研究室探訪vol. 9 [慶應義塾大学 理工学部 満倉研究室]満倉 靖恵 教授
あの研究室はどんな研究をしているのだろう? そんな疑問に答える“研究室探訪”。
今回は,慶應義塾大学 理工学部 満倉研究室にお伺いしました。
例えば,ALS(筋委縮性側索硬化症)の患者は,ALSが進行すると,やがて眼球の動きだけでしか外界とコミュニケーションがとれなくなってしまう。そこで,脳波計測システムを使って,ある音楽を想起するだけで,あらかじめ取り決めておいた音楽と行動の連携により,患者がYes /Noを示したり,気温を上げる/下げるなどの患者の気持ちを周囲の人に伝えることができる。また,認知症レベル5で,目も開けていない患者でも,かける言葉かけに脳波は反応しているのがわかり,それが介護をする側にとって喜びであったことから,医療分野への研究を加速させている。これからますます増えるであろう認知症や鬱病の患者の治療において,満倉教授自身が医学部にも所属し,脳波を定量化して,薬物を使うことなく,みずから脳波に信号を入れて気持ちを変える装置の開発に取り組んでいる。
不可能とは自身が決定することであって,不可能と思わなければ可能になる,そう信じて満倉研究室では研究を行っている。今や,いつでもどこにいても世界中の人と会話することが可能である。そんな日が来ると30年前のアニメでは想像し,描かれていたのである。想像,それは未来を創ることである。
日々想像を働かせ,それを実現するための技術を磨いている。感情は変えられる—私は強くそう信じている。
今回は,慶應義塾大学 理工学部 満倉研究室にお伺いしました。
生体信号処理技術で未来を切り拓く
現在,脳や顔から情報を読み取ったり,仮想空間情報(CG)を現実空間にリアルタイムに融合させる拡張現実感(AR:Augmented Reality)技術についての研究が行われている。満倉研究室では,信号処理,機械学習,パターン認識,人工知能,統計処理などの技術を用いて,生体信号や音声,画像から必要な情報を抽出する研究を行っている。具体的には,音質や雑誌の記事,自動車や自転車の乗り心地などを脳波を用いた定量評価,ブレインコンピューターインターフェイス(BCI:Brain-computer interface)の高速化や精度向上,さらにはコンピューターが画像や動画から顔検出や年齢推定,顔の向き推定,表情認識の実現を行っている。満倉 靖恵 教授
1999年 徳島大学工学部知能情報工学科助手 2002年 岡山大学情報教育コース専任講師 2005年 東京農工大学大学院助教授 2007年 同大学院准教授 2011年 慶應義塾大学理工学部准教授 2018年 同大学教授 生体信号処理,脳波解析,感性工学,脳神経科学の研究に従事
1999年 徳島大学工学部知能情報工学科助手 2002年 岡山大学情報教育コース専任講師 2005年 東京農工大学大学院助教授 2007年 同大学院准教授 2011年 慶應義塾大学理工学部准教授 2018年 同大学教授 生体信号処理,脳波解析,感性工学,脳神経科学の研究に従事
[研究テーマ1] 脳波の組み合わせで人間の感性を読み解く「感性アナライザ」
人は脳波だけでなく,心臓が拍動すれば心電,体を動かした時は筋電などさまざまな生体信号を発している。その生体信号や画像,音声から必要な情報を抽出する研究をしている。脳波からリアルタイムに人の感情を評価できる装置が「感性アナライザ」である(図1)。コンパクトで軽量な脳波測定ヘッドセットにより測定した脳波から感性を分析し, 「興味」「好き」「集中」「ストレス」「眠気」の5つの指標について,1秒ごとの移り変わりをオンライン解析できる。測定器からPCやタブレットに無線で情報を送ることで,それぞれ独立に動く様子がグラフ表示化できる(図2)。まばたきしたり笑ったりして起きる筋電がノイズになるため,脳波の測定は難しかったところ,ノイズとなる時の信号を解析することにより,ノイズ除去を実現した。 2015年くらいからいろいろな分野で使われており,例えば,CMのどの部分に反応しているかを使って人が何に興味をもつのか解析したり,集中度合いの違いを脳波の動きが明らかに違うことで,製品のよさを伝えられたりできるようになってきている。単に定性的に捉えられていたものを定量化することで可能性が広がってきている。
図1 ©感性アナライザDentsu ScienceJam Inc.
図2 感性アナライザにより可視化された脳波
[研究テーマ2] BCIを使って医療分野に貢献する
脳から情報を読み取り機器を制御するブレインコンピューターインターフェイス(BCI:Brain-computer interface)は,コンピューターへの文字入力,マウスカーソルの操作,車椅子の操作などに応用されており,肢体麻痺患者や失語症患者を支援することができる。例えば,ALS(筋委縮性側索硬化症)の患者は,ALSが進行すると,やがて眼球の動きだけでしか外界とコミュニケーションがとれなくなってしまう。そこで,脳波計測システムを使って,ある音楽を想起するだけで,あらかじめ取り決めておいた音楽と行動の連携により,患者がYes /Noを示したり,気温を上げる/下げるなどの患者の気持ちを周囲の人に伝えることができる。また,認知症レベル5で,目も開けていない患者でも,かける言葉かけに脳波は反応しているのがわかり,それが介護をする側にとって喜びであったことから,医療分野への研究を加速させている。これからますます増えるであろう認知症や鬱病の患者の治療において,満倉教授自身が医学部にも所属し,脳波を定量化して,薬物を使うことなく,みずから脳波に信号を入れて気持ちを変える装置の開発に取り組んでいる。
[研究テーマ3] アバターによるリアルタイム表情認識
研究室では,コンピューターが画像や動画から顔検出や年齢推定,顔の向き推定,表情認識を実現する顔画像処理に関する研究も行っている。AR技術の基盤となる実空間と仮想空間の位置合わせに取り組み,実際の人の動きとアニメーションを連動させるための高速・高精度な顔の向きの推定手法の開発や眉や口角の変化情報を用いての表情認識の研究,またヘッドマウントディスプレイを用いた仮想情報を現実世界へ重畳させる研究などを進めている。顔の動きや表情を0.1秒以内で追跡し瞬時に反応させるため,追跡点を目の両端や口の両端など数点程度に絞って計算速度を速めたことにより実現した。パソコンの上部に取り付けた小型のカメラ(Webカメラ)で人の顔の動きを認識し,それに画面上のアバターがその人の顔の動きにリアルタイムに連動する(図3)。まばたきや口の動きもリアルタイムに同じ動きをするアバターシステムは,アニメやイベント,CM制作会社など,さまざまな企業からの引き合いが来ているそうだ。動画による会議などにアバターに参加させたり,アバターになりきることが可能となる。
図3 アバターによるリアルタイム表情認識
満倉研究室より
「想像できることは必ず実現できる」不可能とは自身が決定することであって,不可能と思わなければ可能になる,そう信じて満倉研究室では研究を行っている。今や,いつでもどこにいても世界中の人と会話することが可能である。そんな日が来ると30年前のアニメでは想像し,描かれていたのである。想像,それは未来を創ることである。
日々想像を働かせ,それを実現するための技術を磨いている。感情は変えられる—私は強くそう信じている。
慶應義塾大学理工学部 システムデザイン工学科 満倉研究室
住所:〒223-8522 横浜市港北区日吉3-14-1 慶應義塾大学矢上キャンパス26棟 26-405
TEL:045-566-1718/43148
E-mail:info@mitsu.sd.keio.ac.jp
URL:http://www.kami.elec.keio.ac.jp