OplusE 2019年5・6月号(第467号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
ヘルスケアに役立つ光技術
- ■特集にあたって
- 元東海大学 後藤 顕也
- ■液晶ディスプレイ用TFT 基板の細胞培養・計測システム応用
- 東京大学*,シャープ** 年吉 洋*,井樋田 悟史*,**,ティクシエ三田 アニエス*
- ■最新医用画像は生体の機能を描出する
- 福島県立医科大学 久保 均
- ■吸光度差を利用した生体情報計測
- ジーニアルライト 藤田 達之
- ■特殊光を用いた消化管がんの診断
- 島根大学医学部附属病院 柴垣 広太郎
- ■蛍光プローブの精密設計に基づく迅速蛍光がんイメージング
- 東京大学 大学院医学系研究科*,東京大学大学院 薬学系研究科** 神谷 真子*,浦野 泰照*,**
- ■光線力学的不整脈アブレーションのための環状POFカテーテルの開発
- 慶應義塾大学*,北里大学** 荒井 恒憲*,小川 恵美悠**
- ■生体内の分子・機能を観るバイオイメージング技術
- 北海道医療大学 谷村 明彦
- ■タイムゲート法:植物における蛍光バイオイメージングの技術革新
- 宇都宮大学 児玉 豊
特別企画
- ■国際画像機器展2018 特別招待講演【自動運転】
- 明治大学/自動運転社会総合研究所 中山 幸二
- ■国際画像機器展2018 特別招待講演【ロボットビジョン・セキュリティ】
- 産業技術総合研究所/東京工業大学 田中 正行
連載
- ■【一枚の写真】スプレー塗布で作るフレキシブル圧電デバイス
- 熊本大学 中妻 啓
- ■新連載【oe 玉手箱のけむり】その1 レーザーと偏波
- 伊賀 健一
- ■【私の発言】工学を学ぶメリットは分析して思考する力をもてることでありどんな分野にも応用できる
- ニューサウスウェールズ大学 Scott Tyo
- ■【輿水先生の画像の話-魅力も宿題も-】第9回 続・万能型画像検査,KIZKIアルゴリズムと機械学習―画像検査,ヒトのやること機械にできること―The Sequel: KIZKI an Omni-potent Algorithm and Machine Learning in Image Inspection- What Human do and What Machine can do –
- YYCソリューション/中京大学 輿水 大和
- ■【光学ゼミナール】第9回 光学素子
- 宇都宮大学 黒田 和男
- ■【波動光学の風景】第136 回 138. 白雲母の結晶構造
- 東芝 本宮 佳典
- ■【干渉計を辿る】第11章 コヒーレンスとその制御 11.3 空間的コヒーレンスとその制御
- 市原 裕
- ■【霜田光一に聞く電波と光の最前線開拓】第ⅴ章 教育の場で~教科書,カリキュラム研究,実験教室~
- ヒアリンググループ
- ■【研究室探訪】vol. 9 慶應義塾大学 理工学部 満倉研究室
- 慶應義塾大学 理工学部 満倉研究室
- ■【国立天文台最前線 第7回 地球から一番近い恒星の謎を解く太陽観測科学プロジェクト
- 荒舩 良孝
- ■【ホビーハウス】ステレオ写真の本(第109回)目がよくなる本の大増殖
- 鏡 惟史
- ■【コンピュータイメージフロンティア】『アラジン』『空母いぶき』『神と共に』『レプリカズ』ほか
- Dr.SPIDER
- ■【ホログラフィ・アートは世界をめぐる】第9回 旅するホログラム part 1
- 石井 勢津子
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
写真は3 mmの小さな胃がんの内視鏡像である。左の写真は通常の白色光だけによる内視鏡像であり,右の写真は狭帯域光画像(NBI)による拡大内視鏡像である。NBI拡大内視鏡像では,がんと周囲粘膜の「胃腺開口部のかたち」が明瞭で,がん部の胃腺開口部は,周囲粘膜よりたいへん不規則であることがわかる。これにより,高い精度でがんを発見でき,がんと良性ポリープの鑑別にも有用である。(関連記事「特殊光を用いた消化管がんの診断」島根大学医学部附属病院 光学医療診療部 柴垣 広太郎:詳細は379ページ)
特集にあたって元東海大学開発工学部 後藤 顕也
ヘルスケアに役立つ光技術
雑誌O plus Eは1979年に創刊された光学,光エレクトロニクス,画像工学,レーザー技術応用等を特集して光学と電子産業とを結びつける技術情報誌であるが,2018年は「O plus E 再スタート」の年であったように思われる。すなわち,隔月発行に踏み切ったために,1冊あたりのページ数が増え,掲載内容がとても重厚になってきている。読者からの評判は発行ごとに良くなってきていると思われるので,これからも,この調子で内容の向上を続けることを願うところである。さて,筆者が関心を抱いている医療への光応用やバイオエレクトロニクスに関しての特集は,2015年5月号に「医療を支える最新光技術」,2016 年10月号では,「バイオイメージング最前線」の特集が発行されてきている。
すでに2~3年以上も経過しているので,編集部にお願いし,「ヘルスケアに役立つ光技術」の特集を企画していただいた。医療エレクトロニクス研究者の第一任者に執筆していただいくことができたと思っている。本号では,まず,「液晶ディスプレイ用TFT基板の細胞培養・計測システム応用」と題して,TFT半導体基板を使って,細胞培養の様態や分化の過程を光学顕微鏡によるイメージングやTFT薄膜トランジスター応用の定量計測システムについて,東京大学生産技術研究所とシャープ株式会社の共同研究成果を,東大の年吉洋先生らに詳しく記述していただいた。相対的なイメージングだけでは,各患者の病状程度の絶対値がわからないという欠点に対して,年吉先生の試みのように,定量計測や指標をつくるためのイメージングバイオマーカーを説明しておられる点がとても良いと思われる。
福島県立医科大学の久保均先生には,「最新医用画像は生体の機能を描出する」と題して,X線CT画像やMRI画像を例にとって説明していただいた。生体の構造や機能を画像として捉えるための分子イメージング,量子イメージング,代謝イメージング,それらを統合し,多元的に解析・評価するためのバイオシミュレーター,また,前述のように,イメージング技術を応用した生体治療技術に関する研究の紹介の一旦として,治療効果や治療戦略の指標にできる可能性のあるイメージングバイオマーカーについても述べられている点が素晴らしいと思われる。
吸光度の差を利用した生体情報や⊿ヘモグロビン度の計測に関し「吸光度差を利用した生体情報計測」と題して,ジーニアルライト株式会社の藤田達之氏には,アルプスアルパイン株式会社(旧:アルプス電気株式会社)が長年培ってきた高精度部品加工技術,高密度部品実装技術や生産技術とジーニアルライト社がもつ高度な光計測技術をベースとする医療機器およびヘルスケア機器開発技術を融合させ,超小型・高精度な生体センサーの技術構築および開発に向けた可能性の検証を行いながら開発されたモジュール製品を詳しく紹介していただいた。その特徴は,①人体を透過する近赤外波長:安全で体内の水分の影響を受けにくい波長帯を選定する,②非侵襲:肌に触れるだけで生体内情報を取得(5秒で脈拍,⊿Hb相対変化測定等)できる,③簡便性:ワイヤレス,ウェアラブル(開発品:光センサー部のみで2.2 gの軽量),④応用展開:人,動物,装置への応用展開が可能であることを,生体情報計測に関して述べていただいた。
島根大学の柴垣広太郎先生には,「特殊光を用いた消化管がんの診断」と題して,レーザー光やLED光などの狭帯域光を使った画像(NBI)について,胃などの消化管内のがん診断による詳しい画像を使ってわかりやすく説明していただいた。カラー画像は誌面の都合により,本誌表紙の画像でご参照いただきたい。これは3 mmの小さな胃がんの内視鏡像と組織像とを示している。写真左は,粘膜の色が慢性胃炎の進行につれて褪色し,赤・黄・白のまだら模様になるため,白色光照射だけで胃がんと診断するのは難しいらしく,写真右のように,白色光ではなく,狭帯域光(具体的には415 nmと540 nmLED光)の照射による画像は,がんと周囲粘膜の胃腺開口部のかたちの違いが明瞭となっている。
東京大学の神谷真子先生らには,光を使ったがん診断やがん治療技術の研究として,「蛍光プローブの精密設計に基づく迅速蛍光がんイメージング」と題して,その応用としてのがん治療を詳しく述べていただいた。がんに侵された内臓臓器にプローブと特定の波長の光を照射すると,がん細胞のみが選択的にイメージングされる。また,応用として,選択的な光線力学的治療法の確立も目指していらっしゃるそうなので,機会があれば,また執筆をお願いしたいご研究である。
慶応義塾大学の荒井恒憲先生らは,「光線力学的不整脈アブレーションのための環状POFカテーテルの開発」と題して,局所癌治療に用いられる光線力学的治療を不整脈アブレーション(心房細動という不整脈の場合,左心房にある肺静脈の血管内やその周囲から発生する異常な電気信号を契機に起こるため,通常4本の肺静脈を囲むようにしてアブレーションの治療を行い,肺静脈からの異常電気信号が,心臓全体に伝わらないようにする)治療用に応用されるだろうとの着想により環状のプラスチックファイバー(POF)カテーテルを開発され,レーザー照射性能と光ファイバーカテーテル性能の両立を目指された新カテーテルを開発されておられる。後述のように,日本における基本的な素材技術開発の力が弱いことを嘆いておられる。筆者も同感である。
バイオイメージングに関する技術としては,北海道医療大学の谷村明彦先生による「生体内の分子・機能を観るバイオイメージング技術」はとてもわかりやすく,細胞レベルのイメージングから臓器や生きた動物を使った生体内イメージング技術は,現在の生命科学研究には欠かすことができない研究手法であり,蛍光プローブの開発と基本的な技術の解説を行っていただいている。バイオイメージングに使用される蛍光プローブには,①空間的な動態観測用,②蛍光強度観測用,③2波長による蛍光強度比観測用に大別されると述べられている。励起光の代表例は490 nm,530 nm,560 nm,590 nmなどの短波長光であり,励起用に440 nmレーザー光源が使われることが多い。生きた動物を使った解析の利点は,細胞の反応を生体機能の直接的解析ができることである。レーザー光を生体組織に照射する際のスペックルパターンの動的な変化からスペックル血流計が開発されている。780 nmレーザー光を生体組織に照射して血管内の赤血球の動きの時間変化を検出するもので,血流の変化をリアルタイムで画像化することができる。非接触性であるため,蛍光プローブを必要としない体表の血流であれば,人間への実験も可能である点が素晴らしい。
宇都宮大学の児玉豊先生には「タイムゲート法:植物における蛍光バイオイメージングの技術革新」について記述していただいた。植物相手の蛍光バイオイメージングでは,葉緑体から発せられる自家蛍光が,時には重宝されたり,時には邪魔者扱いされるが,自家蛍光と蛍光バイオイメージングとを区別するのための手法として,タイムゲートが採用されている。筆者は1966年に高繰返しジャイアントパルスYAGレーザーとYAGライダーを世界で初めて開発し,また,1967年に1パルスのみの巨大レーザーパルス光を本州と北海道の狭い海峡の龍飛岬に持ち込み(レーザーと赤外光像増倍暗視管とを持ち込んで),津軽海峡を通り抜けるソ連軍艦のタイムゲート応用観察を,当時の防衛庁1研の研究者とともに毎夜実験した。その時のレーザー光の発射装置近辺空気からの後方散乱光(バックスチャター光)が邪魔になって,肝心のソ連戦艦の詳細画像が写せなかったので,当時,このタイムゲート技術は大変役に立った。あれから50 年以上も経過している現在でも,タイムゲート法はバイオイメージング技術でも生かされているわけである。
光や蛍光プローブを使ったがん診断やがん治療技術,蛍光プローブ等によるバイオイメージング技術,そして,POF(プラスチック光ファイバー)を含む光ファイバーカテーテル技術関連を8件も記述いただき,企画者の1人として,大変光栄に思っている。本特集が,今後のバイオイメージングやLED光やレーザー光の医療への応用研究に些かでもヒントになれば幸いである。企画段階では,ほかにも取り上げたらいいであろう興味深い話題が尽きなかったが,次の機会にはぜひご執筆いただきたいと思っている。
さて,O plus Eは光学とエレクトロニクスとを結びつける技術誌であるが,本特集のように,光技術の医療への応用は,これからの医療技術向上にとっても非常に大事な企画であるように思われる。ところが,荒井先生が述べておられるように,現在のわが国のデバイス技術力や素材技術力は,諸外国に比べて非常に見劣りしていることが多い。大メーカー中心の量産部品や量産製品には力を入れるものの,少量生産で,本特集に関係するような素材は,米国から直接輸入せざるを得ない状況である。それでは開発競争に敗れてしまいかねないと思う。今後の科学技術政策や開発テーマの問題であり,機会を見ながら政府や財界に訴えなければならないと考える。
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