OplusE 2016年11月号(第444号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
レーザー加工の最新動向
- ■特集にあたって
- 慶應義塾大学 神成 文彦
- ■産業応用に向けた国産高出力ファイバーレーザー開発 先の国プロの成果と産業用レーザーとしての展開に向けて
- 古河電気工業 藤崎 晃
- ■コヒーレントにパルスファイバーレーザーを束ねる位相同期結合技術
- 大阪大学 椿本 孝治
- ■水ジェット切断を速度と精度で置き換える炭素繊維材料のレーザー切断加工
- 産業技術総合研究所 新納 弘之
- ■表面プラズモンで解き明かすレーザー誘起表面ナノ周期構造生成
- 東京農工大学 宮地 悟代
- ■フェムト秒レーザーによるジルコニアセラミックスの表面修飾
- 産業技術総合研究所電子光技術研究部門*,ナノ材料研究部門**,健康工学研究部門*** 欠端 雅之*,大矢根 綾子**,屋代 英彦*,伊藤 敦夫***,鳥塚 健二*
- ■キラルな光渦はレーザー加工を変えるか?
- 千葉大学 尾松 孝茂
- ■フェムト秒レーザーで直接書き込む導波路レーザー作製
- 慶應義塾大学 田中 裕樹,神成 文彦
- ■超精密加工を用いたマイクロ光共振器の作製
- 慶應義塾大学 田邉 孝純,柿沼 康弘,水本 由達,中川 陽介,渕田 美夏
特別企画
- ■画像センシング展2016 誰にでもわかる「特別講演」レビュー
- 東京大学 加藤 真平
連載
- ■【一枚の写真】カラー画像と近赤外線画像を同時撮影可能なイメージングシステム
- 東京工業大学*,オリンパス 技術開発部門** 紋野 雄介*,田中 正行*,奥富 正敏*,吉崎 和徳**,福西 宗憲**,小宮 康宏**
- ■【私の発言】ペロブスカイトの成功は人のつながりがなければ成し得なかった
- 桐蔭横浜大学 宮坂 力
- ■【干渉計を辿る】第3章 面形状測定用干渉計 3.1 形状計測に用いられる基本的な干渉計(トワイマングリーン干渉計とフィゾー干渉計)
- 市原 裕
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第45章 光に有機を(その3)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■コンピュータイメージフロンティア
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】いろいろな物が立ち上がる「しかけ絵本」
- 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
fsレーザーパルスを重ねて照射することで,加工対象物質の表面の状態が変化し,ナノ構造が生成される。写真は,fsレーザーを複数パルス集光照射した後の窒化ガリウム(GaN)断面のSTEM画像である。(関連記事「表面プラズモンで解き明かすレーザー誘起表面ナノ周期構造生成」東京農工大学 宮地 悟代:詳細は1031ページ)
特集にあたって慶應義塾大学 神成 文彦
レーザー加工の最新動向
高出力レーザーによる加工工程を細かく分類すると100種類を優に越えると言われている。一方で,レーザー加工の専門書は非常に少なく,それらの書物でも熱伝導,熱応力等の熱加工の原理に始まり,レーザー集光特性,アシストガスの効果,パルスレーザーによるアブレーションの原理,そして当たり障りのない一般的事例の紹介に限られている場合が多い。現実には基礎の基礎を頭に置きつつ,時には熱伝導,熱応力等に関しては計算機シミュレーションで確認しながら,しかし,現場での現象論的な試験の繰り返しから最適化を行っているのが実際であろう。材料,雰囲気,使用するレーザーの波長,パルス幅,エネルギー密度,パルス繰り返し周波数,空間モードによって加工結果は変化するので,逆にそれ自体が個々の現場で蓄積されてきているノウハウである。この業界では,特定の市販レーザー加工装置の調整つまみの値をパラメータにした加工特性結果が研究発表されることも奇異ではないと聞いたことがある。
加工中の材料のダイナミックな温度,形状,表面状態等の変化,プラズマ(自由電子,イオン)生成により同じ材料でも実効的なレーザー吸収係数が時間と共に変化することも周知の事実であり,加工技術の標準化を困難にしている。多くの試作と試行錯誤を重ねてノウハウを勝ち取った現場においては,レーザー加工は優れたツールになる。しかし一方で,新規に取り入れようとした場合には,技術は標準化されていないわけで,お試しで何回か行う中から設備投資を判断できるような成功例を得ることはなかなか難しく,レーザー加工は使えないと判断された現場も少なくはないであろう。
レーザー加工のジョブショップは国内にも数多く存在しているが,加工データをアーカイブ的に蓄積し知財管理のもとに広く技術を広げて製造産業をバックアップするような機能を実施するには公的な機関が必要なのではないか。公的機関特有の欠点をむしろ危惧するのであれば,全く別の発想で,某メーカーのように多様な成熟したレーザー加工技術を製品製造現場で使いこなしている企業が,外国製品のレーザー装置に頼らず,レーザー装置製造から加工技術開発までを行う関連企業を自前で持ち(最初はM&Aであろうが),加工現場のノウハウと直結した最先端のレーザー技術開発を展開し加工技術の標準化までを知的財産として抑えていく戦略に出るのはどうであろう。国内のレーザー研究者および技術者養成も相乗効果的に良い展開ができるのではないか。ドイツアーヘンのフラウンホーファー研究所は前者に対応する公的機関で,州内の自動車メーカーと密なタイアップを行ってレーザー開発から手がけている。また,アーヘン工科大学との学術,人材育成面での協力体制も非常に密である。
ところで,国内の研究機関,製造メーカーに導入されているレーザー装置は著名な欧米メーカーのものであると推察するが,近年,成熟したレーザー装置技術を使った汎用レーザー装置は中国製の台頭が著しい。非常に安価であり性能的にも問題はない。筆者は,最近フェムト秒ファイバーレーザーを研究用に構築したが,能動素子以外の光学部品の多くは中国製である。もともと,レーザー結晶,非線形光学結晶にはたけているので,中国がレーザー製品開発戦略でどこまで突っ走り,レーザー加工を国家的なコンソーシアム機構として協働体制で産業をサポートする形に舵を切る局面が出てくるのか脅威をもって注目している。
さて,このようなレーザー装置開発,加工基盤技術開発と現場の間を取り持つ機構がいまだ存在しないわが国においては,要素技術開発においてはNEDOの国プロや個々の研究者の地道な努力に頼るしかないのであるが,国産の加工用ファイバーレーザー開発および炭素繊維材料切断応用の国プロが2014年度で終了し,ドイツにおいても航空機,車両用の炭素繊維材料加工に向けたレーザー応用が加速し,レーザー3Dプリンターと並んで産業応用の目玉の1つとなりつつある。炭素繊維材料開発に強いわが国は先駆的な加工開発を行うチャンスではある。本誌37巻2号では,レーザーを用いた超微細加工に注目した特集を行ったが,本特集では,特に,加工の方向性を絞らず新規な取り組み例を紹介したい。
古河電工は2014年に終了したNEDOの国プロの成果として加工用の高出力ファイバーレーザーを開発し製品化に展開している。車のような製造加工部門を有しない企業がレーザー装置を国内市場にどのような戦略で切り込むかは日本の産業構造から見て注目すべき挑戦である。レーザー加工の現場との密なタイアップで装置性能に付加価値を加えていく体力と持続性が要求されよう。
大阪大学レーザーエネルギー研の多ビームをコヒーレントに重畳する技術も,NEDOプロジェクトの成果の一つである。ファイバーレーザー単体の出力はパルスであれば非線形光学効果で頭打ちになるので,単にファイバーを束ねるのではなく,光の位相を合わせてコヒーレントに重畳し,1つの位相のそろった品質の高いレーザーにする技術である。ファイバーレーザーの高出力化において不可欠な技術である。
産総研の新納氏には,これらのNEDOプロジェクトにおける応用例として掲げられた,炭素繊維材料の切断加工性能について紹介していただいた。将来的には,レーザー加工に向いた炭素繊維の開発へと結びつけ,自動車,航空機産業への技術浸透を期待したい。電動モータと炭素繊維ボディーで作られた高燃費・軽量車が,AIで管理された自動運転によって絶対に衝突事故が起きない交通システムの中で走る未来は現実性を帯びてきた。
宮地氏と欠端氏には,実用面からも期待されているレーザー生成表面微細構造の形成に関しての基礎研究成果を紹介いただいた。現象論的にはよく知られていた特異な加工特性が,表面プラズモンと物質表面のミクロな応力分布で説明ができるようになっており,その範囲は歯科用材料にも展開している。
尾松氏と田中氏には,加工におけるトピックスとして研究例の紹介をお願いした。偏光特性が特異な光渦レーザービームに関しては,本誌でも過去に特集を組んだが,このレーザーモードを材料に集光した場合,非常に特異的な加工および励起が実現可能になる。回折限界以下の加工あるいは計測の空間分解能を実現する方法は様々あるが,光の角運動量で物質との相互作用がサイズ効果として現れるのは注目である。透明材料の内側にフェムト秒レーザーパルスの多光子吸収によって屈折率変化やボイドを形成する技術は研究の歴史が古いが,レーザー媒質中にクラッドを書き込んで導波路レーザーを作る方法が最近注目されている。レーザー媒質以外にも石英バルク中に複雑な光導波路構造と導波路干渉系を書き込み,量子ウオークの実験を行っている研究もある。レーザー加工は,フェムト秒レーザーを用いて熱的損傷の少ない加工が良いとされるが,MHz以上の高繰り返しフェムト秒レーザーを用いて,あえて熱的蓄積効果を利用することが好ましい例も存在する。このレーザー導波路形成はその方向に進展しそうである。
最後の田邉氏の報告はレーザーによる加工ではないので特集内容的には偽りありであるが,レーザー共振器の加工である。石英のリング型マイクロ共振器をバルク材料から旋盤で機械加工によって作成できるのであるから驚きである。驚嘆すべき技術開発成果に免じて特集内容からの逸脱はご容赦いただきたい。
広告索引
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