OplusE 2021年3・4月号(第478号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
紫外光-殺菌作用に特化して-
- ■特集にあたって
- O plus E 編集部
- ■コロナ社会に期待される深紫外LED
- 理化学研究所 平山 秀樹
- ■深紫外LEDを用いた新型コロナウイルスの不活化
- 徳島大学 南川 丈夫,駒 貴明,鈴木 昭浩,永松 謙太郎,安井 武史,安友 康二,野間口 雅子
- ■深紫外発光ダイオードの殺菌応用
- 日機装 渡邊 真也,河内 雅之
- ■有人環境下で使用できる222 nm紫外線による殺菌,ウイルス不活化技術
- ウシオ電機 大橋 広行,厚井 融,五十嵐 龍志
- ■紫外線殺菌と空気循環紫外線清浄機について
- 岩崎電気 堀口 雷太
連載
- ■【一枚の写真】従来型照明の常識を覆すV-ISA Method 可変照射立体角照明技術
- マシンビジョンライティング 増村 茂樹
- ■【oe 玉手箱のけむり】その12 炭酸ガスの排出削減
- 伊賀 健一
- ■【私の発言】光学部の人たちが取り組んでいる課題を自分ならどうするだろうという立ち位置で考えたり議論することができたのは,結果的に「光学一筋」だったせいだと言えるかもしれません(後編)
- 元(株)ニコン 代表取締役副社長 鶴田 匡夫
- ■【輿水先生の画像の話-魅力も宿題も-】第20回 画像AI 研究にとっての「CX×DX」について―On the Image AI Researches as DX on the CX world circumstances –
- YYCソリューション/中京大学 輿水 大和
- ■【撮像新時代CMOSデジタルイメージング】第1回 技術動向:CMOSイメージセンサー(CIS)の性能進化
- 名雲技術士事務所 名雲 文男
- ■【レンズ光学の泉】第1章 結像の自由度 1.3.2 物体移動による像面湾曲・非点収差の発生
- 渋谷 眞人
- ■【研究室探訪】vol. 20 徳島大学 南川研究室
- 徳島大学 南川研究室
- ■【国立天文台最前線】第18回 独特の立地と装置で存在感を示す石垣島天文台
- 荒舩 良孝
- ■【ホビーハウス】3Dメガネ,変わったメガネとパッケージ
- 鏡 惟史
- ■【コンピュータイメージフロンティア】『映画 モンスターハンター』『トムとジェリー』『ワンダヴィジョン』ほか
- Dr.SPIDER
- ■【ホログラフィ・アートは世界をめぐる】第20回 台湾交流録 part6 ホログラフィー講座の拡がり
- 石井 勢津子
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
図は,UV-C LEDの外観写真である。従来のUV-C LED構造に,透明p型コンタクト層,反射電極,加工サファイア基板,および,レンズ状樹脂モールドを導入し,光取り出し効率の向上を図った結果,従来の構造に対し5倍の光取り出し効率の向上が観測され,外部量子効率の世界最高値である20.3%が得られた。今後は,低電圧駆動で高い光取り出し効率を可能にすることで,ワットクラスの高出力・深紫外LEDの実現が期待されている。(関連記事「コロナ社会に期待される深紫外LED」理化学研究所 平山 秀樹:詳細は134ページ)
特集にあたってOplusE 編集部
紫外光-殺菌作用に特化して-
1. 特集の背景と目的2020年2月頃より,新型コロナウイルスが地球のほうぼうの国・地域で流行し,4月のピーク(第1波)のあと,静まるかに見えたが,その後また流行し,第2波,第3波は第1波より大きな広がりを見せている。
日本でのこの流行は,2021年初頭にはさらに急激に増え始めたが,その直後の11都府県への緊急事態宣言の発動によって,その後は下火になりつつある。また,このウイルスに効くワクチンが世界中の多くの薬品会社他で開発が進められ,日本でもファイザー社のワクチンがこの2月14日に正式に承認され,2月17日から医療関係者から接種されはじめた。これらにより収束に向かうことが期待される。
本誌が発行される2021年3月末時点で,日本ではどうなっているだろうか。また,ワクチンの普及が始まり,新型コロナウイルス禍がどの程度の速さで収束に向かうかは不明である。いずれにしても,全世界的には,2021年末に完全に終焉するのは無理だと思われる。
この新型コロナウイルスの流行を少しでも予防するために,手洗い,うがい,3蜜(密集,密接,密閉)を避ける,マスクを着ける,部屋の換気を行う,など,色々なことが推奨されている。この流行を小さくする1つの方法として,紫外光による殺菌・滅菌がある。そこで本号では,新型コロナウイルスを含む微生物の1つの制御法である紫外光を使った殺菌法にスポットをあて,特集を組むことにする。本誌 O plus Eではこれまで紫外光について特集を組んだことはなかったので,微生物制御法の用語と分類や紫外光の一般的な事項について簡単に紹介する。
2. 微生物制御法の用語と分類1)
まず,一般的に使われている微生物制御の用語の定義について簡単に述べる。
滅菌:すべての微生物を殺滅するか除去すること
殺菌:微生物を死滅させること
(目標数以下に減らす)
消毒:人畜に対して有害な微生物又は対象微生物を
殺滅すること
以下に,微生物制御法を分類して示す。
3. 紫外光の分類と呼び方
紫外光は普通“紫外線”と呼ばれるが,ここでは,光の一部として扱うので,“紫外光”と呼ぶことにする。普通の定義では,紫外光は,波長が400 nmから100 nmまでの範囲の電磁波である。例外的に,リソグラフィーの分野では,13.6 nmの電磁波を極端紫外光(Extreme UV)と呼ぶこともある。
紫外光は特定の(あまり目立たない)分野では,着実に使われているが,特殊な分野に限られているため,大きな研究・産業団体はなく,“紫外光学会”もない。そのせいもあり,紫外光の波長の違いによる呼び方も定まっていない。ここでは波長が400 nmから100 nmまでの電磁波を紫外光と呼ぶことにする。
紫外光の分類については,次のように使うことにする。
1. 近紫外光(NearUV):300~400 nm
2. 遠紫外光(FarUV) :100~300 nm
3. 深紫外光(DeepUV):200~300 nm
4. 真空紫外光 :100~200 nm
また,近紫外光と遠紫外光の一部をさらに細かく次のように呼ぶこともある。
1. UV-A:315~400 nm
2. UV-B:280~315 nm
3. UV-C:100~280 nm
紫外光は,長波長側から200 nmくらいまでは空気中を透過するが,それより短波長の紫外光は空気を透過しないので,200 nm以下の紫外光を“真空紫外光”と呼ぶ。 最も身近な紫外光として,太陽からの紫外光がある。そこで,まず太陽からの紫外光について簡単に紹介し,次に人工的な紫外光源の基本について簡単に述べることにする。
4. 太陽から地表に届く紫外光とその人への影響・効果
最も身近な紫外光は太陽からの紫外光であり,その影響は“肌の日焼け”であり,また眼にも有害と言われている。太陽からの大気圏外と地上に届く光のスペクトル分布の概略を図1に示す。
この図が示すように,地上に届く紫外光はUV-AとUV-Bで,UV-Cは地上には届かない。UV-Cはオゾン層により吸収されるからである。しかし,近年は,大気中に放出されるフロンガスなどによりオゾン層が薄くなってきたために,UV-Cも地表に届き,皮膚がんなどの増加が懸念されている。地表に届く紫外光は可視光に比べると少ないが,エネルギーが高いため,その人体への影響(主に皮膚と眼)はそれなりに大きい。
図1 太陽からの光のスペクトル(大気圏外と地表)
次に本特集で取り上げる人工の紫外光源の発光の基本的な項目について述べる。
5. 紫外光光源
紫外光の人工的な光源としては,(放電)管と半導体固体素子とがある。次に述べるいずれの光源からの発光も,次のボーアの関係式(発光する光(振動数ν)と遷移するエネルギーギャップ(Eg)との関係式)に従う。
Eg=Ej-Ei=hν
ここで,hはプランク定数で,
h=6.62607015×10-34 Jsである。
5.1. 放電管
照明光源で身近なものとして蛍光灯がある。蛍光灯は,低圧水銀蒸気中の放電によって発光する紫外光(水銀蒸気の発光スペクトルの波長は253.7 nm)の管の内壁に蛍光物質を塗布して可視光に変換して照明器具としたものが蛍光灯である。普通の蛍光灯では,管から外へは紫外光はほとんど出さないようにしているが,この蛍光物質を塗布しないと,253.7 nmの紫外光を出す。ただし,最も多く使われているソーダ石灰ガラスは深紫外光を通さないため,石英ガラス管を使うことが必要である。この波長域の光源・モジュール,殺菌装置については,長年この開発・実用化を進めている岩崎電気(株)の堀口雷太氏による「紫外線殺菌と空気循環紫外線清浄機について」をお読みいただきたい。
この分野のもう1つの放電管として。エキシマ・ランプがある。1993年にウシオ電機(株)が初めて商品化し,その後,殺菌作用の特化した“CARE222”プロジェクトを立ち上げ,モジュールとして販売している。この製品については,ウシオ電機(株)の大橋広行氏らによる「有人環境下で使用できる222 nm紫外線による殺菌,ウイルス不活化技術」をお読みいただきたい。
5.2. 固体素子
これまでの紫外光源は放電管がほとんどであったが,最近は,LEDである固体発光素子が開発・販売されている。N型とP型の半導体の接合部のエネルギーギャップが大きい半導体が開発されたことがトリガーになった。ボーアの関係式で,電磁波の振動数(ν)と波長(λ:単位:µm)の関係式
ν・λ= c
c:電磁波の真空中での速度
を使って,変形すると,N型とP型の半導体の接合部のエネルギーギャップEgと発光する波長の関係は,次式で示される。ただし,上記エネルギーギャップ(Eg)の単位は eV(エレクトロンボルト)である。
λ=1.24/ Eg あるいは Eg=1.24/λ
この式で最も波長の長い紫外光(λ=0.4 µm)が発光するためには,3.1 eVのバンドギャップが必要である。赤外光,可視光および紫外光が発光可能ないくつかの半導体について,結晶の種類とエネルギーギャップおよび発光波長の関係を表1に示す。
2014年にノーベル物理学賞を受賞した赤池,天野先生のグループの最初の青色発光したLEDの発光は紫外光が大部分で青色光はほんの一部であったと述べている2)。
これらの中で,特にウイルスの殺菌・滅菌に効果があると言われている深紫外光(UV-C)の光源の開発の経緯と進展について,理化学研究所の平山秀樹氏に「コロナ社会に期待される深紫外LED」と題してご執筆いただき,紫外光による殺菌・不活化効果について,徳島大学の南川丈夫氏らに「深紫外LEDを用いた新型コロナウイルスの不活化」と題してご執筆いただいた。またこれらのLEDを天野先生のグループと長年共同開発して製品化にこぎつけた日機装(株)の渡邊真也氏らに「深紫外発光ダイオードの殺菌応用」と題して,その経緯と製品の紹介をしていただいた。
参考文献
1)菊池清,紫外線殺菌技術と装置,光技術コンタクト, vol.50(7),pp. 3-10(2012)
2)天野浩・福田大展:「天野先生の「青色LEDの世界」 光る原理から最先端応用技術まで」,講談社(Blue Backs),pp. 128-130(2015)
OplusE 2021年3・4月号(第478号)掲載広告はこちら