OplusE 2017年2月号(第447号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
いつまでも輝くレンズ光学
- ■特集にあたって
- O plus E 編集部
- ■傾きも含めたZernike 多項式の完全性と奇数次非球面への応用
- 伯東 田邉 貴大
- ■BRレンズを用いた高度な色収差補正技術
- キヤノン 石橋 友彦
- ■アポダイゼーションフィルターを搭載したレンズ
- 富士フイルム 近藤 茂,青木 貴嗣
- ■iPS細胞の立体観察を可能にする輪帯照明顕微鏡
- オリンパス 鈴木 良政
- ■ホログラフィック光学素子を搭載したウェアラブルディスプレイ
- コニカミノルタ 稲垣 義弘
- ■広配光な放射状の光を生む光散乱導光ロッド
- 東芝研究開発センター 大野 博司
- ■ラゲール・ガウシアンビームを用いた超解像顕微鏡技術
- オリンパス*,北里大学**,ブダペスト経済工科大学*** 池滝 慶記*,**,熊谷 寛**,ナンドール・ボコル***
- ■ライブイメージングのための高速超解像蛍光顕微鏡法
- 理化学研究所 岡田 康志
特別企画
- ■国際画像機器展2016 特別招待講演
- 中部大学 藤吉 弘亘
連載
- ■【一枚の写真】プロジェクション型シースルーホログラフィック3Dディスプレイ
- 情報通信研究機構 涌波 光喜
- ■【私の発言】複雑に見えても,別の角度から見ればすっきりと単純な形に見える
- 東京工芸大学 川畑 州一
- ■【第11・光の鉛筆】14 Schrödingerの色彩論1
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第122回 124. 誘電率テンソルと光学特性
- 東芝リサーチ・コンサルティング 本宮 佳典
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第48章 地球を一つに:光通信システム(その2)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■コンピュータイメージフロンティア
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】ハーフミラーを用いる光学系の話題から
- 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
写真はF1.2の豊かなボケ量に加え「ピントの切れ味」と「柔らかいボケ味」の両立をコンセプトに開発されたAPD(アポダイゼーション)フィルターを搭載したレンズの実写比較画像である。右のフィルターありの状態では,手前の点光源に「柔らかいボケ味」が見てとれる。(関連記事「アポダイゼーションフィルターを搭載したレンズ」富士フイルム 近藤 茂ほか:詳細は153ページ)
特集にあたってO plus E 編集部
いつまでも輝くレンズ光学
レンズはさまざまな分野で使われ,また新たな領域に応用されて来ているが,その進歩はとどまるところがない。高性能化や小型化などレンズへの要求性能の高まりがレンズ設計・製造技術を発展させ,逆にこれらの技術の向上が高仕様レンズを身近に使えることを可能にし,光学装置の進歩につながっている。さらにホログラフィック素子のような新たな光学素子が実用化されることで光学設計の幅が広がり,また光源や光検出器・コンピューターなどの周辺デバイスの性能向上により新奇な光学系の構想が可能になってきている。従来の古典的な光学技術の範囲内でも,今まで誰も気がつかなかった驚くような素晴らしい光学系が見いだされている。このようにレンズ光学はいつまでも輝いているが,本特集では,最近の基礎技術の進展や,斬新な光学系・光学装置の紹介を行う。この30~40年の間にレンズの非球面技術は大きく発展した。それによって結像性能が良くなるだけでなく,半導体露光装置などではレンズ枚数が半減されてきた。自由曲面や,Forbesによって提案された非球面の新たな表現方法など,非球面に関する議論は今でも盛んに行われており,ISO/TC172/SC1/WG2(光学及びフォトニクス/光学基礎/図面規格)でもISO規格の見直しが鋭意進められている。このような中,面表現の基礎的な議論が必要になってきている。例えば,Zernike多項式の完全性と奇数次非球面の表現とは高校数学のレベルでは明らかに矛盾を生じてしまうが,伯東の田邉貴大さんには,この矛盾点について厳密かつ分かりやすく解説していただいた。その中で,奇数次非球面の有効性についても述べていただいたが,有効性についてはさらなる研究成果が近々論文として公表されるということであり,別の機会にさらに紹介していただければと思う。
屈折光学系において色収差を無視できれば,多くの場合に設計が容易であることは,レンズ設計をした者なら誰でも感じているであろう。それだけ色収差補正はレンズ設計者を大きく悩ましてきた。分散(アッベ数)や部分分散の異なるガラスを組み合わせて色収差補正をするのであるが,設計のセンスのある人とない人ではガラスの配置に大きな差が出て来ると言われる。しかし,それを凌駕できるようなレンズ材料があれば,多くの光学設計者への恩恵となる。キヤノンの石橋友彦さんには,新たな光学材料の開発とそれを用いたカメラレンズの高性能化について紹介していただいた。色収差の基本的な考え方から丹念に説明していただき,新しい材料の有用性が良く理解できる。基本的な光学材料開発にもまだまだ未知の領域があることが示された。
カメラレンズ,特に大判カメラや一眼レフでは,ピントが外れた物体の像が作るボケ味というものが非常に重要である。しかし,画面中にある豆電球の像がデフォーカスしても,そのボケ像は輪郭のはっきりした大きな円になり,あまり味わいが良くない。これを滑らかにぼかすために球面収差を意図的に発生させる手法があるが,前ピンと後ピンではボケの様子が異なり,十分な効果は得られなかった。レンズの瞳周辺で透過率の下がるAPDフィルター(アポダイゼーションフィルター)というものを考案することで,この課題が劇的に解決された。富士フイルムの近藤茂さん,青木貴嗣さんに,このフィルターの特徴とこれを用いたレンズでの撮影効果について紹介していただいた。ここでも,材料開発の重要性があらためて認識された。
超解像技術がさまざまな分野で要求されており,さまざまなアイデアが生まれている。難しい理論を駆使したものが多い中,オリンパスの鈴木良政さんの開発した輪帯照明顕微鏡は,光線という分かりやすい概念で理解できる大発明である。その効果はノーベル賞を受賞した位相差顕微鏡に匹敵し,ハロー(位相差が生じている境界付近に生じるフレアーのようなもの)が発生しないことで細胞内の見えが良くなるという点では位相差顕微鏡を凌駕しているとも言える。また,従来の光学顕微鏡の中に組み込むことも原理的に容易であり,生きた細胞を観察するための実用的かつ非常に有効な手法である。言われてみれば誰にも容易に理解できる原理であるが,このような着想にたどりついた経緯について「6.おわりに」に簡単に触れていただいている。多くの優れた発明発見の例に漏れず,好奇心と執念が実を結んだように思う。
ホログラフィック光学素子(HOE)を用いた小型で高性能なシースルー型ウェアラブルディスプレイ装置について,設計に特化してコニカミノルタの稲垣義弘さんに紹介していただいた。物体結像と瞳結像の関係をうまく利用してレンズ特性を理解し,基本設計に適用するという,斬新な方法を紹介していただいた。HOEは今後ますます活用されていくと予想され,設計法のさらなる発展が望まれる。ここでの設計手法は非常に興味深く,HOE以外の一般の光学系にも適用できるかと思う。
広配光で点光源に近い放射状の光を生みだす高効率でコンパクトな光学素子について,東芝の大野博司さんに紹介していただいた。具体的に分かりやすく示されており,設計の難しさや面白さの一端が非専門家にも理解できるように述べられている。エタンデュの法則による基本的な設計パラメーターの関係式の導出などは興味深い。引用文献の中にある教科書はすべて英文であるように,従来の日本の教科書では,結像光学系の中で用いられる照明光学系についてはかなり議論がなされているが,室内照明,ヘッドライト,ディスプレーバックライトなどの純粋非結像光学系についてはあまり記述されていない。学会での議論も欧米に比べて盛んでないように思われる。非結像光学系についての議論が盛んになり,優れた日本の教科書が書かれることが望まれているのではないだろうか。
2014年のノーベル化学賞は最先端技術を応用した超解像顕微鏡であるが,さらに開発が進められている。池滝慶記さん(オリンパス,北里大学),熊谷寛さん(北里大学),ナンドール・ボコルさん(ブダペスト経済工科大学)には,ノーベル賞の対象であったSTED(Stimulated Emission Depletion)顕微鏡の改良として,ラゲール・ガウシアンビームをイレース光(消去光)に用いた超解像顕微鏡技術について分かりやすく紹介していただいた。古典的な顕微鏡に比べて,明らかな解像力の向上が見られる。結語に書かれているように,輪帯限界照明顕微鏡イレース光の照明法を工夫すれば,深さ方向の分解能も回折限界を突破できることを提案している。機会があればこの手法についても解説をお願いしたいと思う。
ノーベル賞の対象にはならなかったが,構造化照明を用いた超解像蛍光顕微鏡は盛んに研究され,大いに役立っている。構造化照明では周期的な照明パターンの位相をずらし,また方向を変えて,計9回の画像を取得して,画像処理によって再構成する。これを改良して実時間で画像を取得するために,照明パターンと像面上に置かれた周期パターンを同期させるという優れた手法を,理化学研究所の岡田康志さんに原理から解説していただいた。従前にも,モアレ縞を走査するという手法がLukoszなどによって提案されているが,今回は構造化照明と蛍光を用いて真の超解像を実時間で達成している。周辺技術の発展も寄与しており,共焦点顕微鏡のスキャニングパターンに適切な周期パターンを用いることで実現している。
レンズ設計の基本から最先端の光学系まで,最近のレンズ光学の進展について解説していただいた。レンズ光学にはまだまだ解決しなければならない基本的な課題があるとともに,大きく羽ばたける余地があると思われる。誰もが気づかずに見逃した素晴らしい光学系のアイデアが,どこかに埋もれているかもしれない。たゆまなく追求することで想像を超えた閃きに出会うかもしれない。レンズ光学はいつまでも輝くであろう。
広告索引
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