黒漆を量子ビームで分析 -歴史の解明だけでなく,機能性材料への応用も-日本原子力研究開発機構,物質科学研究センター,明治大学
日本原子力研究開発機構などのグループは量子ビームを駆使し、可視光では透過できない漆のナノ構造を解明することに成功し、長年の謎、黒漆の黒色の起源を明らかにした。
耐水・耐薬品性に優れた漆は、昔から日用品などの塗装に用いられてきた。近年では、含有する鉄イオンにより塗膜が早く乾燥すること、また有害物質の分解を早める機能をもつことも分かっている。しかし漆の構造や反応はほぼ未解明であった。
同グループでは大型放射光施設SPring-8や大強度陽子加速器施設J-PARCなどの実験施設にて、漆内部の精密測定を可能にし、黒漆中の鉄イオンの化学状態を放射光で決定した。また、X線と中性子の特色を利用し、透過率の差で漆の構造を観る手法を確立した。ここから、黒漆が黒くなる科学的メカニズムを初めて解明した。
今後、本手法を基に黒漆発祥の歴史を解明できる可能性がある。さらに、漆は石油由来素材よりも化学的に優れた特徴を持ち、新たな機能性材料の開発も期待できる。