OplusE 2021年5・6月号(第479号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
SDGsのためのセンシング技術~コロナ禍における遠隔コミュニケーション支援~
- ■特集にあたって
- 慶應義塾大学 青木 義満
- ■授業のオンデマンド配信のためのカメラワーク自動編集アプリ「Lecta」
- 中部大学 藤吉 弘亘
- ■オンライン授業向けのリアルタイム音声自動字幕システムToScLive™
- 東芝 岩田 憲治
- ■視線・表情の非言語シグナルに基づく遠隔コミュニケーション支援―情報共有から感情共有へ―
- 成蹊大学 中野 有紀子
- ■テレワーク環境における作業状況共有システム
- 東京農工大学 藤田 欣也
- ■Withコロナ時代のコミュニケーションに有用な「感性の見える化」
- 電気通信大学 坂本 真樹
特別企画
- ■第4回光工学業績賞(高野榮一賞)受賞記念インタビュー
- 東京工芸大学名誉教授 渋谷 眞人
- ■第4回光工学功績賞(高野榮一賞)受賞記念インタビュー
- 東京工業大学名誉教授 伊賀 健一
連載
- ■【一枚の写真】部品実装後の電子回路を非破壊に立体成形する技術
- 産業技術総合研究所 金澤 周介
- ■【oe 玉手箱のけむり】その13 エジソン考
- 伊賀 健一
- ■【私の発言】営業で肝に銘じているのは,絶対に嘘はつかない,ごまかさないということ
- マイクロ・テクニカ 岩田 節子
- ■【輿水先生の画像の話-魅力も宿題も-】第21回 画像AI 研究から頂いた諸子百家のメッセージ(4)-研究開発の“うひ山ふみ”への着火剤-The Fourth: Messages from Hundred Schools of Thought to Image AI novice Researchers― Some Initiators for R&D “UI-YAMAFUMI” People ―
- YYCソリューション/中京大学 輿水 大和
- ■【撮像新時代CMOSデジタルイメージング】第2回 技術動向:CISの機能進化(1)
- 名雲技術士事務所 名雲 文男
- ■【レンズ光学の泉】第1章 結像の自由度 1.3.3 物体移動によるコマ収差の発生
- 東京工芸大学 渋谷 眞人
- ■【研究室探訪】vol. 21 東京農工大学 藤田欣也研究室
- 東京農工大学 藤田欣也研究室
- ■【国立天文台最前線】第19回 天文学研究を切り開く科学研究部
- 荒舩 良孝
- ■【ホビーハウス】追い越していく顔(第6報 凹面顔錯視とお皿の内側の顔)
- 鏡 惟史
- ■【コンピュータイメージフロンティア】『ゴジラvsコング』『ラブ&モンスターズ』ほか
- Dr.SPIDER
- ■【ホログラフィ・アートは世界をめぐる】第21回 ベントン先生のこと
- 石井 勢津子
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
写真はカメラワーク自動編集アプリ「Lecta」による画像である。まず,スマートフォンのカメラで黒板全体が入るように動画を撮影する(上)。「Lecta」アプリを起動して,黒板エリアを指定し,仮想カメラワーク処理後の出力動画の解像度とフレームレートを設定すると,カメラワーク処理が自動に実行され,出力画像(下)が自動生成される。本アプリでは,できるだけ少ない操作で,ファイルサイズを縮小した仮想カメラワーク動画を出力できる。また,入力動画像がもつ時間の半分以下で処理し出力動画を生成できるため,撮影後に迅速な配信が可能である。(関連記事「授業のオンデマンド配信のためのカメラワーク自動編集アプリ「Lecta」」中部大学 藤吉 弘亘:詳細は254ページ)
特集にあたって慶應義塾大学 青木 義満
SDGsのためのセンシング技術~コロナ禍における遠隔コミュニケーション支援~
新型コロナウイルス感染拡大に伴う社会,行動変容の要請,SDGs(持続可能な開発目標)17の達成へ向けて,画像センシングを中心としたセンシング技術,AI技術,IoTの利活用が期待されている。COVID19への対応およびSDGs達成という強い社会的要請に対して,現在,盛んに研究開発が進められている事例を様々な角度から取り上げ,現状を把握すると共に,今後の発展可能性を議論していく。新型コロナウイルスの感染拡大は,話題になってから1年以上が経過する現在においても,一向に収束の気配が見えない状況である。コロナ禍においては,人の流れと接触機会を減少させることが必須であるため,必然的に対面でのコミュニケーションが減り,オンラインでの遠隔コミュニケーションの機会が激増している。今回の特集では,コロナ禍において重要性が増している遠隔コミュニケーションを支援する技術やシステムについて,興味深い取り組みを取り上げたい。
コロナウイルス感染拡大の影響を受け,教育現場では緊急の対応を迫られることになった。特に,オンライン講義への対応として,講義映像コンテンツの作成が必須となり,多くの教師が慣れない作業に疲弊しながら対応していたことと思う。そんな中,画像処理技術により,講義映像作成の支援を行う実用的なアプリ「Lecta」が登場した。今回,技術提供を行った中部大学の藤吉弘亘氏に,このアプリについて解説をしていただいた。
撮影された講義映像をアプリで処理すると,高解像度の講義映像から講師を追従し,仮想カメラワークにより講義映像を自動生成する。これにより板書の可読性を失わず,ファイルサイズを縮小した動画を簡単に作成することが可能となる。フレーム間差分により検出した講師位置と,背景差分によって算出した板書量に応じて,各フレームのトリミング位置を決定する技術だけでなく,視聴者を飽きさせない工夫として,放送カメラマンのカメラワーク特徴を数式モデル化して適用している点が非常に興味深い。また,技術自体は10年以上前に開発され,一度製品化されて販売終了となっていたものであったが,コロナ禍における教育現場への貢献を目指して,新たにスマホアプリとして短期間でリリース,現在でも高校教師の利用を中心に全国で多く活用されている。このあたりの経緯についても詳しく紹介していただいている。
次は,講義を受ける受講生の利便性を高めるための支援システムについて取り上げる。オンライン授業においては,聴覚障がいのある学生や留学生は,オンライン上の音声の品質の問題により授業内容を理解するのが困難なケースがある。東芝の岩田憲治氏には,講師の声を音声認識によりテキスト情報に変換し,字幕として学生に配信するシステムについて解説していただいた。内容理解に不要な語を検出する音声認識技術,および専門用語をスライドから自動抽出する機能などにより,講師の音声から自動的に字幕情報を生成することができる。これにより,聞き逃した部分をその場で確認したり,字幕を用いて授業後の復習を効率的に行うなどの学習支援を可能としている。
テレワークが推奨される中,急速に使用頻度が高まったのがオンライン会議システムである。遠隔でビデオと音声を使用する遠隔コミュニケーションがその主流であるが,便利さを感じる一方で,対面コミュニケーションとは違う「伝わりにくさ」を感じる場面が多い。成蹊大学の中野有紀子氏には,遠隔コミュニケーションにおける視線や表情といった非言語情報に着目した遠隔コミュニケーション支援技術について解説していただいた。現状の遠隔コミュニケーションシステムの不足を補うための技術,という観点だけでなく,遠隔コミュニケーションの今後の可能性を広げていく創造的な技術として期待したいところである。
テレワークにおける作業進捗や勤務の状況共有の困難さに関する課題に対し,これらを改善するためのシステムに関する研究も進められている。東京農工大学の藤田欣也氏には,PC操作中のウインドウの増減,キーやマウスの操作の有無などから,作業者の割り込み拒否度を推定する手法,およびこれを用いた作業状況共有システムについて解説していただいた。実際に研究室メンバーで数年間かけて運用されてきた実績を踏まえ,システムの作業状況共有機能の具体的な成果や今後の空間型遠隔会話システムの展望について述べていただいている。
最後は,商品販売のオンライン化をサポートするためのシステムについて紹介する。従来,店頭での対面による細やかな顧客対応によって行われてきた商品販売,代表的な例として化粧品販売を取り上げる。コロナ禍では店頭での対面による顧客接点をもつことが難しいため,ECサイトにおいて,顧客のニーズを的確に捉えて,適切な商品を提案できるシステムが求められている。電気通信大学の坂本真樹氏には,個々の顧客の感性の違いを,その顧客の購買履歴等の詳細な調査データがなくても推定可能にするシステムについてご紹介いただいた。どういうものに対して顧客がどう感じるか,いくつかのモノとオノマトペをマッチングすることにより,その人の感性を2次元マップ上で可視化する技術がベースとなっており,化粧品販売の事例を取り上げて,提案システムの有用性を示している。本システムは,個人ごとに異なる感性情報を定量的にわかりやすく提示することを可能とするため,Withコロナ時代においては,ECだけでなく様々な場面での応用が期待されるものである。
以上,コロナ禍において特に重要性が高まっている,教育現場におけるオンライン講義コンテンツ作成,テレワーク環境における遠隔コミュニケーション支援,ECサイトにおける顧客ニーズの分析と商品推薦,といった話題について,最新の取り組みを取り上げることができた。これらは,現状の遠隔コミュニケーションにおける様々な課題を改善するものであるだけでなく,afterコロナ時代においても新たなコミュニケーションの可能性を拡げるものであろう。コロナウイルス感染拡大の収束を願うと共に,これらの取り組みのさらなる進化と実利用推進を期待したい。
OplusE 2021年5・6月号(第479号)掲載広告はこちら