超高品質因子を持つダイヤモンドカンチレバーとそのセンサーチップの開発に成功物質・材料研究機構
微小な梁の一端が固定されたカンチレバーと,電子回路を1つの基板上に集積化したMEMSセンサーは,ガスセンサーや質量分析装置,走査型顕微鏡プローブなどに使われている。今後,防災や医療などの分野で応用が見込まれており,感度や信頼性のさらなる向上が求められている。ダイヤモンドは,弾性定数,機械的硬度等が物質中で最高値を有する材料であり,高信頼性,高感度なMEMSセンサーの実現が期待できるが,その硬度から3次元での微細加工が困難だった。同グループは,イオンビームを用いた加工技術「スマートカット」を開発し,2010年に単結晶ダイヤモンドのカンチレバー作製に成功した。しかし,表面の欠陥などが原因で感度は既存のシリコン製のカンチレバーと同等程度であった。
今回,ダイヤモンド表面を原子スケールでエッチングする技術を新たに開発し,スマートカットで加工した単結晶タイヤモンドのカンチレバー表面の結晶欠陥を取り除く ことで,感度を表す品質の指標「Q値」で100万以上の値を持つダイヤモンドカンチレバーの開発に成功した。
さらに,カンチレバーを振動させる回路と,振動をセンシングする電子回路を同時にカンチレバー上に集積化する新たなMEMSデバイスコンセプトを提案し,電気信号で駆動する単結晶ダイヤモンドMEMSチップの実証実験に成功した。開発した単結晶ダイヤモンドMEMSチップを実際に駆動させたところ,高感度,低い動作電圧,高温動作(600 ℃)などの非常に高い性能を示した。
今後,ダイヤモンド製のMEMSチップ実用化に向けた基盤技術を確立することで,単分子の質量の違いを検知できるような超高感度で,高速・小型かつ信頼性の高いセンサーなどへの展開が期待される。