OplusE 2020年11・12月号(第476号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
ものつくりから医療まで支える光学・画像検査技術
- ■検査技術はすべての基本
- 東京工芸大学 渋谷 眞人
- ■ウイルス研究に貢献する超解像顕微鏡
- ニコン 池田 諭史
- ■コンピュテーショナルイメージングによる3次元標本の観察
- オリンパス 鈴木 良政
- ■内視鏡動画像からの胃の3次元モデル復元
- 東京工業大学*,日本大学医学部**,辻仲病院柏の葉*** 紋野 雄介*,Widya, Aji Resindra*,奥富 正敏*,鈴木 翔**,後藤田 卓志**,三木 健司***
- ■ミリ秒時間分解能X線CTのためのマルチビーム光学系の開発
- 東北大学 矢代 航
- ■半導体量産のはじまったEUVリソグラフィーにおけるEUV検査・観察技術
- 兵庫県立大学 原田 哲男
- ■回折限界を超えた表面微細周期構造の光学式非破壊深さ計測手法
- 東京大学 高橋 哲
- ■教育文化芸術活動再開のための粒子計測技術
- 慶應義塾大学 奥田 知明
- ■内部の反射モデルと撮影方向を考慮したひびわれ幅計測
- 富士通*,富士通研究所**,建設技術研究所*** 野中 悠介*,瀬川 英吾**,荒川 博史*,田嶋 聡司*,石田 辰英***
連載
- ■【一枚の写真】サッカーにおける巧みなパスの神髄は“目のつけどころ”にある
- 東京成徳大学 夏原 隆之
- ■【oe 玉手箱のけむり】その10 眼と光
- 伊賀 健一
- ■【私の発言】技術はもっているだけでは価値はなく,競争力にしっかり結びつけないといけない
- ミノル国際特許事務所 安彦 元
- ■【輿水先生の画像の話-魅力も宿題も-】第18回 続・画像AI 研究からいただいた諸子百家のメッセージ―研究開発の“うひ山ふみ”への着火剤―A Sequel: Messages from Hundred Schools of Thought to Image AI novice Researchers- Some Initiators for R&D “UI-YAMAFUMI” People –
- YYCソリューション/中京大学 輿水 大和
- ■【光学ゼミナール】第18回 放射【最終回】
- 宇都宮大学 黒田 和男
- ■【レンズ光学の泉】第1章 結像の自由度 1.2.6 瞳結像の球面収差 1.2.7 物体結像と瞳結像の3次収差の関係
- 渋谷 眞人
- ■【研究室探訪】vol. 18 立命館大学 センサ知能統合研究室(下ノ村研究室)
- 立命館大学 センサ知能統合研究室(下ノ村研究室)
- ■【国立天文台最前線】第16回 単一鏡としての観測もおこなうアルマ望遠鏡
- 荒舩 良孝
- ■【ホビーハウス】空中ディスプレイと透明スクリーン
- 鏡 惟史
- ■【コンピュータイメージフロンティア】『ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒』『魔女がいっぱい』ほか
- Dr.SPIDER
- ■【ホログラフィ・アートは世界をめぐる】第18回 台湾交流録 part4 次から次へ
- 石井 勢津子
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
この図は極端紫外線(EUV)リソグラフィー用のフォトマスクの回路パターン観察像である。EUVリソグラフィーは2019年より半導体量産に適用が開始された。半導体の原板であるフォトマスクの検査・観察は高解像で正確なパターン形成に重要となる。図はコヒーレントなEUVを照明に用いたレンズレス顕微鏡で観察している。回折画像(強度情報)に対する反復計算によって位相情報を再生するため,通常の強度像(左図)だけでなく,位相像(右図)の観察が可能である。EUVリソグラフィーにおいても位相の利用・制御が進んでおり,EUVでの位相像観察が重要となっている。(関連記事「半導体量産のはじまったEUVリソグラフィーにおけるEUV検査・観察技術」兵庫県立大学 原田 哲男:詳細は771ページ)
ものつくりから医療まで支える光学・画像検査技術東京工芸大学 渋谷 眞人
検査技術はすべての基本
今年はコロナで染まった1年であった。クルーズ船の騒ぎを見ていた殆どの人が検査不足を感じたと思う。2月20日に広尾で,光学技術者,薬専門家,写真家,建築デザイナーなど7,8人の集まりがあった。お昼に美味なチキン料理を食べおいしいビールを飲んだ。「インフルエンザと同じ程度のものと考えていいというような論調があるけれど,それなら騒ぎすぎではないですかね」と1人が口を開いたが,「特効薬やワクチンが無い状態ではそういう考えは成り立たない」と薬の専門家がはっきりと言われた。「検査できればどんな高精度な光学系も作れる」という格言がしみ込んでいる光学技術者は,「検査が明らかに不十分な状態では何も見えてこない,検査不十分も非常に問題でしょう」と口を揃えた。検査が重要なのはコロナに限らない。どのような分野でも検査を抜きにしては何も成り立たない。メディアに登場する感染症専門家の中にも検査拡大に反対する意見があったが,たしかに法律の問題も絡んで運用上は難しい面もあるだろうが,ものつくり開発の経験のある技術者であれば誰もが,科学的にはまず検査充実が優先と考えるであろう。
光学系の性能を出すためには,レンズの面の形状が必要な精度で作られてなくてはならない。昔はニュートン原器で測っていたが,40年ほど前から,フィゾー型干渉計でフリンジスキャンする方式が普及され始めた1),2)。これで,光学系の全体の収差も測れるようになっている。その手法も,ゾーンプレートを用いた非球面形状測定など,さまざまに改良されている2)。この場合,光学系製造技術自体が光学検査によって成り立っているが,様々な分野において光学検査や画像処理技術が大いに活躍している。
光学系では,回折限界より細かいものは観察できないというのが基本的な理解である。像の空間周波数で考えても遮断周波数が存在する。しかし,それより細かい検出ができないか,あるいは細かいパターンの結像ができないか,昔から様々に研究されてきている。2014年のノーベル化学賞は文字通り顕微鏡における超解像技術が評価されたものである。また,光学検査は基本的に非破壊検査であることも重要な特徴である。光学系や画像処理による最新の検査技術について,様々な分野の方に紹介していただいた。
(株)ニコンの池田諭史さんには,「ウイルス研究に貢献する超解像顕微鏡」と題してノーベル賞技術のSTORMによるウイルスイメージングの最新技術を紹介していただいた。新型コロナの表面のスパイクたんぱく質(ウニ状の突起)観察の可能性もあるということで,ハード・ソフトの両面での技術の更なる進歩により,ウイルスイメージングへの貢献が期待される。
オリンパス(株)の鈴木良政さんは特異な輪帯照明による位相物体観察という,まさにハードウエアの新奇な発明をされているが,ここでは「コンピュテーショナルイメージングによる3次元標本の観察」と題して,広い意味の画像処理技術について述べていただいた。部分的コヒーレント照明の画像からの解析という新手法の紹介で,この分野の今後の広がりが期待できる。
東京工業大学の紋野雄介さんらには,「内視鏡動画像からの胃の3次元モデル復元」と題して胃の内視鏡検査において色素を用いることで,画像処理によって3次元復元が可能になるという新たな手法について紹介していただいた。3次元の正確な復元は,医療の進展に非常に大きな貢献となるであろう。
東北大学の矢代航さんには,「ミリ秒時間分解能X線CTのためのマルチビーム光学系の開発」と題して,斬新なマルチビーム光学系の開発を紹介していただいた。Bragg回折せずに透過した光を上手く利用するという斬新な着想によるもので,様々な分野への応用が期待できる。
兵庫県立大学の原田哲男さんには,「半導体量産のはじまったEUVリソグラフィーにおけるEUV検査・観察技術」と題して,EUVL(13.5 nmのExtreme ultra violet光を用いる半導体製造リソグラフィー)に絡んで,マスクの課題と,露光波長による検査技術を紹介していただいた。回折を利用したコヒーレントスキャトロメトリー顕微鏡についても詳しく書いていただいた。半導体回路では,マスクやウエファの欠陥検査能力が,マスクメーカー,半導体回路メーカーの差別化につながっていると聞いている。露光装置では少し遅れをとってきている日本であるが,検査分野で世界に存在を示して欲しい。
東京大学の高橋哲さんには,「回折限界を超えた表面微細周期構造の光学式非破壊深さ計測手法」と題して,その原理と実際について紹介していただいた。MEMSや表面機能構造など様々な微細構造計測だけでなく,さらには半導体マスクやウエファの欠陥検査など様々な方面に応用できるのではないかと期待される。
慶應義塾大学の奥田知明さんには,「教育文化芸術活動再開のための粒子計測技術」と題して,新型コロナに直接絡んでいる,マスクの飛沫防止効果,オーケストラなどでの飛沫粒子計測技術,室内換気の計測など,その技術と結果を紹介していただいた。マスクや三密の効果が,シミュレーションでなく実験的に裏打ちされるという貴重な成果であろう。
富士通(株)の野中悠介さんらには,「内部の反射モデルと撮影方向を考慮したひび割れ幅計測」と題して,橋梁のひび割れ検査などの基礎技術となる,ひび割れによる反射光輝度を推定するモデルを紹介していただいた。検査の自動化を進める上で,重要な知見であろう。
どの技術も優れたアイデアに基づくものであり,結果だけでなくその考え方や開発のプロセスが,他の分野の方にも非常に参考になるのではないだろうか。光学・画像検査技術が,生物・医療・半導体・マイクロマシン・建築など様々な方面で今後ますます発展し,人々の健康を増進し,生活を豊かにし,ひいては平和な世界につながっていくことを祈っている。
参考文献
1)渋谷眞人:「レンズ光学入門」,6.10.1節,アドコム・メディア(2009)
2)市原裕:「干渉計を辿る」3.1節,3.2節,5.2節,アドコム・メディア(2020)
OplusE 2020年11・12月号(第476号)掲載広告はこちら