OplusE 2017年6月号(第451号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
電波イメージング技術とその応用
- ■特集にあたって
- O plus E編集部
- ■アルマ望遠鏡が電波で探る暗黒の宇宙
- 国立天文台 平松 正顕
- ■全球降水観測計画GPM
- 宇宙航空研究開発機構 久保田 拓志
- ■クモデス-ミリ波分光で竜巻・ゲリラ豪雨の「予兆の予兆」を捉える
- 高エネルギー加速器研究機構 田島 治
特集補足
- ■電波・無線技術に関する規制や規格に関する話題
- 映像技術史研究家 鏡 惟史
連載
- ■【一枚の写真】屈折望遠鏡の色収差
- 東京工業大学 松谷 晃宏
- ■【私の発言】技術者になりたいという子どもを増やしたい
- 静岡大学/兵庫県立大学 寺西 信一
- ■【第11・光の鉛筆】18 ICO(1964)国際会議東京・京都インタビュー再録-ICO-24(2017)東京開催に寄せて-
- 鶴田 匡夫
- ■【波動光学の風景】第124回 126. 平面波と屈折率面
- 東芝リサーチ・コンサルティング 本宮 佳典
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第52章 忘れないで:光ディスクメモリー(その3)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■コンピュータイメージフロンティア
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】初期のテレビジョン研究の走査光学系から
- 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
全球降水観測計画(Global Precipitation Measurement:GPM)主衛星に搭載された,二周波降水レーダ(DPR)は3次元的な観測が可能である。図はGPM主衛星による台風16号の降水観測結果で,台風の渦巻き状の水平分布と共に,高さ15km付近にまで達する背の高い降水の鉛直構造を捉えている。(関連記事「全球降水観測計画GPM」宇宙航空研究開発機構 久保田 拓志:詳細は547ページ)
特集にあたってO plus E編集部
電波イメージング技術とその応用
1.はじめに今号の特集では「電波イメージング」を取り上げている。これは「赤外線イメージング特集」(2016年4月号),「テラヘルツ波応用の可能性」(2016年12月号)に続いての特集である。今回取り上げているのは,電波の中でも周波数が比較的高い,いわゆる広義の“マイクロ波”と呼ばれている電波域が中心である。
広義の“マイクロ波”は,300MHz~300GHz帯の電磁波を示す。波長では,1m~1mm程度の電波域である。いずれにしても,光ではなく,電波の領域である。光との根本的な違いは,(電)波として,直接検出できることである。光の分野の用語では,“コヒーレントに波を操作できる”ことである。発信・検出器の大部分はアンテナであるが最近は新しい発信デバイスや検出デバイスも使われつつある。
さて,広義の“マイクロ波”の範囲は国際電気通信連合(ITU)憲章の無線通信規則や国内法の電波法施行規則で決められたUHF(デシメートル波),SHF(センチメートル波),EHF(ミリメートル波)のすべてを含む帯域にあたる。つまり,広義の“マイクロ波”という呼称は,これらの法規によって決められたものではなく,世界中の関係者によって1930年ごろから呼び習わされてきたものである。
1930年ごろに超短波を上回る高い周波数の発振に成功し,通信回線の広帯域化,多重化を達成したが,当時,実現できた最短の波長帯であったこの周波数帯を研究者や技術者たちが,“マイクロ波”と呼んだのである。この“マイクロ波”は,あらゆる無線通信技術に応用された。一例を示せば,レーダ,マイクロ波着陸システム(MLS),マイクロ波中継,放送番組中継,衛星通信,衛星放送,電波天文学,気象衛星,リモート・センシング(遠隔探査),無線LANなどである。なお,2012年の総務省の文書1)では,3GHzから30GHzの範囲,すなわち,SHFに相当する範囲を,(狭義の)“マイクロ波”と呼んでいる。なお,余談であるが,電子レンジは,米国では,“micro-wave oven”と呼ばれており,マグネトロン(一種の真空管)により,2.45GHz(波長:12.2cm)のマイクロ波が使われている。1945年に米国で軍事用レーダの研究している時に偶然に発明された。
電波としてみると,波長が短く(周波数が高く)なるほど,指向性が強くなり,伝送できる情報量が増える。1960年代には,これから先,必要になる伝送情報量の増加のために,有線通信のためのマイクロ波のデバイスや導波(路)管の研究が精力的におこなわれたが,光ファイバー通信の実用化により,これらの研究は急激に少なくなった。しかし,近年この分野は,スマートフォンの急激な普及により,より高い周波数帯の無線通信技術の開発が進められている。しかし,このような無線通信だけではなく,色々な分野で“イメージング技術”としても,活躍している。上述のように“マイクロ波”は2つの異なった意味で使われていることもあり,本特集では,「電波イメージング技術とその応用」としている。
この領域の電波の分類とそれぞれの電波の利用分野を表1に示す。この中でイメージングに関連しているのは,主にレーダ(radar: RAdio Detecting And Ranging)分野と電波望遠鏡の分野である。レーダは,アンテナから電波を発信・アンテナで受信するいわゆる“アクティブ型”であるのに対して,電波望遠鏡は宇宙からの電波を受信することにより,宇宙の像を合成する“パッシブ型”である。本特集では,これらの電波を使ったイメージング技術として,電波望遠鏡,レーダについて特集を組むことにした。
本特集では,最近新しい観測結果が次々とでているアルマ電波望遠鏡による観測結果を中心に,電波望遠鏡の原理を含めて,国立天文台チリ観測所の平松正顕氏に紹介していただいた。この電波望遠鏡で観測される最も周波数が高い「バンド 10」の範囲は,787~950GHzであり,これは真空中の波長では,0.381~0.316mmのサブミリ波である。
レーダは軍事用,船舶用,航空用,気象用,車載用などさまざまな分野で利用されている。主に使用されるのは100MHz~40GHz(波長:3m~7.5mm)であり,気象レーダでは,水滴や雪の粒でよく反射される8~12GHz(波長:3.75~2.50cm)や20GHz(波長:8.5mm)が使われる。また,最近ADAS(Advanced Driver Assist System)や自動運転のための車載レーダでは,近距離として24GHz(波長:12.5mm),26GHz(波長:11.5mm),79GHz(波長:3.8mm)が,長距離として76GHz(波長:3.9mm)が利用されている。
そこで本特集では,宇宙航空研究開発機構の久保田拓志氏には,熱帯降雨観測衛星TRMMによる全球降水観測計画(Global Precipitation Measurement:GPM)についてご紹介いただいた。
また,高エネルギー加速器研究機構(KEK)の田島 治氏に高感度ミリ波分光観測器“KUMODeS”(クモデス)をご紹介いただいた。この“クモデス”は18~32GHz(波長:16.6~9.4mm)と50~60GHz(波長:6~5mm)の二つの帯域で大気水蒸気量の局所的な変化を観測し,竜巻・ゲリラ豪雨の「予兆の予兆」を捉えるものである。
いずれにしても,この分野は,本誌「O plus E」の多くの読者にとっては,なじみ少ない分野であると思われるので,以下に簡単な説明をすることにする。
2.高周波用発振・増幅デバイスについて
高出力発振・受信用増幅デバイスとしては,現在でも,クライストロンや進行波管(Traveling Wave Tube, TWT)などの一種の真空管が使われているが,小出力用としては,高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor, HEMT)が広く使われている。HEMTではガリウム・ヒ素基板が使われていたが,最近では,シリコン・ゲルマニウム基板が使われるようになり,車載ミリ波レーダなどの値段が下がっている。
3.日本の地上気象レーダ
気象レーダは,アンテナを水平方向に360度回転させながら電波(マイクロ波)を発射し,半径数百kmの広範囲内に存在する雨や雪を観測する。発射した電波が戻ってくるまでの時間から雨や雪までの距離を測り,戻ってきた電波(レーダエコー)の強さから雨や雪の強さを観測する。また,戻ってきた電波の周波数のずれ(ドップラー効果)を利用して,雨や雪の動きすなわち降水域の風を観測することができる。
気象庁は1954年に気象レーダの運用を開始し,現在,全国に20か所(札幌,釧路,函館,秋田,仙台,新潟,長野,東京,静岡,名古屋,福井,大阪,松枝,広島,室戸岬,福岡,種子島,名瀬,沖縄,石垣島)に設置(地上10~69m)して,日本の海域を含むすべての領域をカバーしている2)。
気象レーダで観測した日本全国の雨の強さの分布は,リアルタイムの防災情報として活用されるだけでなく,降水短時間予報や降水ナウキャストといった予報の作成にも利用されている。使われているレーダの周波数は,5.300~5.370GHz(波長:5.586~5.660cm)で,雨粒や雪の粒で反射されやすい周波数である。
この運用により,かなり正確に天候の様子と近い先の天気予報が出せるようになった。しかし,気象条件によっては,たまではあるが,誤観測する場合もあり,より正確な観察ができる研究が現在も続けられている。
4.車載ミリ波レーダ
車載ミリ波レーダは,以前は,国際的に76~77GHz帯(波長:3.9mm)で,帯域幅が0.5GHzと決められていたが,2013年の国際会議により,これに加えて,79GHz帯(波長:3.8mm),帯域幅:4GHzも使えるようになり,より分解能が高くできる可能性がでてきた3)。
車載用障害物検出センサとして使われる,(可視(ステレオ),赤外線)カメラやLidar(レーザレーダ)は,雨,雪,霧などの天候や逆光などに影響されやすいのに比べて,ミリ波レーダはそれらに影響されない利点があり,ADASや自動運転のための複数同時に働かせるいわゆる“センサーフュージョン”の一つのセンサとして,開発が進み,単体として市販あるいはオプションとして搭載されつつある。値段的にも2~3万円程度に下がったことも普及に拍車をかけている。
5.建造物の検査
電磁波は周波数が高くなる(即ち波長が短くなる)と,吸収・散乱が大きくなり,透過しにくく(即ち不透明に)なっていく。コンクリートなどの建造物の壁も同様の特性を示す。10GHz以下の周波数の電磁波(即ち電波)を用いて,コンクリートの壁の内部の亀裂を検査する研究が続けられている。
この分野は日本の経済が急速に発展した時期に作られた橋,大きいビル,トンネルなどの社会インフラの寿命が近づきつつある現在,非常に重要な技術である。そのための技術開発がおこなわれている4)。
6.おわりに
可視&(近)赤外光,テラヘルツ波,電波可視&(近)赤外光,テラヘルツ波,電波と,それぞれの電磁波で特性が異なるが,相互補完する形でのイメージングの研究が進んでいる。可視&(近)赤外光,テラヘルツ波,電波,それぞれの電磁波によるイメージング法の特徴などについては,参考文献4)の表1が詳しい。今後も発展が予想される電波イメージングであるが,その動向についていくばくかでも興味を持っていただければ幸いである。
参考文献
1)“情報通信白書平成24年度版”,総務省,p.354(2012)
http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h24/pdf/n4070000.pdf
2)http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/radar/kaisetsu.html
3)大口勝之,生野雅義,岸田正幸:“自動車用79GHz帯 超広帯域レーダ”,富士通テン技報,vol.59,pp.9-14(2014)
4)永妻忠夫,福永 香:“マイクロ波・ミリ波を用いた建造物のイメージング技術”光技術コンタクト,Vol.12,p.41-47(2016)
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- (株)オプセル451-008
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