研究室探訪vol. 19 [東京農工大学 岩見グループ(MEMS/NEMS・メタサーフェス研究室)]岩見 健太郎 准教授,池沢 聡 特任助教
あの研究室はどんな研究をしているのだろう? そんな疑問に答える“研究室探訪”。
今回は,東京農工大学 岩見グループ(MEMS/NEMS・メタサーフェス研究室)にお伺いしました。
本研究室では,19世紀にリュミエール兄弟が発明した複合映写機(シネマトグラフ)に範を取り,電子線描画装置等を用いて48フレームからなるホログラム列を1枚の基板上に形成した。各フレームは画素数2048×2048と高解像度で,画素ピッチ300 nmによる全半球にわたる広視域角を有するメタサーフェスであり,金の開口をメタアトムとして利用している。基板を機械的に走査することで,最高再生速度30 fpsの動画化に成功した。今後は立体映像の投影や,カラー表示化を進めていく。
研究室では,ガラス基板上にアモルファスシリコンのナノ柱構造をメタアトムとして1,700万本配置した「モアレ・メタレンズ」を作成した。これは2枚のレンズからなり,お互いに回転させることで凸レンズにも凹レンズにもなる。これは,焦点距離が正(凸レンズ)から負(凹レンズ)に連続的に変化することに対応する。また,回転させるだけで焦点距離が変わるため,通常のズームレンズのようにレンズ間に間隔を必要とせず,小型化に適している構造であることが特徴である。電子線描画技術等を用いてこのレンズを実際に制作し,波長900 nmの近赤外線で焦点距離を変化させられることを実証した。今後は可視光などより短波長での動作や,カラー化(色収差の抑制:違う色を入れても焦点距離が変わらない)を進めていく。また現在は手動で回転角を変えているが,マイクロ自動ステージと集積化することなどによる自動化を目指す。
また,引張試験時の吸光度スペクトルの偏光依存性を計測し,有限要素法シミュレーションと比較することで,プラズモン共鳴による吸光ピークの遷移はギャップモードだけでなく変形モードも考慮することが必要であることが分かった。Au構造の構造間隔,厚さ,PDMSの硬化条件を変化させることで各モードの影響を変化させることができると考えられる。また,感圧膜を利用することで圧力分布を計測するシステムの構築が期待できる。
今回は,東京農工大学 岩見グループ(MEMS/NEMS・メタサーフェス研究室)にお伺いしました。
光とナノ構造の性質・製作方法を応用する
岩見・池沢研究室では,新規光デバイスであるメタサーフェスと,そのMEMS/NEMSへの応用を研究している。MEMS/NEMSとは,マイクロ・ナノスケールのセンサー・アクチュエーター・電子回路等の様々な要素を1つに集積化したデバイスの総称である。マイクロ・ナノ加工技術をベースとして,レンズ・ホログラフィー・センサーなどへの応用を展開する。岩見 健太郎 准教授
2008年 東北大学大学院工学研究科ナノメカニクス専攻 博士後期課程修了 博士(工学) 2008年 東北大学 教育研究支援者(マイクロ・ナノマシニング研究教育センター) 2008年 東京農工大学 助教 2011年 Visiting Scholar, Stanford Nanofabrication Facility, Stanford University 2012年 東京農工大学 准教授
2008年 東北大学大学院工学研究科ナノメカニクス専攻 博士後期課程修了 博士(工学) 2008年 東北大学 教育研究支援者(マイクロ・ナノマシニング研究教育センター) 2008年 東京農工大学 助教 2011年 Visiting Scholar, Stanford Nanofabrication Facility, Stanford University 2012年 東京農工大学 准教授
池沢 聡 特任助教
2009年 早稲田大学理工学術院情報生産システム研究科 博士後期課程修了 博士(工学) 2009年 早稲田大学 研究助手 2010年 早稲田大学 助手 2011年 早稲田大学 助教 2017年 九州大学 特任准教授 2019年 東京農工大学 特任助教
2009年 早稲田大学理工学術院情報生産システム研究科 博士後期課程修了 博士(工学) 2009年 早稲田大学 研究助手 2010年 早稲田大学 助手 2011年 早稲田大学 助教 2017年 九州大学 特任准教授 2019年 東京農工大学 特任助教
[研究テーマ1]高画質なホログラフィーの動画化を実現:将来の全周立体映像技術に向けて
光の波面を記録・再生する技術であるホログラフィーは,究極の立体ディスプレイとも呼ばれ,将来の立体映像技術として注目されている。ホログラフィーの実用化のためには,超高密度の表示用デバイスが必要となる。光の波長以下の単位構造であるメタアトムを配列したメタサーフェスは,非常に高密度なデバイスであり高画質の投影が可能であるが,従来の方法ではフレーム数を2~3程度までにしか増やせず,動画の表示が難しいという問題点があった。本研究室では,19世紀にリュミエール兄弟が発明した複合映写機(シネマトグラフ)に範を取り,電子線描画装置等を用いて48フレームからなるホログラム列を1枚の基板上に形成した。各フレームは画素数2048×2048と高解像度で,画素ピッチ300 nmによる全半球にわたる広視域角を有するメタサーフェスであり,金の開口をメタアトムとして利用している。基板を機械的に走査することで,最高再生速度30 fpsの動画化に成功した。今後は立体映像の投影や,カラー表示化を進めていく。
図1 メタサーフェスによるホログラフィー動画再生の原理と製作したメタサーフェス
図2 投影像の一部
[研究テーマ2]焦点距離を自在に変えられる極薄なメタレンズ
極薄の平面レンズであるメタレンズの実用化のためには,小型・軽量という特徴を生かしつつ,少ない色収差や可変焦点機能など従来の屈折レンズが持っている種々の機能を実現することが望まれる。しかしながら,従来の可変焦点メタレンズは,可変焦点機能を付与しようとすると大型化してしまったり,焦点の可変範囲が狭いという問題があった。研究室では,ガラス基板上にアモルファスシリコンのナノ柱構造をメタアトムとして1,700万本配置した「モアレ・メタレンズ」を作成した。これは2枚のレンズからなり,お互いに回転させることで凸レンズにも凹レンズにもなる。これは,焦点距離が正(凸レンズ)から負(凹レンズ)に連続的に変化することに対応する。また,回転させるだけで焦点距離が変わるため,通常のズームレンズのようにレンズ間に間隔を必要とせず,小型化に適している構造であることが特徴である。電子線描画技術等を用いてこのレンズを実際に制作し,波長900 nmの近赤外線で焦点距離を変化させられることを実証した。今後は可視光などより短波長での動作や,カラー化(色収差の抑制:違う色を入れても焦点距離が変わらない)を進めていく。また現在は手動で回転角を変えているが,マイクロ自動ステージと集積化することなどによる自動化を目指す。
図3 回転型可変焦点メタレンズ
[研究テーマ3]プラズモン共鳴を用いた光学式感圧膜
自動車の騒音や航空機の離着陸音,回転機械などの騒音の低減のため,物体表面における圧力場の計測技術が求められている。流体計測分野などでは感圧塗料が広く用いられてきたが,酸素消光反応を利用しているため空気中での利用に限られるなどの制限が存在する課題があった。そこで,研究室では,可視波長域でプラズモン共鳴を呈する金(Au)島状構造に着目し,これをポリジメチルシロキサン(PDMS)に包埋して感圧膜とした。島状構造はランダムなギャップや粒子形状をもち,可視波長域でプラズモン共鳴吸収を示した。製作した感圧膜に圧力印加を行ったところ,吸光波長ピークの長波長シフト変化が観測され,その感度は最高で0.35 nm/kPaであった。このことから島状構造を用いて感圧膜を構成できることを確認した。また,引張試験時の吸光度スペクトルの偏光依存性を計測し,有限要素法シミュレーションと比較することで,プラズモン共鳴による吸光ピークの遷移はギャップモードだけでなく変形モードも考慮することが必要であることが分かった。Au構造の構造間隔,厚さ,PDMSの硬化条件を変化させることで各モードの影響を変化させることができると考えられる。また,感圧膜を利用することで圧力分布を計測するシステムの構築が期待できる。
図4 プラズモン共鳴を用いた光学式感圧膜
岩見研究室より
メタサーフェスによる光制御は,レンズ・ホログラフィー・センシングをはじめとした様々な分野での広い応用が期待されている。われわれは,サブ波長スケールのメタ原子の精密加工技術に立脚して,これらメタサーフェスに光MEMSを活用したダイナミクスを融合させることによって,高い機能性をもつ新しい光システムの実現を目指している。東京農工大学 岩見グループ(MEMS/NEMS・メタサーフェス研究室)
住所:〒184-8588 東京都小金井市中町2-24-16東京農工大工学部6号館306室,307室(研究室),313室(実験室)
TEL/FAX: 042-388-7657
E-mail:k_iwami@cc.tuat.ac.jp
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