ARを用いた次世代型肘関節鏡手術の開発名古屋大学,理化学研究所
本邦で開発された関節鏡手術は世界中に広がり,現在では整形外科の標準的治療となっている。しかし,特に肘関節鏡手術においては重大な神経損傷などの合併症が発生しており,低侵襲で有効な治療を提供するために安全性に配慮した次世代型関節鏡の開発が必要とされていた。
CT・MRIといった異なるモダリティ(医用画像機器)から抽出した骨や神経の3次元データを専用ソフトウエアで再構成し,関節鏡モニターにリアルタイムに重畳表示するAR技術を導入した次世代型関節鏡システムを開発し,3Dプリンターで作成した実物大モデルとサルの肘関節を用いて実証実験を行った。構成された画像データはリアルタイムに関節鏡モニターに重畳表示され,従来の関節鏡では視認できない神経の位置情報をモニターで確認し,本システムが実行可能であることを示した。さらに,30度の斜視鏡を用いて重畳表示の精度を調査した結果,20 mmの関節鏡先端と対物間距離において1.63±0.49 mmのズレを認めたが,数値的にはAR肘関節鏡が臨床応用として許容される誤差と考えられるものであった。解決すべきハードルがいくつか残ってはいるが,肘関節鏡手術の安全性向上に寄与するARを導入した次世代型肘関節鏡システムの開発が本研究によって大きく前進した。