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研究室探訪vol. 20 [徳島大学 南川研究室]南川 丈夫 准教授

あの研究室はどんな研究をしているのだろう? そんな疑問に答える“研究室探訪”。
今回は,徳島大学 南川研究室にお伺いしました。

工学の基本は「ものづくり(装置開発)」にあり

 南川研究室は,光の科学の探求と計測を目指した先端フォトニクス研究室である。自作レーザーや光コム光源などの製作,光と物質の新たな相互作用を探求,およびそれらを用いた新たな光計測学の創出を目指した光計測学のための基盤研究,および,それらを機械,医学,生物学,文学などへ応用し光の活用と新しい計測分野の開拓のための応用研究を行っている。
南川 丈夫 准教授
2013年 京都府立医科大学 大学院医学研究科 助教 2015年 徳島大学 大学院ソシオテクノサイエンス研究部 特任講師 2017年 徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 講師 2018年 徳島大学 大学院社会産業理工学研究部 准教授 2019年 徳島大学 ポストLEDフォトニクス研究所 准教授 京都府立医科大学客員講師(兼任),JSTさきがけ研究者(兼任)

[研究テーマ1]医療応用を目指したラマン散乱分光法

 術中医療診断を実現する有力な手段として,光計測法,なかでも,染色を必要とせずとも分子に基づいた組織診断が可能な手法として,ラマン散乱分光法が注目されている。ラマン散乱分光法は,光の照射と組織からのラマン散乱光の取得というプロセスのみで実現でき,かつラマン散乱光に現れる細胞や組織を構成する分子固有の情報から,病変やその周囲組織を直接反映する情報を取得することができる。そのため,分子に基づいた新たな術中組織分子診断法が実現できる可能性を有している。
 研究室では,末梢神経の選択的検出法,心筋梗塞診断などを中心として,術中医療診断に向けたラマン散乱分光法に取り組んでいる。ラマン散乱分光法の応用先をさらに広げる,あるいは実際に術中観察へ適用していく上で重要な処理が,スペクトル解析である。そのため,必要な情報を的確に抜き出し,分子組織診断につなげる新たなスペクトル解析法の開発も行っている。また,実際の臨床現場への応用を目指し,手術顕微鏡や内視鏡などを用いたラマン散乱分光システムの開発も試みている。


図1 ラマン散乱分光法の医学への展開

[研究テーマ2]光コムを用いた顕微イメージング

 光コムを用いると光強度,位相,偏光といった情報を高速に取得することができる。これを顕微鏡下の計測へ応用することで,光の強度,位相,偏光,波長を同時に議論可能な新たな光学顕微鏡(光コム顕微鏡)が実現できる。研究室では,レーザー走査型光コム顕微鏡を開発した。レーザー走査光学系により,空間的マップを得ることで,試料の形状に応じた光強度・位相イメージが得られていることがわかる。本手法では,光強度イメージでは試料の反射率,透過率,散乱係数などによりコントラストが得られる。一方,位相イメージでは微細構造や屈折率によってコントラストが得られる。今後は,さらに光コムが有する特徴を極限まで高め,あらゆる活用法を見出していくことで,新たな産業計測やバイオ計測法へ展開していきたいと考えている。


図2 光特性を使いこなす光コム顕微鏡


[研究テーマ3]浮世絵技法の復元的研究のための光計測・画像解析基盤技術の創出

 錦絵は,江戸時代に発展した多色摺木版画であり,その彫摺技術は現在,日本を代表する伝統美術である現代木版画のベースにもなっている。これらの制作技法の細部は,主に師弟間の直伝で受け継がれてきたため,当時の制作技法を記した資料は非常に少ない。そのため,現在に残る錦絵や版木から,当時の錦絵制作手法および使用した材料を推定することが強く求められている。そのため,様々な分析手法が提案されている。研究室では,ラマン散乱分光法による色材同定能について検討するため,既知の色材を用いて単色および混色色材の分子分析を行った。次に,現代の木版摺刷手法により制作された試料を用いて,紙繊維上の面内色材分布計測を試みた。また,紙面に垂直報告のラマンイメージングを行い,色材の立体的空間分布計測能についても検討した。ラマン散乱分光法を用いることで,非侵襲的に色材同定を含む分子分析を実現し,かつ色材空間分布を可視化できた。本手法は,非侵襲的な方法であることから,これまで化学的分析調査が困難であった貴重な錦絵を含め,様々な多色摺木版画へ適用することができる。


図3 光を活用した浮世絵技法の復元的研究


南川研究室より

 研究室のモットーは,“百聞は一見に如かず”です。どんなに頭では理解しがたい現象でも,見えることによって現実として認識され,新しい考え方が生まれます。「見える」ことの本質を見極めることで芽生える「可能性」が,新たな「科学」を生み出すと思います。また,その科学を多角的に捉えることで,新たな「技術」を生み出し,産業に繋がる原動力となると思っています。ひとつの分野にとらわれず,あらゆる分野の手法を駆使し,世界で初めての「見る」技術を開発したいと考えます。そのために,“失敗を恐れず,本質を見極め,あらゆる可能性を生み出し,展開していく”ことを重要視しています。

南川 丈夫 准教授

徳島大学 南川研究室

住所:〒770-8506 徳島県徳島市南常三島2-1
   徳島大学・理工学部 常三島キャンパス
   機械棟3階M319号室
TEL&FAX: 088-656-7381
E-mail:minamikawa.takeo@tokushima-u.ac.jp
URL:https://femto.me.tokushima-u.ac.jp/

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