OplusE 2015年2月号(第423号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
レーザーによる微小加工
- ■特集にあたって
- O plus E 編集部
- ■レーザーマイクロ造形によるマイクロマシンの作製
- 横浜国立大学 丸尾 昭二
- ■レーザー誘起ナノ周期構造形成
- 京都大学化学研究所*,チェコ工科大学**,自然科学機構 核融合科学研究所*** 橋田 昌樹*,Laura Gemini**,宮坂 泰弘*,坂上 仁志***,井上 峻介*,阪部 周二*
- ■フェムト秒レーザーアブレーションで作る単結晶の種
- 埼玉大学 吉川 洋史
- ■レーザーを用いたガラス内部へのナノ改質
- 京都大学 下間 靖彦
- ■液相レーザーアブレーションによるナノ粒子の合成とその応用
- コンポン研究所 武田 佳宏
- ■フェムト秒レーザーを用いた生分解性ポリマーの微細加工
- 慶應義塾大学 寺川 光洋
連載
- ■【一枚の写真】アルマ望遠鏡,「視力2000」で惑星の誕生現場を超高解像度撮影
- 自然科学研究機構国立天文台 平松 正顕
- ■【私の発言】光学は研究する余地はまだあるのでそれを見つけてどのようにやるか
- ワシントン大学名誉教授 アルベルト S 小林
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第24章 発光ダイオードの輝き(その3)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】動く絵のしかけ絵本いろいろ
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集にあたってO plus E 編集部
レーザー応用のひとつであるマテリアルプロセッシングの研究は,1960年のパルスレーザー実現の直後から急速に立ち上がり,レーザーの高出力化,パルス幅,波長域の進展にしたがって適用する材料の種類を広げながら今日に至っている。局在した空間に連続的に熱を与える溶接,切断等の加工に対し,時間的にも局在した加熱を与えることで,穴あけ,マーキングといったレーザーアブレーション応用が可能となり,さらにはアブレーション時の高速な飛散物を利用した成膜技術,クラスター生成,固体表面元素分析等は継続して研究と応用が進められてきた。レーザーアブレーション成膜技術において,アブレーション時の超微粒子特性のためどうしてもSi等の半導体成膜技術には大成できなかったのは残念ではあったが,酸化物超電導体薄膜,フラーレンをはじめとした機能的クラスター材料生成の研究にはなくてはならない技術となっている。また,タンパク質の質量分析に用いられる,マトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)はパルスレーザー照射により,タンパク質を分解することなくイオン化する画期的な手法として2002年にノーベル化学賞に輝いた記憶は新しい。ただし,この手法に用いられるレーザーパルスのフルエンスは一般のアブレーションに比べて格段に低く,レーザー脱離法として区別される。再びトップダウン的な加工に戻ると,加工サイズの繊細化という要求において,波長で決まる回折限界以下のスポットサイズは原理的に光には不得意ではあるが,材料と光の非線形な相互作用を利用することで,特にフェムト秒レーザーの出現を機会に「ナノ加工」というワードがレーザーマテリアルプロセッシングにおいても使われてきた。昨年のノーベル化学賞は,STEDサブ波長蛍光顕微鏡,1分子蛍光イメージング法に授与されたが,これらは光の波長でサブ波長から1分子のサイズにアプローチする画期的な計測法の発明である。ナノ加工では物理的な“加工”を誘起するレベルのエネルギー的相互作用を必要とするので同じ手法は使えないが,フェムト秒レーザーパルスを集光して多光子励起を利用して焦点近傍のみに熱吸収を起こす方式により,すでに細胞内構造のサブ波調加工が実現されている。1999年には,生きた細部内で染色体の切断,DNAのトランスファクションが実現されている。細胞内の加工は,単純な急峻なエネルギー注入による温度上昇,電子励起による分子結合の解離という物理ではなく,過渡的な気泡生成による熱弾性的な過程が主体であると考えられている。ミトコンドリアの加工などのバイオ研究においては,サイズ的には1μm3程度の体積空間の加工である。さらに小さいサイズの加工は,高次のエルミートガウスモードを用いたり,金ナノロッドやナノテーパ金属を用いた局在プラズモンの応用,またベクトルビームを用いた方法などが近年提案されている。
紫外レーザーを有機材料に集光せずに照射した際,表面プラズモン波により周期的な微細構造が発生することは比較的早い時期に発見されている。この時の周期構造と光の干渉縞間隔を一致することで共鳴的に周期微細構造が発現できることも実証されている。その後,比較的低フルエンスのフェムト秒レーザーパルスを固体表面や透明媒質中に集光・照射すると,アブレーションやナノプラズマ形成によって,自己組織化的に波長よりもはるかに小さい微細周期構造(ナノ構造)が生成することが多くの材料で見いだされている。レーザーの照射条件,表面状態,媒質および周囲の媒質によっても現象は異なるためにこのナノ構造形成メカニズムについては依然として基礎研究が進められている。さらにこの微細構造作成を進展させ,微細なナノウィスカーを自己組織化的に作製することも実現されている。SF6やCl2などのハロゲンガス雰囲気中で同様のレーザー照射を行うと,材料表面に円錐状のマイクロ周期構造が形成され,無反射面や超撥水機能を付与できることも示され,実用化への道も拓けつつある。
一方,生体を除くと多くのレーザープロセッシングは,大気下や真空あるいは低圧雰囲気ガス下での実験であったが,近年,液中でのプロセッシングが盛んである。ナノ微粒子がナノテク分野で注目を集めるに従い,液体中でのレーザーアブレーションによるナノ微粒子作成法が急速に研究者の注目を集めている。この手法は,生成条件が金属の種類にほとんど依存しなかったり,分散溶液に比較的制限がなく,化学合成法のように金属イオンなどの前駆体を用いないので純度が高く,収率も高いのが長所である。また,原理は全く異なるが,液中にレーザーを照射することで液相結晶成長の核を形成する研究はすでに実用の域に達している。
本特集号は,加工の繊細化にレーザープロセッシングの展開を求めた際に,非常に有効な手法を研究開発しておられる著者の方々にご執筆を依頼した。
丸尾氏には,最近注目の3Dプリンターの原理をいち早くマイクロマシン造形に応用した研究の成果を執筆いただいた。丸尾氏はこれまでに2光子励起を用いた樹脂によるマイクロ造形において先駆的なご研究を行ってこられたが,いよいよマイクロマシンへ展開して実用化に標準を合わせていらっしゃる。橋田氏には,前述のリップル構造形成の原理とさまざまな材料への展開について紹介をいただいた。吉川氏は,尿素のような有機結晶核生成を,X線回折による結晶構造解析には不可欠なタンパク質結晶を作成するための核形成へと研究を進められており,その成果を記述いただいた。下間氏の研究グループは,透明材料中にフェムト秒レーザーでボイドや導波路などのサブ波長構造を作成する技術開発を皮切りに,ドープイオンの価数制御のような高度な改質が可能であることまで広く研究を進めてこられているが,周期的なナノ構造が透明材料の中に形成できるという新奇な成果を報告いただいた。武田氏には,金属ナノ微粒子の作成の現状について紹介いただいた。ぜひこの大量製造過程にご注目いただきたいのと,生成された微粒子をレーザー照射によってナノ熱源として標的化されたDNAのみを分解する手法,またいかにこのナノ粒子をタンパク質結晶に取り込むかというご研究の成果にも注目いただきたい。最後に,寺川氏は,ナノ粒子およびマイクロ球体を用いたナノ光集光による生体のナノ加工の研究をされているが,今回は,最近取り組んでおられるフェムト秒レーザーパルスによる生分解性ポリマー加工とナノホール生成による薬剤投与への展開についてのご研究成果を紹介いただいた。
レーザーが得意としない回折限界以下の空間での機能的な物質との相互作用そして形状加工による新しい展開の可能性に着目いただければ幸いである。
広告索引
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