第23回 国際ディスプレイホログラフィーシンポジウム・ISDH ― レイクフォーレスト・カレッジ その2 ―
Dress up―馬子にも衣装?
シンポジウムのなか日の夜にエクジビションはオープンする。出展ホログラムは事前にエントリーが必要であったが,ホログラムは参加者各自がハンドキャリーで持ち込むことが原則で,展示作業はそれからスタートとなる。そのため,講演会初日に同時にオープンするのは難しいが,なか日の理由はそれだけではないようだ。シンポジウム会期中は毎日(毎晩)何らかの面白いイベントが計画され,エクジビションのオープニングレセプションはハイライトの1つであった。当日,昼の講演会の合間にアナウンスされた内容は次のようなものだった。「本日◯◯時から展覧会のオープニングレセプションを催します。ついては皆さん(Tシャツ短パンのカジュアルスタイルではなく)ドレスアップしてご参加ください。レセプション開始前に,展示会場の建物Durand Art Instituteの前で,全員集合して記念撮影を行いますので,遅れないように。」
第1回目のシンポジウム参加の時,筆者はこれを聞いて少々うろたえた。ベネチアでの展覧会準備とホログラフィーのワークショップを終えてボストンへの帰路の途中,シンポジウムに参加したのである。展示のためのホログラムは大切にハンドキャリーしていたが,ドレスアップの準備までには気が回らなかったのである。レセプションパーティーでは,TJをはじめカレッジ関係の男性たちはブラックタイの正装で現れ,シンポジウム参加者たちも昼のカジュアルスタイルとは打って変わって,まともな(?)服装で現れた。私はアメリカ文化の一側面を見た思いがした。実は,時と場所にあわせて,女性に限らず皆がメリハリのあるファッションとライフスタイルを楽しむ習慣があることを知った。
このレセプションスタイルはその後も引き継がれていき,参加者たちもそれなりに心構えができていった。ある時,ブラジルから参加した若者(実は英語だけでなく日本語も達者な人で,最初,流暢な日本語でふいに話しかけられ驚いた。聞くところによると,彼は高校生の時,父上が駐日ブラジル大使だったそうで,日本の高校に3年間通っていたのだそうだ。)はいつもTシャツとジーンズのラフスタイルのイメージしかなかったのだが,ある時,レセプションにはブラックタイファッションで現れ,そのフォーマルファッションの身のこなしが実に板についている様子で,私はこれまた驚いた。一面だけを見て判断すると,別の場面では,“え? この人誰?”なんてことになるのである。“馬子にも衣裳”(失礼をお許しあれ!)のことわざを実体験することとなった。余談だが,1995年に,私がサンパウロの展覧会に招かれたとき,彼は私の展示情報をラジオで偶然知って訪ねてくれて,レイクフォーレスト・カレッジ以来の楽しい再会を果たした。そのときは“世界は狭い”を実感した。その数年後,彼ら一家はサンパウロからアメリカに移住しホログラフィービジネスをスタートさせたと聞いた。
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