横滑りX線導波管の開発に成功理化学研究所放射光科学総合研究センター放射光イメージング利用システム開発ユニット 研究グループ
X線は物質を透過しやすい性質から,医療や科学研究の根幹を支える重要な光であるが,その高い透過性のため,例えばその向きを変えるという基本的な制御すら、いろいろな工夫が必要とされており,X線を制御する新しい手法を開発すれば,制約を緩和して実験の幅をさらに広げることが可能になるとされている。
今回,同グループは,まず,圧電素子(与えられた電圧に応じた圧力を発生させる素子)でシリコン薄膜単結晶の歪みを制御する装置を開発した。次に,大型放射光施設「SPring-8」で単色・平行度の高いX線ビームを作り,歪みを制御した試料に照射した。結晶の角度は「ブラッグの条件」付近になるように維持した。ブラッグの条件とは,結晶に入射したX線の回折が強め合うために必要な入射角度条件のことである。入射したX線の軌跡と向きの変化を調べたところ,光が持つ波としての性質が結晶の歪みで強調され,X線の向きは変わらず,位置だけが大きくずれる「横滑り現象」を発見した。これは,先行する理論研究の実証へとつながり,この現象を応用することで,結晶の歪みを最適化してX線ビームの軸を任意に横滑りできるX線導波管(X線の伝送に用いられる構造体)の開発に成功した。
さらに,圧電素子を振動させて結晶の歪みを任意に変動させることで,出射するX線のオン・オフを電気的に切り替える「光スイッチ」としての動作にも成功した。
今後,光ファイバーのように結晶を通じてX線を伝送することが可能となり,さまざまな放射線・X線実験における手法および戦略の拡充へとつながる可能性が期待される。