OplusE 2017年11月号(第456号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
今注目される中赤外レーザーとその応用
- ■特集にあたって
- 慶應義塾大学 神成 文彦
- ■中赤外光を用いたヘルスケア機器開発-非侵襲血糖測定システムの現状とこれから-
- 東北大学 松浦 祐司
- ■中赤外レーザーのビーム走査と非侵襲生体細胞観察システム
- 宇都宮大学 東口 武史
- ■3.2 μm帯高効率中赤外レーザーによるCFRPのレーザー超音波探傷への応用
- 物質・材料研究機構*,東京大学** 渡邊 誠*,**,畑野 秀樹*,草野 正大*,竹川 俊二*,山脇 寿*
- ■電子波長制御Cr:ZnSeレーザーと遠隔環境計測への応用
- 理化学研究所 湯本 正樹,斎藤 徳人,和田 智之
- ■量子カスケードレーザーとその応用
- 東芝 斎藤 真司
- ■InAsSb赤外線検出素子の長波長化
- 浜松ホトニクス 朝倉 雅之
- ■赤外自由電子レーザーによる基礎研究の現状
- 東京理科大学 築山 光一
連載
- ■【一枚の写真】複眼カメラTOMBOが実現する高機能デジタルデンタルミラー
- 静岡大学 香川 景一郎
- ■【私の発言】人を引き付けるようなテーマを見つけて光学を盛り上げてほしい
- 東京工芸大学 中楯 末三
- ■【第11・光の鉛筆】22 RGB表色系とXYZ表色系
- 鶴田 匡夫
- ■【干渉計を辿る】第5章 非球面計測用干渉計 5.1 いろいろな非球面計測法
- 市原 裕
- ■【光エレクトロニクスの玉手箱】第57章 目にも鮮やかディスプレイ(その4)
- 伊賀 健一,波多腰 玄一
- ■コンピュータイメージフロンティア
- Dr.SPIDER
- ■【ホビーハウス】動かすしかけ絵本の発展
- 鏡 惟史
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■書評「細胞生物物理学者への道 – 井上信也自伝-」/NPO法人 三次元工学会 吉澤 徹
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)材料は,さまざまな用途で使用されているが,その品質管理には非破壊・非接触で効率のよい検査が必要とされている。写真は中赤外レーザー超音波検査によるCFRPの欠陥検出例である。(a)は16 J,(b)は25 J でCFRP材にステンレス球を落下させた場合で,明るく示されている領域が,層間剥離の発生領域である。(関連記事「3. 2 μm帯高効率中赤外レーザーによるCFRPのレーザー超音波探傷への応用」物質・材料研究機構 渡邊 誠ほか:詳細は1075ページ)
特集にあたって慶應義塾大学 神成 文彦
今注目される中赤外レーザーとその応用
最近のレーザー装置開発研究に関連した国際会議では,光源開発の研究発表の6割以上を中赤外領域(2~25 μm)が占めている。その背景には,波長1 μm帯での固体(主としてファイバー)レーザーの高出力化がkWレベルに達し,その高調波(2~4倍波)発生によって短波長域の光源開発がある程度ネタ切れになってきている事実があり,一方で,長波長域では新しいレーザー媒質の開発を含めた研究が新しい可能性を見せており,特に希土類イオン添加のファイバーレーザーが周波数コム的な動作を含めて成熟の途にあるためであろう。さらには,もともと,レーザーの得意な分光応用において,分子の振動遷移は赤外領域に分布しており,高精度で分子同定が可能になることで環境計測や微量物質計測という応用が広がりを見せられるという具体的な応用が存在するためである。代表的な気体分子の吸収帯に関しては,朝倉氏の解説の図1を参照されたい。特筆すべきなのは,水分子の吸収である。水分子は,4000~3400 cm-1と2000~1300 cm-1に吸収帯をもち,前者にはOH基やNH基などの吸収ピークが含まれ,後者にはC=O基やCH2基の吸収ピークが存在する。水分子の吸収帯を避けて分光することで,生体内分光や環境計測が可能になるので,波長選択制に優れた中赤外レーザーの開発は必須である。これまで,限られた分子を用いた気体,液体レーザー,特殊な半導体レーザー,あるいは非線形光学効果を用いた微弱な周波数変換で行われてきた中赤外波長での光学が,分光学的なセンシングのみならず,十分に高いコヒーレントなエネルギーをもって,物質と光の相互作用という形で実現することが可能になってきた。長波長光のもうひとつの利点は,散乱係数が低い点にある。そのため,光トポグラフィー,多光子励起蛍光顕微鏡,光コヒーレンストモグラフィ(OCT)など,生体深部に励起光あるいはプローブ光を侵達させるためには,水分子の吸収を避けてかつ長波長であることが望ましくなる。加えて,多光子励起,OCTでは超短パルスレーザーが有用でありフェムト秒中赤外レーザー開発の大きな原動力となっている。本特集では,生体ではなく炭素繊維強化プラスチックの内部損傷を非侵襲で計測する例を渡邉氏等に解説いただいた。
光応用において重要なのは,光源のみならず導波路と検出器である。光ファイバーおよび検出器の開発も近年の光源開発と同調して進展が著しい。1.5~10 μm帯の伝送用光ファイバーは,As2Se3カルコゲナイド系ファイバーが有名であるが,フッ化物ファイバーも285 nm ~4.5 μm(フッ化ジルコニウム)または310 nm ~5.5 μm(フッ化インジウム)のスペクトル域で高い透過率を実現できる。一方,検出器は,感度の高い赤外半導体検出器はかなり材料が限定され,かつ背景放射のノイズを低減するために冷却が必須であった。本特集の朝倉氏の解説にあるように,InAsSb素子が規制対象元素を含まないだけではなく波長帯3~11 μmでの広帯域で動作が可能になった点は大きなブレークスルーである。
このような導波路および検出器の開発に後押しされ,さまざまな手法で実現されているコヒーレント光源開発であるが,その中心は量子カスケードレーザー(QCL)であろう。QCLに関しては本誌2012年10月号の解説論文にも取り上げたように,半導体量子井戸中に形成されるサブバンド間の電子遷移を利用した半導体レーザーである。2002年に室温レーザー発振が実現され,4~10 μm帯のレーザー光源がすでに市販されている。その長波長化はTHz領域まで研究が進んでおり,ますます将来が嘱望される。本号では,QCLを用いた微量ガス検出の応用について斎藤氏に解説いただいた。
レーザー開発においてにぎわいを見せているのはQCLの進展だけではない。長波長のコヒーレント光発生には,他にも,固体レーザーによる直接レーザー発振,自由電子レーザー,光パラメトリック効果による波長変換,差周波数混合,ラマンシフトがある。新しい材料として最も注目を集めるのが,Cr:ZnSe結晶である。
ZnSeやZnS等の化合物に遷移金属イオンを添加した結晶は,2.2~2.7 μm帯の中赤外領域において広帯域な利得が得られることは知られていたが,注目されるようになったのは励起に必要な1.6~2 μm帯のレーザーがTmあるいはHoといった希土類イオン添加ファイバーレーザーの高出力化によって現実のものとなった近年のことである。波長可変であり,またモード同期によってフェムト秒レーザーパルスも得られることから,大きな注目を集めている。本特集では,Cr:ZnSeレーザーとさらにZnGeP2結晶を用いた光パラメトリックパルス発振器によって長波長変換して化学剤の遠隔検出に用いようとしている研究を湯本氏等に解説いただいた。
2次の非線形光学を用いた光パラメトリック波長変換は長波長域のコヒーレント光を発生するためには非常に有用であり,前述のZnGeP2やAgGaSe2,GaAs,CdSiP2,BaGa4Se7のような近赤外から可視域とは異なる化合物結晶が使われる。一方,分子分光の際に重要なのは,プローブ光の狭線幅と波長可変性である。最近は,高安定な周波数コムに周波数ロックした2種類の近赤外レーザーの差周波数波発生によって超狭線幅でかつ周波数同調可能な3.4 μm帯の差周波光が開発され,メタン分子の56本の遷移周波数を10 kHz以下の不確かさ(10-10以下の相対不確かさ)で計測が実現されている。分子の指紋領域での高精度分光がこういった中赤外レーザーの出現によって加速されるものと大いに期待される。一方,周波数コム自体もさらに長波長化することで,Dual周波数コムのような機能性を長波長で享受しようという研究も進められているが,直接発振するレーザーの場合,現状では4.5 μm程度までであるので,広帯域な光パラメトリック増幅器の実現が重要となる。 長波長域のレーザーパルスを科学的に応用する利点の根拠となる物理に,光のポンデロモーディブエネルギーがある。これは,最もシンプルにはレーザー電界中における荷電粒子の振動運動のエネルギーの時間的平均値のことである。このポテンシャル力は自由電子にのみ作用するのであるが,レーザー強度に比例し,レーザー場の波長の2乗に比例する。従って,同じレーザー強度であれば長波長ほどこのポテンシャル力は大きくなる。最近,高強度フェムト秒レーザーの高次高調波発生によるアト秒パルス発生において,その高出力化と短波長化が各国で競って研究されているが,その際,このポンデロモーディブエネルギーを高めた場で原子のイオン化と再結合を行うことが重要になる。そのため,長波長高出力フェムト秒レーザーの開発は,今や中赤外領域にシフトし,高出力パラメトリック増幅器による広帯域中赤外レーザーパルス発生が競われている。
本特集号では,おそらく最も近未来に実現するであろう生体計測について,松浦氏にご投稿いただいた。呼気や血液検査によってモバイル的な健康診断をするビジネスは安価な光源と計測装置によって実現間近である。一方,本特集のテーマとは一見かけ離れている軟X線光源を用いた細胞イメージングであるにおいて,その軟X線を発生できるプラズマ生成に波長10 μmの長波長レーザーパルスが用いられている。まさに次世代EUV半導体リソグラフィー用のレーザー生成プラズマ光源の応用である。東口氏にその取り組みを解説いただいた。自由電子レーザーは,X線領域でのSACLA(理化学研究所)が有名であるが,周期的磁場分布のピッチを長くすることで長波長のレーザー発振も可能となり,5~14 μmで波長可変な装置が実在する。装置規模は巨大ではあるが,材料化学への長波長レーザーの機能性を調べる基礎実験には有用である。すでに,生体材料等の構造変化が築山氏らによって観測されており今後の基礎研究の成果が期待される。
広告索引
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