OplusE 2017年3月号(第448号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
超高速イメージングの最前線
- ■特集にあたって
- 慶應義塾大学 神成 文彦
- ■マルチチャンネル方式を用いた超高速カメラの現状と撮影例
- ナックイメージテクノロジー 佐々木 裕康
- ■シリコンイメージセンサー・光学・信号処理の融合による超高速時間分解撮像のコモディティ化
- 静岡大学*,静岡大学 創造科学技術大学院**,光産業創成大学院大学*** 香川 景一郞*,望月 風太**,沖原 伸一朗***,徐珉雄*,安富 啓太*,川人 祥二*
- ■偏光高速度カメラによる音のイメージング計測
- 早稲田大学*,フォトロン** 及川 靖広*,石川 憲治*,大沼 隼志**
- ■画像サンプリングを応用したX線ストリークカメラによる超高速2次元イメージング
- 大阪大学 白神 宏之
- ■フーリエ光学を応用した超高速イメージングSTAMP
- 東京大学 中川 桂一
- ■レーザーホログラフィーが可能にする超高速イメージング-光の伝播の2次元ならびに3次元動画像記録と観察-
- 京都工芸繊維大学*,久保田ホログラム工房** 粟辻 安浩*,久保田 敏弘*,**
特別企画
- ■国際画像機器展2016 特別招待講演
- 日立製作所 村上 智一
連載
- ■【一枚の写真】黒鉛を超伝導にするカリウム原子の並ぶ様子を可視化
- 奈良先端科学技術大学院大学 松井 文彦
- ■【私の発言】あとから見ると無駄な計算でも,その答えから「ああそうか」と思うことがある
- 宇都宮大学オプティクス教育研究センター特任教授 一般社団法人日本光学会会長 黒田 和男
- ■【第11・光の鉛筆】15 Schrödingerの色彩論2 アフィン変換と混同色
- 鶴田 匡夫
- ■【干渉計を辿る】第3章 面形状測定用干渉計 3.3 究極の絶対精度干渉計-PDI
- 市原 裕
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第49章 地球を一つに:光通信システム(その3)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■コンピュータイメージフロンティア
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】引き出す方式のしかけ絵本
- 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
写真はlight-in-flightホログラフィーを用いてピコ秒光パルスが平板ガラス内の伝播する様子を写した,時間的にも空間的にも連続な動画像から抜き出したもの。各写真の間隔は49ps。(関連記事「レーザーホログラフィーが可能にする超高速イメージング-光の伝播の2次元ならびに3次元動画像記録と観察-」京都工芸繊維大学 粟辻 安浩ほか:詳細は281ページ)
特集にあたって慶應義塾大学理工学部 神成 文彦
超高速イメージングの最前線
本号の特集テーマである「超高速イメージング」は異なる意味で使われる場合がある。通常は目にとまらない現象をスローモーションで再生できるようにコマ撮り計測することをさすが,最近では,バイオイメージングのように,超高速な走査型顕微計測によって2次元,3次元の像を再構築する際にも「超高速イメージング」という言葉が使われている。超高速な走査型計測技術を駆使することで,ブラウン運動程度の動きは像再生可能である。つまり,超高速な現象のイメージングと,比較的動きのゆっくりした現象の像を超高速に計測する技術が開発されている。今回の特集は前者である。ただし,前者の場合にも,大きく分けて2つのカテゴリーに分けることができる。すなわち,再現性が極めて高い高速現象であれば,「瞬間」の像を高い時間分解能で計測し,「瞬間」をずらして何度にも分けて計測することで時々刻々変化する現象のコマ撮りを並べることは可能である。一方,再現性に乏しい現象はこの繰り返し計測法では対処できないため,単発現象を高速にコマ撮りする手法が必要となる。本特集は,この単一ショットでのコマ撮り計測法についての技術の最前線を取り上げた。読者の多くは,高速現象をスローモーションで再現する例として,ミルクの王冠や弾丸が物体を貫くイメージや,スポーツにおけるボールのインパクトの瞬間,エアーバックの作動,など多くの動画を思い浮かべるであろう。実際,この手のサンプルはインターネット上に探すことは容易である1)。我々の目の応答速度は,1秒間に30フレームのビデオ動画で十分に連続的な動きと捉えてしまうほど遅いので,それ以上の高速現象には目が追いつかない。ミルクの王冠や車の衝突時の機械的変形,エアーバック等はせいぜい数ミリ(10−3)秒の時間分解能がある撮像法であれば,我々の目が追いつく1秒間に30フレームの動画でスローモーション再生可能である。さらに3桁時間分解能を上げると,インクジェットプリンターにおけるインク射出や,水中で局所的に光や衝撃波でエネルギーを与えた際に起きる泡の発生(キャビテーション)を捉えることができる。この時間分解能をマイクロ(10−6)秒からさらに3桁上げたナノ(10−9)秒までの撮像は,いわゆる高速カメラの開発の歴史として語られる領域になる(図1)。
フィルムを用いたアナログ計測においては,フィルムを超高速に巻き上げると同時に高速シャッタあるいは高速ストロボ光源によってコマ撮り撮影は行われた。機械的な駆動部が必要なことからおおよそ1万コマ/秒,すなわち0.1ミリ秒の時間分解計測が上限であった。特別なフィルムの巻き取り方式でコマ数は少ないが100万コマ/秒も実現されたそうである。高速ストロボは,高繰り返しパルス発振レーザーの登場によって,100万回/秒以上の点滅を個々のパルス幅ナノ秒以下で実現可能であるため,パルスレーザーを用いたコマ撮り撮影はレーザーの開発当初から実現されている。
一方,デジタルカメラの技術により,データ取り込みがすさまじく早いビデオカメラとして超高速カメラは大きな躍進を示すことになる。初期にはノイズで苦しんだCMOSカメラが高画質・高感度に改良されることで,通常のデジタルカメラでも1000コマ/秒を越える性能のカメラも実在する。さらに高速性を追求していくと,1億コマ/秒の超高速カメラがすでに市販製品として開発されている。10ナノ秒の時間分解能が電子式の撮像法で実現されているのは驚異的である。この超高速カメラの開発に関しては,株式会社ナックイメージテクノロジーの佐々木氏に解説をお願いしたので,撮影のサンプル画とともに楽しんでいただきたい。また,COMSデバイスのさらなる高速化については香川氏等に最近の精力的な開発動向を紹介していただいた。また,及川氏等には偏光マイクロ素子を組み込んだ最新の偏光高速度カメラの原理と音波計測への応用例を紹介いただいた。
この驚異的な高速カメラでもまだ追いつかないサブナノ秒以下の超高速現象には,フォノンが固体中を伝播する様子,磁化のダイナミクス,相変化,化学反応の分岐を決める分子の電子波束の動き,キャリアの移動,等々の分子,原子,キャリアの挙動がある (図1)。人類はすでに,レーザー技術を用いてアト(10−18)秒に迫る超短光パルスを入手しており,光波の数100テラ(1012)Hzの電界振動も可視化することに成功している。まさに電子物性を直接スローモーションで捉えられる手前まで来ている。実は,イメージングではなく電子の挙動に対応した誘電率の実部,虚部の変化であればすでに計測はできている。レーザーを用いたポンプ・プローブ法という技術である。1つの超短光パルスを2つに分け,1つをトリガーとし遅延させた2つめのパルスで誘電率等を計測する。しかしこの方法は,再現性のある現象に対して遅延時間をずらしながら計測する繰り返し計測法であるため,冒頭に述べた単一ショットのコマ撮りイメージング法にはなっていない。
この通常の超高速カメラでは到達できないサブナノ秒以下の超高速現象を捉える手法にストリークカメラがある。光電子を高速に走査させてイメージを得る手法であるが,走査が1次元方向なので高速1次元イメージング法になる。X線ストリークカメラは,レーザー核融合などの高エネルギー物理の計測には欠かせない計測器になっており,ピコ秒領域までその計測速度は向上している。1次元イメージを2次元に拡張する方法として,白神氏には永くレーザー核融合実験には利用されてきた手法を紹介していただいた。最近,画像処理技術を使って光電子を走査しないもう一方の空間軸の情報をエンコードする手法が発明され,光パルスが鏡を反射する像を動画で見せているが,像再生の精度は著しく悪くまだイメージング法としての性能は出ていない2)。
さて,撮像機器の高速性を用いたカメラ技術とは全く異なる光計測方式により通常のCCDカメラを使ってピコ秒以下の超高速現象を計測できる手法が考案された。中川氏等によるSTAMP(Sequentially Timed All-optical Mapping Photography)法である3)。原理は極めて簡単であるが,超高速レーザー技術の恩恵である。現在までに,25コマのイメージを数100フェムト(10−15)秒間隔で単一ショットで計測することに成功している。時間域フーリエ光学の賜であり,この原理はアト秒パルスとX線イメージカメラを用いれば,アト秒コマ撮りカメラに展開することも可能である。時間分解能はSTAMPには及ばないが,同じくフーリエ光学とファイバーの群速度分散を用いて周波数-時間変換法を巧みに組み合わせたSTEAM(Serial Time-Encoded Amplified Microscopy)4)という手法が開発されており,レーザーの繰り返し周波数でコマ撮り計測が可能となる。この合田氏等の成果は,本誌2016年10月号(バイオイメージング最前線)で解説されている。本特集の最後には,ホログラムを用いて超短パルス光の軌道を連続的に書き込むことで記録し,2次元,3次元的にイメージ再生するデジタルホログラムの手法を粟辻氏等にご紹介いただいた。
物性の基本となる,電子,原子がもたらす超高速な物性のダイナミクスがスローモーションで可視化できるようになったとき,科学はどのように変遷するのであろうか。動きが見えたとき,次に来るのはその動きを変化させる,制御するという段階であろう。その変化が,時間的には1010倍以上も遅い我々の生活の時間スケールの場に新しい材料特性や化学反応生成物を供給することが可能にできるなら,単なる興味本位のスローモーション動画をはるかに超えた恩恵をもたらすはずである。
参考文献
1)たとえば,以下のサイト。
株式会社ナックイメージテクノロジー https://www.nacinc.jp/
株式会社キーエンス http://www.keyence.co.jp/microscope/special/vw_9000/index.jsp/
2)L. Gao, J. Liang, C. Li, and L. V. Wang, “Single-shot compressed ultrafast photography at one hundred billion frames per second,” Nature 516, 74-77 (2014)
3)K. Nakagawa, A. Iwasaki, Y. Oishi, R. Horisaki, A. Tsukamoto, A. Nakamura, K. Hirosawa, H. Liao, T. Ushida, K. Goda, F. Kannari and I. Sakuma, “Sequentially timed alloptical mapping photography (STAMP),” Nat. Photonics 8, 695-700 (2014)
4)K. Goda, K. K. Tsia, and B. Jalali, “Serial time-encoded amplified imaging for real-time observation of fast dynamic phenomena,” Nature 458, 1145-1150 (2009)
図1 典型的な高速現象の時間スケールと計測手法の適用範囲
広告索引
- (株)アルゴ448-003
- エドモンド・オプティクス・ジャパン(株)448-997
- FITリーディンテックス(株)448-007
- オーテックス(株)448-999
- (株)オプセル448-009
- (株)セイワ・オプティカル448-008
- (株)東京インスツルメンツ448-002