研究室探訪vol.5 [日本大学 工学部 光工学研究室]柴田 宣 教授,渡部 仁貴 教授,四方 潤一 准教授
あの研究室はどんな研究をしているのだろう? そんな疑問に答える“研究室探訪”。
今回は,日本大学 工学部 光工学研究室にお伺いしました。
今回は,日本大学 工学部 光工学研究室にお伺いしました。
情報通信と医工学の未来を拓く光技術
光ファイバー通信は現代のICT社会の基盤を支え,光伝送技術とフォトニクスデバイス技術のさまざまなブレークスル一により,情報伝送容量の拡大が図られてきた。中でも,導波路となるコアと伝搬モードのマルチ化による空間分割多重(SDM)を用いた光伝送方式は光ファイバ一芯あたり10 Pb/s 級の光伝送実験成功が報告され,ペタビット級光伝送システムの実現へ向け,注目されている。SDMの一種であるモード分割多重(MDM)伝送に適した2モードファイバー(TMF)の伝送特性を把握するため,フェムト秒級光パルスを入射した際のファイバー出射パルスの形状を2光束干渉計を用いて評価する技術を研究している。一方,サブミリ波領域のテラヘルツ波は,人体に無害かつX線と同様に物質を透過する性質を有している。この特性を利用して,生体の組織や細胞にテラヘルツ波を照射することにより,生体情報を読み出し,高精細に画像化できれば,医工学に新たなブレイクスル一をもたらすことが期待できる。そこで,テラヘルツ波の発生とバイオフォトニクスへの応用を中心に研究を進めている。研究の成果はImpact Factor の高い学術誌(Opt. Express,Phys. Rev.等)への掲載を通して情報発信している。柴田 宣 教授
1976年東京工業大学工学部機械物理工学科卒,1978年同大物理情報工学専攻修士修了。1978年日本電信電話公社(現NTT)茨城電気通信研究所入社。1984年工学博士。光ファイバー中の四光波混合,ブルリアン散乱などの非線形光学,分散媒質を伝搬する光波のコヒーレンス特性の研究,FTTHシステム実現のためのFM一括変換技術を用いた光映像配信システムの発案および研究開発実用化に従事。2010年日本大学工学部電気電子工学科教授。電子情報通信学会フェロー。
1976年東京工業大学工学部機械物理工学科卒,1978年同大物理情報工学専攻修士修了。1978年日本電信電話公社(現NTT)茨城電気通信研究所入社。1984年工学博士。光ファイバー中の四光波混合,ブルリアン散乱などの非線形光学,分散媒質を伝搬する光波のコヒーレンス特性の研究,FTTHシステム実現のためのFM一括変換技術を用いた光映像配信システムの発案および研究開発実用化に従事。2010年日本大学工学部電気電子工学科教授。電子情報通信学会フェロー。
渡部 仁貴 教授
1982年早稲田大学理工学部物理学科卒業。1984年早稲田大学理工学研究科物理学及び応用物理学修了。1984年NTT武蔵野電気通信研究所。1985年NTT基礎研究所。1993年早稲田大学博士(理学)。1997年入出力システム研究所。2013年日本大学工学部 電気電子工学科教授。 研究分野:量子光学,固体酸化物形燃料電池
1982年早稲田大学理工学部物理学科卒業。1984年早稲田大学理工学研究科物理学及び応用物理学修了。1984年NTT武蔵野電気通信研究所。1985年NTT基礎研究所。1993年早稲田大学博士(理学)。1997年入出力システム研究所。2013年日本大学工学部 電気電子工学科教授。 研究分野:量子光学,固体酸化物形燃料電池
四方 潤一 准教授
1998年東北大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程修了。博士(工学)。東北大学電気通信研究所助手,助教授,准教授を経て,2011年より日本大学工学部電気電子工学科准教授。非線形光学効果を用いた周波数可変テラヘルツ波の発生,表面電磁波共鳴を用いたテラヘルツ波制御デバイスおよび高感度なテラヘルツ波分光・イメージングシステム等の研究に従事。応用物理学会,電子情報通信学会,米国光学会,日本表面真空学会各会員。
1998年東北大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程修了。博士(工学)。東北大学電気通信研究所助手,助教授,准教授を経て,2011年より日本大学工学部電気電子工学科准教授。非線形光学効果を用いた周波数可変テラヘルツ波の発生,表面電磁波共鳴を用いたテラヘルツ波制御デバイスおよび高感度なテラヘルツ波分光・イメージングシステム等の研究に従事。応用物理学会,電子情報通信学会,米国光学会,日本表面真空学会各会員。
[研究テーマ1] 2光束干渉計を用いたフェムト秒級光パルスのシミュレーション技術
超高速化による大容量化を意味するTDMとMDMの併用を考慮すると,TMFを伝搬するフェムト秒級光パルスの振る舞いが重要となる。その振る舞いを把握するための簡便かつシンプルなフェムト秒級光パルスの伝搬シミュレーション手法として,可干渉距離の極めて短い低コヒーレンス光源と一方の腕に分散媒質を挿入し,他方の腕が空気からなる2光束干渉計を用いる方法を考案した。図1は評価系の外観を示し,図2はTMFを2光束干渉計に挿入した場合の光学系と信号処理系を示す。図3はTMFと分散シフトファイバー(DSF)を用い,各々のゼロ分散波長域で評価した干渉光強度波形とこの波形から得られるコヒーレンス度の2乗に相当する応答波形を示す。この応答波形が被測定ファイバーからの出射光パルス波形に相当する。入射光パルス波形は両腕が自由空間からなるマイケルソン干渉計を用いた応答波形より得られ,図3に対する入射光パルス幅は各々31, 52 fsである。図3に示す応答波形からTMF,DSFともに非対称な光パルス形状となる。これは, 応答波形が第1種Airy関数を反映することに起因する。本テーマは量子光学分野において研究業績の豊富な渡部仁貴教授との連携により進めている。
図1
図2 2光束干渉計の構成
図3 TMFとDSFに対するフェムト秒級パルス波形
[研究テーマ2] 高出力・周波数可変テラヘルツ波発生とテラヘルツ波制御技術
光波とマイクロ波の中間域にあるテラヘルツ(THz)波は,生体に無害な低エネルギーの電磁波であり,電波のような物質透過性と,赤外光のような分子識別(分子振動検出)能力をもつ。近年,THz波を用いた生体のラベルフリー計測例が報告され始め,医工学分野への展開が注目されている。これまでパラメトリック発振を用いて,0.7~3 THz領域で周波数可変な高輝度(ピーク出力1 W以上)のテラヘルツ波光源(図4)を実現しており,光注入型パラメトリック発生では,50 kWに及ぶピーク出力を得ている。一方,細胞レベルの空間分解能をもつTHzイメージングを目標として,表面電磁波共鳴に基づくTHzビーム制御デバイスの研究を,数値解析と実験の両面から進めている。このデバイスを用いたTHzイメージングでは空間分解能約20 μmを実現しており,デバイスの性能向上や高感度なTHz分光・イメージングシステムへの展開を図っている。本研究テーマは,理化学研究所光量子工学研究センター テラヘルツ光源チームとの連携により進めている。
図4
光工学研究室より
光ファイバー通信の研究分野においては「干渉,コヒーレンス」をキーワードに「コロンブスの卵」的発見につながる新たなテーマを探究している。また,テラヘルツ波光学分野においては,光・テラヘルツ波相互周波数変換やテラヘルツ波電磁場制御の研究を介して,バイオフォトニクス分野への応用展開を目指している。研究の成果をプロダクトとして世に送り出すためには,まずは優れた基礎・基盤研究が重要との認識で研究を遂行している。日本大学 工学部 光工学研究室
日本大学工学部電気電子工学科
住所:〒963-8642 福島県郡山市田村町徳定字中河原1番地
URL:https://www.ce.nihon-u.ac.jp/