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第20回 台湾交流録 part 6 ホログラフィー講座の拡がり

台南キャンパスプロジェクト


 2017年夏帰国後, ホログラムの設置場所選びは紆余曲折の末,最終的にカンファレンス棟の一角(図1(a),(b))に決まった。壁面装飾としてはDCGホログラム(重クロム酸ゼラチン反射型ホログラム)の選択肢も考えられたが,全体の状況を考慮すると,結局今回もレインボウホログラムにミラーを合わせた壁掛けタイプとすることにした。天井高があまりないため,師範大の時の作品と同様の横長の草原シリーズ(100 cm(h)×140 cm(w))から選んだ。これまで同様,ホログラムのラミネート加工以外はすべて台湾の現地の業者に発注することとした。第一段階は,フレームのデザインを決定し,その製作と光源や設置作業,輸送にかかる費用の見積もりを算出し,大学でこれらの予算が通るか確認しなければならない。今回,このプロジェクトのすべての窓口はDr. Lanであった。彼女との共同作業は初めてで,業者選び,製作,輸送などの打ち合わせのすべてが一からのスタートとなった。
 全体にかかる費用のおよその額が算出され,大学側からゴーサインのめどがついたのは2018年の年明けのころであった。ちょうどそのころ,Ken-Hsu先生から4月に台日会議が台南キャンパスで開催されるので,それまでに設置を完成してほしいと急な連絡が入った。これは大変だ! 非常にタイトなスケジュールとなった。2月の台湾は春節の大型休暇で,国全体の活動がストップしてしまう。この連休を避けて,加工の作業も輸送通関手続きもフル回転で進めなければならなくなった。
 さっそくラミネート加工の準備に取り掛かり,3月半ばには日本からホログラムを送り出した。現地通関にかかる日数は不明のため,できるだけ余裕をもって現地空港に着くよう送り出したのだ。並行してフレーム製作はメールでの打ち合わせで進められた。Dr. Lanから送られてくる業者の図面は台湾語(中国語)で,Dr. Lanに英訳してもらって解読,私の英文の指示を台湾語に直して業者に伝えてもらう。対面で図面やスケッチを前に打ち合わせができれば簡単に済むであろうことが,このコミュニケーションはまさに隔靴掻痒であった。
 設置作業のため,4月上旬に現地入りした。会議オープニングの10日前であった。取付作業には十分余裕のある日程だと思っていた。宿泊先はキャンパスの敷地の一角に建つ完成間もないゲストハウスで,前年訪問したときはまだ建設中の建物であった。ここから研究棟までの間にはまだ更地のコスモス畑が広がっていた(図2)。右手には隣接したスイカ畑が延々と広がり,のどかな環境に囲まれている。ところが,この10日間は毎日ただキャパス内のゲストハウスとカンファレンス棟を往復するのみの缶詰生活となってしまった。余裕のある日程を組んだのは,実はフレームの出来具合が気になっていたからである。台湾でのホログラムの設置プロジェクトは3度目だが,毎回現地のフレーム製作には苦労がつきものである。特に今回は台南・高雄地方にはフレーム製作の金属加工と施工ができる業者を見つけることができず,結局,台北の業者に依頼することになり,地理的ハンデも加わることになった。フレームのステンレス加工について,仕上げにはそれなりのグレードが要求される。台所のキッチン水回りの加工や屋外の看板の骨組みなどと同じレベルの加工では困る。この加工仕上げの違いを現地の業者に理解してもらうのは,実はなかなか大変である。日本での筆者の作品制作にかかわる金属の加工工場は常に決まっている。そこでは作品としての仕上げグレードは暗黙の裡に理解されている。両者の違いはアート作品についてどれくらい理解と経験を積んでいるか,あるいは経験したことがあるかという点にある。メールでの打ち合わせ段階で仕上げのグレードについてしつこく伝えたつもりであった。しかし,現地入りしていざ作業にとりかかろうと現物を一目見て,これはまずい! フレームの構造と仕上げ状態に問題があることが判明した。心配が現実になった。現物の加工修正が生じ,そのうえ新しい素材の取り寄せ,職人の行き来には台南と台北間約300 kmを往復しなければならなかった。十分ゆとりのあるはずだったホログラムの組み立て設置作業は,毎日夜遅くまで続き,私はただそばで眺めているだけであったが,伝えた通りの仕上げになるか,会議開始日までに間に合うか,ハラハラドキドキの毎日であった。Dr. Lanはもっと気をもんでいたに違いない。私個人としてはフレームなどのすべてを日本で製作して完成品を送り,現地では設置作業のみ行うほうがどんなに楽であることか。しかし,ホログラム作品をより知ってもらうためには,設置後のメンテナンスのためにも,作品がどのように組み立て仕上げられていくか全体の工程を見届けてもらうことが必要と考えたからである。
 ともあれ,皆の努力で何とか無事,会議オープンまでにGrassland series #3の設置が完了した(図3)。周囲の外光が入るガラスの開口部は遮光カーテンが取り付けられ,展示環境も整えられた。再生光源には初めて白色LEDのスポットライトを使用してみた。図4(a)~(d)は,鑑賞者の視点の上下の移動によるイメージの変化の様子である。左(図4(a))から右(図4(d))に行くにつれ,視点が低くなる。このLEDスポットライトは,波長分布がそれまで使用したメタルハロイド系のランプより輝線バンドが少なく,心配したほど悪い印象ではなかった。台日会議開催までに何とか完成することができ,カンファレンス出席者たちには無事初披露目ができ安堵した。 <次ページへ続く>

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