OplusE 2015年3月号(第424号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
[計測技術にみる]時代はダウンサイジング
- ■特集にあたって
- NPO三次元工学会 吉澤 徹
- ■オールインワン3Dスキャナーの開発
- ニコン 青木 洋
- ■格子投影による位相シフト法を用いた小型三次元計測装置
- ヒカリ 浅井 大介
- ■ダウンサイジングとロバスト性がもたらすデジタル干渉計の普及“ZYGO Miniシリーズ”
- キヤノンマーケティングジャパン 鈴木 秀和
- ■小型化をはかったリニアエンコーダ「FIBER SCALE」
- ミツトヨ 森 洋篤,川田 洋明,髙橋 知隆
- ■手のひらサイズの広視野分光イメージング装置
- 香川大学 石丸 伊知郎
- ■LEDミニライダー開発とダスト計測への応用
- 千葉大学 椎名 達雄
特別企画
- ■国際画像機器展2014 特別招待講演
- NEC 野崎 岳夫
- ■国際画像機器展2014 特別招待講演
- 富士通研究所 水谷 政美
連載
- ■【一枚の写真】陽子線照射中に生成する陽電子分布をチェレンコフ光計測で画像化
- 名古屋大学 山本 誠一
- ■【私の発言】安いものを活用してどのように性能を向上させるかが,腕の見せ所
- 三明電子産業 代表取締役社長 久保田 和俊
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第25章 周期構造に出会う光(その1)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■【コンピュータイメージフロンティア VFX 映画時評】
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】文具セットとスケルトンボディのカメラ
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
特集にあたってNPO三次元工学会 吉澤 徹
雑誌の特集号の組み方にはいくつかの考え方があるが,今月号では技術の変遷という立場から,最近の傾向として強く感じられる計測技術におけるエレメント,デバイス,装置などの小型化を採り上げることとした。実は筆者は大学時代には「精密工学(Precision Engineering)」を学んだのであるけれども,そのころにあっては,「精密工学」というとフィルム式カメラやアナログ時計で代表される「精密機械」が意識されることが多く,なんとなく「小さいもの,細かいもの」から成り立つ機械器具という概念が伴いがちであった。事実,筆者もそうした「微細なもの」を意識しながら精密工学を学ぶ道へと進んだのであった。この“Precision Engineering”という表現は和製英語の一つである。ちなみに現在の日本精密工学会JSPEは1933年に設立されており,米国精密工学会ASPEは1986年発足となっている。本誌先月号の「私の発言」に登場されてお元気に経歴を振り返っておられるアルバート・小林先生(ワシントン大学名誉教授,90歳)も精密工学科のご卒業である。小林先生を含めて,筆者などに至るまでの往時の精密工学科の学生としては,ドイツ語で“Feinwerktechnik”とか“Feingeraete”(精巧機器という訳語もあった)などというタイトルの書物や文献を読まねばならなかった。こうした“Fein”という文字に見られるように精密工学には英語の“fine”というニュアンスがつきまとっていた。同じ精密工学科のご出身としては「ナノテクノロジー」を提唱された(1974)谷口紀男先生がおられる1)。
このようにわが国から発生して英語のような概念として海外にまで広まった例はいくつかあり,「メカトロニクス」(1969,森徹郎氏)や「オプトメカトロニクス」(1987,滑正行氏)などは典型例である。そうした経緯の中で,精密工学の特徴として,さらなる「微細化」や「小型化」という傾向が少しずつ感じられていた。ただし,“Precision”という言葉は厳密にはやや誤解されてきた面があって,ややもすると“Accurate”という概念と混同されてきた面があることは事実であろう。しかしながら,1960年代に至って現れた書籍2)によって,“Miniaturization”という傾向と重要性は強く意識されるようになった。企業の方がたを中心として書かれたこの書は,一部の方がたにはかなりのインパクトを与えたと思われるが,社会経験がなく怠惰な学生であった筆者がその重要性に気づくにはさらに長い年数がかかってしまった。
技術の変遷を,精密加工と測定との対比という立場からまとめた例を図1に示す。これは谷口先生によりまとめられた結果に沢辺雅二氏が手を加えられたものである。「昔の蒸気機関の絵では蒸気がもくもくと立ち昇っているけれども,あれはそれだけ隙間があったからなのだし,ひどい場合には隙間にコインを挟んでチェックしたそうだから信じられないなあ」と講義しておられた谷口先生を思い出す。 さてすっかりと懐古調の書き出しとなってしまったが,近年の計測技術や計測装置に動向をみるならば,当然ながら新たな技術的な原理が生まれている。しかし,それと同時に原理的には以前から知られてはいるものの装置としては実現しにくい,特に実際的な利用を目指す製品としての実現しにくかった例が,新たなエレメントやデバイスなどの進展,いうなれば要素技術の発展によってよみがえってくることもみられる。「そうしたことは自分が10年前にやっていた」などとほぞをかんでも仕方がないのであり,せっかく実現した製品には「製品化にはどこで一番苦労したのか」と聞いて励ましてはどうであろうか。
具体的な例として,図2には,実車の外面形状や寸法や穴位置などを測定している状態を示す。測定すべき項目が多いために,単なる接触式ポイントセンサー以外に光学式プローブなどいくつものマルチセンサー方式を利用しての優れた総合的な大型測定システムとなっていることがみられる。こうした車体の外からの測定が重要であるとともに,別の要求としては車内に装置を持ち込んで測定を行いたいという要求も存在する。 特に車を組み上げることにより,全体的に各部が変形して落ち着いてから,ダッシュボードやブレーキペダルの形状や位置などをとらえることが必要であるという。そうした要望に応えるためには,三次元測定機にガントリ型(門型)機構ではなくて,アーム式(関節型)機構を採りこむことがまず行われて,これによりある自動車メーカーでは1車種について1億円のコスト削減が可能になったという。
さらに次の第2ステップとしては車内に持ち込んでの測定を可能とするポータブル型測定装置が期待され,そうした要望に応えるべく開発された製品が本号の特集でも紹介されている(図3)。これで大量のデータが取り込めるようになった先には第3のステップとして,得られた大量のビッグデータをいかに迅速に処理しいかに利用するかという第3の課題が待っている3)。 この例以外にも三次元計測に関して小型化を実現すると同時に,現在この分野で最もホットな課題となっている計測の高速化を巧みに実現した技術と製品が興味深い。精密表面形状計測ではもっともポピュラーとなっている干渉技術に基づいた装置も,かつてはテーブルの上を大きく占めていたものが次第に小型化されるとともに使いやすくなっていることが具体的に記されている。
ただし,こうした装置になじんでいない方にとっては「どの位小型化されたのか」が明確には実感されにくいかもしれず,また当初より小型化されている装置を使われてきた人々には当然のように感じられるかもしれないことがいささか歯がゆくも思われる。また変位や位置の検出に欠かせないエンコーダについてはスペックルを利用した小型装置が紹介されている。従来とは異なって「どのような装置にも手軽にエンコーダを取り付けて利用できる」ともいうべき使い方が意図されていて興味深い。
このような“Dimensional”な測定に加えて,環境問題に対する光学技術の対応ともいうべき観点から「分光装置」および「ライダー」に関する最新の小型化の例も含めることができたのは幸いであった。
この二つの例は学協会での発表で知ったのであるが,ライダーについては非常に小型化されていることと,その測定結果に感嘆した。また分光計に関する研究に関連しては北京での発表で知ることができたが,著者が記事で述べておられるように将来はスマートフォンに搭載できるようになるかもしれないなどの可能性があって夢がある。
その他,多くの各種製品に関連して小型化の情報(微小エレメントやデバイスとしては外径が1.5~のボールベアリングなど)を収集することはできたが,これを今回の特集号に取り込むことは版権問題や内容構成上の制約から実現できなかったことは残念である。
いずれにせよ,今後とも製品のダウンサイジングは進むことと思われるし,それとともに高機能化されるであろうことが大きく期待される。いささか古くなってしまったが,日本機械学会誌(特集号 すごーく小さいもの)4)には,製品化以前のケースも含めて,小型化,コンパクト化,ミニチュア化などダウンサイジングの夢を追った例が紹介されていて,今もって参考になる。
参考文献
- Norio Taniguchi Ed.: Nanotechnology Integrated Processing Systems for Ultra-precision and Ultra-fine Products(Oxford University Press, 1996)
- Horace D. Gilbert Ed. : Miniaturization(Reinhold Publishing Corp. , 1961)
- 飯田望:~自動車開発での効率革新を狙って~超簡単ハンディ3D計測器開発と自動CAD化推進の取り組み(第24回三次元工学シンポジウム資料集 2014, 12)
- 日本機械学会誌 メカライフ特集 すごーく小さいもの Vol. 108 No.1042(2005, 9)
広告索引
- エドモンド・オプティクス・ジャパン(株)424-997
- FITリーディンテックス(株)424-003
- オーテックス(株)424-999
- (株)オプトサイエンス424-007
- (株)キーストンインターナショナル424-009
- (有)セイワ・オプティカル424-008
- (株)東京インスツルメンツ424-002