+2の電価の元素)を加えてアクセプターとしている。これに対して,n型半導体とは真性半導体に対して過剰な電子を分布として持っている微少量の不純物元素を加えてドナーとした半導体である。この両者を接合させ,p型半導体のほうにプラス電圧を,n型半導体にマイナス電圧を印加すると,p型半導体のアクセプターとn型半導体のドナーとがpn接合部付近にて禁制帯を越えて再結合する。再結合時に,バンドギャップ(禁制帯幅)にほぼ相当するエネルギーが光として放出される。再結合の結果,光波として放出されたり,熱として放出される場合もあり,使用する半導体材料によって左右される。光の波長は材料のバンドギャップによって決められ,これにより赤外線領域から可視光線領域,紫外線領域までさまざまな発光が得られるが,基本的にはスペクトル幅が限られた単一色に近い光であり,色選択の自由度は低い。しかし,光の三原色である青色,赤色,緑色の発光ダイオード(LED)を用いれば,あらゆる色(フルカラー)を表現することも可能である。注目すべきは,波長の短い(すなわち他の色よりもエネルギーの高い)青色または紫外線を発するLEDの表面にその光を吸収して,より長い波長の光に変換する蛍光塗料を塗布することにより,白色や電球色などといったさまざまな中間色の発光が得られることである。最近の白色LED技術は3 色LEDを組み合わせるよりも,青色LEDチップに,効率の良い各種蛍光塗料をコートする方法でLED光プラス蛍光体から発するLED光のちょうど補色関係にある長波長光を合わせて,疑似白色光を得ていることが(経済的であるために)圧倒的に多く製造されている。2.2.白光LED
LEDは順方向に電圧を加えた際に発光する半導体素子である。白熱電球は非常に広いスペクトル幅を持ち,特に赤外域の熱線領域を発するがLED発光のスペクトル幅は狭く,赤色,緑色,青色といういわゆる単色スペクトルを呈する。そこで,白色のLEDを実現するには,互いに補色関係の2色,またはおおよそ光の三原色に相当する3色の光源LEDを組み合わせて白色にする。再度のべることになるが,一般に良く普及されている方法は,コスト的に安価な,短波長のLED光を蛍光体により長波長の光に変換することができる方法を利用している。すなわち,LED本体を青色LEDだけを使って青色の補色光としての黄色光を得るために蛍光体に照射して実現している(疑似白色発光ダイオード)。蛍光の帯域は広く,帯域が広いほうが演色性に優れた良質な照明であるので,照明には主に青色LEDプラス黄色発光の蛍光体による青色+黄色=白色の方法が多く使われている。青色LEDと赤色・緑色発光体を使った演色性に優れる方法は,高価であり,また,エネルギー効率が劣っている(この方式の発光効率は赤:35lm/W,緑:100lm/W,青:38lm/W 程度である)。白色LEDでは他の照明と違って発光成分のほぼすべてが可視光領域であり紫外や赤外領域の発光波長は無視できるほどしかないため,電力の変換効率は最大で34%にも達している。蛍光管の25%,白熱電球の10%(大部分が赤外の熱線スペクトルであるために,可視光領域で比較すると非常に低くなる)に比べると効率がかなり良いが,まだまだ熱として放出されている部分も多いことにも考慮せねばならない。LED光を蛍光塗料に照射すると,蛍光波長は元のLED光よりも長い波長になる。この蛍光波長を可視光領域にするために,元のLED波長を波長の短い青色にしなければならない。青色や紫色以外の他の可視光(緑色とか黄色とか赤色)LEDから元の波長より短波長の青色を生むことはできない。したがって,白色LEDを作るには青色LEDが必須であり,当時在籍されていた日亜化学工業(株)の中村修二(現・米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)の青色LEDの発明(1993年)によって,初めてLED照明が現実的になったことに注目できる。
2.3.LED照明の特徴
LED照明は,蛍光灯や白熱電球などの従来型照明器具と比較すると次のような(約10項目)の特徴が列挙できる。- 長寿命/高信頼性:白熱電球や蛍光灯に比べて,放熱処理のみ行えば,本質的に長寿命であり,一般の家庭用LED電球タイプの製品には,公称4万時間以上が明記されている。したがって,一度設置すれば管球交換のような頻繁な保守の手間が省け,LED自体が寿命を迎えるまでの管球の購入コストを削減できる。高信頼性でもある。
- 低消費電力/低発熱性:LEDに供給される電力の多くが発光に使われる。つまり発光効率が高いために,従来の白熱電球の照明と同じ明るさを作るのに必要な電力が少なくて済む。つまり,熱となって失われる電力が白熱電球や蛍光灯より少なくて済み,低発熱の照明器具となっている。(現在LED発光効率は,蛍光灯照明と同程度かまたはやや勝っている。)すなわちLEDの発熱はゼロではなく,供給電力のまだ半分以上が熱となって失われていることに注意したい。
- 高価格:2014年現在,白色を放つ高輝度LEDの製造には高価な半導体製造装置と高度な技術が必要とされ,生産・販売数がまだ少ないということも量産効果を生むことができず高価格である理由の1つとなっている。白熱電球と比較すると,電源回路が必要であり,発生する光以外のエネルギーは熱となるので,放熱板も必要となる。また,白熱電球や蛍光灯と異なり,光の発生する場所に方向性(指向性)があるために,配光用のレンズや散乱板等が必要となる。これらもLED照明を高価格にしている要因であろう。最近の量産化の功により,LED電球については,価格の低廉化がみられるものの,直管蛍光灯形のLED照明や円形蛍光灯のLED化照明については,市場規模もLED電球ほどまだ大きくなっておらず,技術的にも生産コスト的にも今後の課題となろう。
- RoHS指令(有害物質使用制限指令)対応:人体や環境汚染物質使用禁止令に対応した製造が可能。蛍光灯はその性質上,水銀を使用しなければならず,代替物質もないが,LED照明は水銀を使用する必要がなく,人体や環境を汚染する物質を使用しないことが可能(有害物質使用制限指令で定められた6種類の人体・環境汚染物質を使用しないで生産できる)。
- 耐衝撃性:真空技術用や気体充塡技術用のガラスやフィラメントを必要としないため,衝撃に対して比較的に強い。白熱電球や蛍光灯に使用される衝撃で割れてしまうガラス等に比べて,少々の衝撃では割れないプラスチック等を使用している点で衝撃に強いといわれている。
- 小型/点光源:LEDは,ほぼ点光源であり発光部を小さく作ることができる。光源設置空間を小さくでき,デザイン上も利点ではあるが,放熱に工夫が求められるし,発光方向に指向性があるので,光波の拡散を可能にする設計が求められる。
- 高速応答性:熱慣性のほとんどないLED照明では,供給電源が断続すればそれに応じて高速度で明滅する。したがって,LED光を簡単に光源変調できるので,可視光通信も可能である。
- 直流低電圧駆動:1つ1つのLED発光素子は直流低電圧の電源によって発光するので,乾電池を電源とする用途に多用されている。しかし,100V交流の商用電源につなぐ通常の照明のように使用するには多少複雑な電源回路が必要となる。最近はこの回路もIC化されつつあり量産化に貢献できているという見方もできる。
- 熱に弱い:半導体素子の1種であるLEDは元来,熱に弱い性質がある上に,使用時には低電圧大電流をかけて高輝度発光を行うため,発熱によって素子自身や周囲の封止パッケージが劣化し,最悪の場合にはLED素子が損傷を受け,発光不良を起こす。これを避けて長寿命・高信頼性を実現するには,正しい放熱が求められる。そのため,LED電球は,発熱が放熱を上回らない限界として,白熱電球100W相当の照度(ルーメン)のものを目安として一般市場用(4万時間の寿命保証)の照度上限として市販されている。したがって,自動車ヘッドライト用など超高輝度発光LEDの場合は,放熱方法次第ではあるが,多分寿命4万時間をキープするのが難しいかもしれない。
- 発光色の幅が狭い(余計な色や紫外・赤外をださない):照明デバイスに内蔵された各色LEDの発光を切り替えることで,発光色を容易に変えられること。また,発光色の帯域幅が狭く,可視光の域外にある赤外線(熱線)を放出しないことで,放射熱をださない特徴がある。一方,紫外線もださないことで紫外線を好む虫類が寄ってこないなどの利点もある。
3.LED 照明の歴史概略
照明用光源の歴史を概観する。世界的にみると1810年代にガス灯(第1の光源)が設置され,約60年後の1879年に人類初の白熱灯(第2の光源)が発明されている。さらに約60年後の1938年には蛍光灯(第3の光源)が,そしてまた約60年後の1996年には現在のLED照明用光源の基礎である白色LED(第4の光源)が誕生している。最初のLEDは,1962年ニック・ホロニアックにより発明されている。発明当時は赤色のみであった。前述したように,発光の原理はエレクトロルミネセンス(EL)効果を利用している。本特集ではLEDの他に有機エレクトロルミネッセンス(Organic light-emitting diodes(OLEDs),有機EL)も扱っているが分類上,これもLEDに含まれる。赤色のLEDが開発されて以来,1975年ごろよりディスプレイ表示用途で赤,緑,黄色のものが実用化されてきている。当時は青色LEDがなかったので,三原色にはならず,白色もできなかったが,1993年に日本の日亜化学にて青色LEDの開発が成功し,それを応用した1996年の白色LEDの開発を経て,現在に至っている。発光ダイオードには発光再結合確率の高い直接遷移型の半導体が適する一方,一般的な半導体材料であるシリコンやゲルマニウムなど間接遷移型半導体では,電子と正孔が再結合するときに光は放出されにくい。しかし,黄色や黄緑色に長く使われてきたGaAsP系やGaP系などドープした不純物の準位を介して強い発光を示す材料もあり,広く用いられている。各種半導体材料により,さまざまな色の発光ダイオードを作り出すことができる。
アルミニウムガリウムヒ素 (AlGaAs:赤外線・赤),ガリウムヒ素リン(GaAsP:赤・橙・黄),インジウム窒化ガリウム(InGaN)/ 窒化ガリウム(GaN)/アルミニウム窒化ガリウム(AlGaN):(橙・黄・)緑・青・紫・紫外線,リン化ガリウム(GaP:赤・黄・緑),セレン化亜鉛(ZnSe:緑・青),アルミニウムインジウムガリウムリン(AlGaInP:橙・黄橙・黄・緑),ダイヤモンド(C:紫外線),酸化亜鉛(ZnO:青・紫・近紫外線用に開発中)また,青色LEDの基板として利用されているのは,炭化ケイ素(SiC),サファイア(Al2O3),ケイ素(Si:研究段階)などである。
青色LEDは主に窒化ガリウム(GaN)を材料とする発光ダイオードであるが,GaNと書かず,単に青色LEDとも書かれることが多い。日亜化学工業が大きなシェアを占めている。他の有力メーカーとしては,豊田合成,星和電機などがある。GaN系化合物を用いた発光ダイオードの開発とそれに続く青色半導体レーザーの実現により,紫外から純緑色の可視光短波長領域の半導体発光素子が広く実用化されるに至っている。
窒化ガリウムを用いた高輝度青色LED開発に関して,基礎技術の大部分(単結晶窒化ガリウム(GaN)やp型結晶,n型結晶の作製技術やpn接合のGaN LED)は赤崎勇(名古屋大学→現・名城大学教授),天野浩(名古屋大学教授)等により実現されている。また発光層に用いられているInGaNはNTTの松岡隆志(現・東北大学教授)などによって実現されている。それらの技術を使って製品化したのが日亜化学工業である。また,2004年12月,東北大学金属材料研究所教授の川崎雅司(薄膜電子材料化学)らの研究チームは価格が安い酸化亜鉛を用いた青色発光ダイオードの開発に成功している。青色LEDの再発明ともいわれているが,この成果は同年12月19日付の英科学誌ネイチャーマテリアルズ(電子版)にて発表されている。高コストの窒化ガリウムに取って代わる可能性もあり,期待したい。
4.本特集の概要紹介
本特集では次世代照明として,5件のユニークな展望をご紹介する。第一に「日本の照明空間におけるLED化の流れと今後の展望」についてコイズミ照明(株)の亀之園 薫氏に執筆をお願いした。
亀之園氏は,照明に関して日本は欧州,米国,日本以外のアジアに比較して独自の成長を遂げていると説いている。なかでも日本における照明文化の違いを挙げて,シャンデリアや照明スタンドが主な照明である欧米と比較すると,日本では間接照明など器具の存在感をあえて主張しない照明が普及していた。しかし最近では,多灯分散照明設計の思想が取り入れられる傾向が強くなってきている。すなわち,シチュエーションに合わせて照明シーンを切り替えることが多くなってきている点である。従来の機能・性能本位から意匠付加価値の時代に移りつつあるという。
第二に,日本的なLED照明を実現している一例として,大阪市内の中之島フェスティバルタワーを題材に,ユニークなこれからの照明を実現されたパナソニック株式会社エコソリューションズ社の發田隆治氏に執筆をお願いした。發田氏には,中之島タワービル(ツインビルの最初の建物)にマッチしたユニークなLED照明のかずかずの例を紹介していただいている。
第三に,「知的照明システムの発展と知的オフィス環境」と題して,同志社大学理工学部インテリジエント情報工学科の三木光範先生に先駆的照明を紹介していただいた。これは人工知能技術を用いて照明をコンピューター制御し,必要な場所に必要な明るさと,色温度や色を提供する照明制御システムである。今後のオフィス照明の先取りになろう。
第四と第五の2件は,広い目で見ると物理的にはLEDの範疇に入ると言われる,今話題の有機ELに関して重要な論文を二人の著者に執筆していただいている。
まず,有機ELの基礎と材料の取り組みに関して,経験の深い山形大学の硯里善幸先生に詳しくのべていただいている。次に,企業として最近,注力されているコニカミノルタアドバンストレイヤー(株)OLED事業推進センター府川淳一氏に,次世代照明の候補として,フレキシブル有機EL照明デバイスの技術進展について詳しくのべていただいている。表紙にある鳥のような照明の写真は,フレキシブル照明の一つの応用例である。何しろ材料の厚さが非常に薄い有機ELの特徴を生かしたものと言えよう。
本特集が新しい照明とフレキブル照明とにご関心を持っておられるこの方面の読者には参考になる特集であることを編集部では願っている次第である。
広告索引
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