OplusE 2022年5・6月号(第485号)
- 目次
- 特集のポイント
- 広告索引
特集
SDGsのためのセンシング技術(3)~さりげないセンシングによる人や環境のモニタリング~
- ■特集にあたって
- 慶應義塾大学 青木 義満
- ■データの取得と見える化がSDGs達成に向けて果たす役割
- 法政大学 川久保 俊
- ■スポーツとSDGsに関する取り組み~慶應キッズパフォーマンスアカデミーでのセンシング技術の活用事例~
- 慶應義塾大学 和田 康二,太田 千尋,神武 直彦
- ■Ridge-iにおける環境と社会活動のモニタリングAI
- Ridge-i 牛久 祥孝
- ■社会課題を解決するOKIのセンシング技術
- 沖電気工業 増田 誠
- ■非接触センシングによる睡眠の医療的5段階判定
- 慶應義塾大学 満倉 靖恵
特別企画
- ■国際画像機器展2021 招待講演
- 大阪公立大学 植田 大樹
- ■国際画像機器展2021 招待講演
- 東京大学 高増 潔
連載
- ■【一枚の写真】「スペクトル超解像」による分光分析の高精度化
- 名古屋大学 原田 俊太
- ■【oe 玉手箱のけむり】その19 音は光に負けたか?
- 伊賀 健一
- ■【私の発言】歴史を学び,現在を把握し,未来を予測しながら,次の技術目標を定める
- 久保 友香
- ■【エール―若き画像研究の旗手へ―】第2回 「田舎のネズミ」を自任する寺田賢治先生―産学現場に阿(おもね)ない疾走にエール―
- YYCソリューション/中京大学 輿水 大和
- ■【撮像新時代CMOSデジタルイメージング】第7回 システム編:マシンビジョンカメラの光学系(1)
- 東芝テリー 山口 裕 監修:名雲 文男
- ■【レンズ光学の泉】第2章 点像 2.3.4 グイ位相シフトによる位相変化の長距離伝搬での保存
- 東京工芸大学 渋谷 眞人
- ■【研究室探訪】vol. 27 東京大学 生産技術研究所 志村研究室
- 東京大学 生産技術研究所 志村研究室
- ■【ホビーハウス】裸眼3D表示のLEDビジョン
- 鏡 惟史
- ■【コンピュータイメージフロンティア】『トップガン マーヴェリック』『FLEE フリー』『鋼の錬金術師 完結編 復讐者スカー』『クリーチャー・デザイナーズ ハリウッド特殊効果の魔術師たち』ほか
- Dr.SPIDER
- ■【ホログラフィ・アートは世界をめぐる】第27回 続・イギリスへ 再び―レイクフォーレストから羽ばたく―
- 石井 勢津子
コラム
■Event Calendar■掲示板
■O plus E News/「光学」予定目次
■PRODUCT REPORT 東海光学(株)
■New Products
■オフサイド
■次号予告
表紙写真説明
日本財団・JASTO・株式会社リバネスが共同実施する「プロジェクト・イッカク」の一環で,Ridge-iはドローンで撮像した画像上で海岸漂着ごみを自動検知するシステムを開発し,長崎県対馬市で実証実験を行った。我々が作成したシステムは,画像中に含まれる漂着ごみをその種類ごとに検出する。どのような種類のごみがどれくらい,どのあたりに漂着しているのかを効率的に把握できるようになる。今回は発砲スチロール,漁業ブイ,人工木,流木の4種類に分類する検出が実行されている。
(関連記事「Ridge-iにおける環境と社会活動のモニタリングAI」Ridge-i 牛久 祥孝:詳細は254ページ)
特集にあたって慶應義塾大学 青木 義満
SDGsのためのセンシング技術(3)~さりげないセンシングによる人や環境のモニタリング~
新型コロナウイルス感染拡大に伴う社会,行動変容の要請,SDGs(持続可能な開発目標)17の達成へ向けて,画像センシングを中心としたセンシング技術,AI技術,IoTの利活用が期待されている。SDGs達成が強く求められている世界的な情勢に加え,COVID-19や国際紛争などによって世界中が混沌とした状況にあるが,環境問題や社会課題は待ったなしの状況である。本特集では,3回にわたって,この強い社会的要請に対して,現在,研究開発が盛んに進められているSDGs関連事例をさまざまな角度から取り上げ,現状を把握するとともに,今後の発展・可能性を議論することをねらいとしている。SDGs特集としての第1弾(OplusE 2021年5・6月号)は,コロナ禍において重要性が増している遠隔コミュニケーションを支援する技術やシステムについて,さまざまな事例を取り上げた。第2弾(OplusE 2021年11・12月号)では,人・モノ・環境の計測,センシング技術のSDGs活用の事例をピックアップした。今回は,最終回として,画像やGPSほかを用いた,さりげないセンシング技術による人や環境のモニタリング事例について焦点を当てる。
SDGsは17の大目標と,それらを達成するための169の行動目標から成り立っている。SDGsに取り組み始める組織は増加しているが,建前だけで実際の取り組みを行っていない場合もあり,改めてSDGs活動のフォローアップとレビューの重要性が叫ばれている。法政大学の川久保俊氏には,SDGsへの取り組みのフォローアップとレビューの必要性と,それらを実現するためのオンラインSDGsプラットフォームについて解説していただいた。曖昧になりがちな目標達成の度合いを,収集データに基づき可視化して把握することはたいへん重要であり,今後の大規模な民間ビッグデータの利活用と合わせてSDGs達成に向けてのキーとなるものであろう。
スポーツは,さまざまなSDGs項目と関連して重要な位置づけとなっている。スポーツ実施者の増加は,社会全体としての健康増進や未病改善に寄与し,SDGs達成へと繋がっていくことが期待されている。慶應義塾大学の和田康二氏らには,スポーツとSDGsとの関連性について解説していただくとともに,慶應義塾のさまざまな部門や組織が連携して行っているスポーツや健康運動に関わる活動,特に慶應キッズパフォーマンスアカデミー(慶應KPA)におけるスポーツGNSS(Global Navigation Satellite System)デバイスの活用事例について紹介していただいた。測定データに基づく運動強度のチェック,子どもたちのモチベーション向上に繋がる成果をあげられていて興味深い。
SDGsのなかでも特に重要性が高いと言われている環境モニタリング,社会活動モニタリングに関する技術開発の事例について,(株)Ridge-iの牛久祥孝氏に解説していただいた。画像認識や信号処理といった共通基盤技術によって,センシングへの人工知能,機械学習の活用を進めるなかで,人的災害や自然災害等の環境への影響を衛星やドローン画像データを用いてモニタリングすることや,さまざまな場面で人物の動きを計測・データ化する社会活動モニタリングAIについて,豊富な事例をピックアップしている。また,このようなモニタリング技術を持続可能かつ素早い開発体制で維持するためのポイントなど,重要な視点についても述べられている。
SDGsの浸透に加え,顕在化している社会課題の解決に向けて多くの分野でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速している。「社会の大丈夫をつくっていく。」をキーメッセージとして,SDGsにも深く関連した7つの重要課題を掲げて,AIエッジ技術とモノづくりの強みを活かした取り組みを行っている沖電気工業(株)のさまざまな研究開発事例について,増田誠氏に解説していただいた。光・画像・音を対象とした独自のセンシング技術および興味深い実応用例が多数取り上げられている。
最後に,人の健康に大きく関連する睡眠状態のモニタリングに関する事例である。睡眠の乱れは,生活習慣病をはじめとしたさまざまな疾患に影響を与えることが知られており,睡眠の質をセンシングするデバイスやアルゴリズムの重要性が高まっている。医療分野で用いられているポリソムノグラフィー(PSG)をゴールドスタンダードとして,生体信号処理により睡眠の状態判定を行う研究が行われているが,簡易的なものがほとんどでPSGの代替となるようなものは存在しない。慶應義塾大学の満倉靖恵氏には,非接触で得られるBCG信号から心拍情報を抽出し,それを用いて睡眠状態の医療的5段階判定を実現する手法について解説していただいた。ベッド上の人物や姿勢の違いによる精度評価など,実用的な検証が行われており,今後の実用化が大いに期待される。
以上,本特集では,SDGs目標達成のための,画像やGPSほかを用いたさりげないセンシング技術による人や環境のモニタリング事例を多数紹介した。合計3回に渡り,SDGsに関連する多種多様な取り組みをピックアップしてきたが,どれも地球規模で重要とされている社会課題に真摯に取り組まれているものばかりである。技術的な興味深さはもちろん,今後のわれわれの生活や環境を大きく変容させる可能性を感じられた。これらの個々の取り組みが実を結んでいけば,まだ先の見えないSDGsの目標達成に向けて着実な歩みを進めることができるだろう。
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