第11・光の鉛筆
鶴田匡夫氏が光工学功績賞(高野榮一賞)を受賞
鶴田匡夫氏が,第3回(2019年)光工学功績賞(高野榮一賞)を受賞しました。鶴田氏は,『O plus E』で「光の鉛筆」を38年間にわたり連載を続け,その連載は『光の鉛筆』シリーズとして,11冊の書籍にまとめられています。鶴田氏は,光工学技術の先駆的研究と長年にわたる啓発活動による顕著な功績を高く評価され,受賞が決定いたしました。光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞)は,高野榮一光科学基金の新しい事業として2017年度に設立されました。「光を利用した機器・部品開発や計測技術,光の制御・操作技術など,光技術・光科学の発展にインパクトのある応用が期待される優れた研究開発」の業績を称える業績賞と長年の功績を称える功績賞の2種類があります。
第3回光工学業績賞・功績賞(高野榮一賞) 受賞者
https://www.jsap.or.jp/takano-award/recipients/recipients3#ss2
『光の鉛筆』における導入句とは
『光の鉛筆』はOplusE創刊当初から人気の長期連載記事です。光学設計のヒントあり,歴史物語あり,文献案内ありと盛りだくさんの内容です。『光の鉛筆』から『第10・光の鉛筆』まで書籍化され,現在,『第11・光の鉛筆』を好評連載中です。毎号の章の内容をより深めるための導入句を紹介します。さらに,本誌では紹介できなかった導入句に込められた意味を,著者からのひとことと共にご覧いただけます。
- 導入句
- 目次
- 書籍
- 著者
導入句
- 24 機械式シャッターと撮像素子シャッター(2018年1月号掲載)
“思えば遠くに来たもんだ故郷離れて6年目”
海援隊,武田鉄矢 作詞(1978) - 23 均等な表色系への道(2017年12月号掲載)
多分,この(XYZ)座標系を選んだことへの最大の批判は色度図上で色差分布の一様性があまり良くないということだろう。しかし,色差の識別に関する研究は1931年当時未だ行われていなかった。
W. D. Wright - 22 RGB表色系とXYZ表色系(2017年11月号掲載)
善は急げと,大晦日の掛乞手ばしこくまはらせける。
井原西鶴:世間胸算用3 - 21 正三角形色度図から直角三角形色度図へ(2017年9月号掲載)
これは私が知る限りMaxwellの三角形が直交座標を使って描かれた初めての例である。
W. D. Wright
イギリスでは,Youngの3原色説を近代化して現代測色学の基礎を築いたのはHelmholtzではなくMaxwellだったとの評価が定着しています。これなくして,上の文章は生まれなかったでしょう。この原文は,“It is the first time, as far as I know, that the Maxwell triangle was produced on rectangular co-ordinates;・・・・・・” - 20 埋もれていた反対色理論定量化の試み キャンセレーション法の発見(2017年8月号掲載)
色キャンセレーション法はHeringが発明しBrucknerが実験に使ったのが最初である。JamesonとHurvichはこの技術を体系的に採用した
R. Mausfeld - 19 3原色理論と4原色理論を結ぶもの Schrödingerの数学的洞察(2017年7月号掲載)
この実に美しい理論は,おそらく,かつて人間が発見した最も完全な,最も正確な,そして最も美しいもののひとつであろう。
J. R. Oppenheimer(1957) - 17 Hering の反対色理論(2017年5月号掲載)
真理は時の娘であって権威の娘ではない。
F. Bacon:Novum Organum
著者フランシス・ベーコン(1561~1626)は,シェイクスピアと同時代のイギリス人哲学者・政治家です。本文はラテン語で書かれています。文章の前半は説明不要でしょう。後者の「権威(authoritatis)」は語源的には「権力」と同義です。しばしば「権力の娘ではない」と訳される所以でしょう。推理小説の傑作として10指に入ると評価の高い,J. Tey: The Daughter of Time(1951)のテーマは,「イギリス史上,最も邪悪な王とされるリチャード3世の所業が,実は彼から王位を奪ったチューダー朝によって捏造されたものだった」と推理するものでした。ここでは,タイトルから省略された文言が「権威」ではなく「権力」だったことは確実でしょう。とまれ,学問の世界では,「権威」と「権力」は殆ど同じものでしょう。しかし,Heringの場合は,政治的権力と違い,主張したり論争したりする場は与えられていました。 - 16 3原色説と反対色説(2017年4月号掲載)
そのような議論は,酸味を感じる神経繊維と塩味を感じる神経繊維があるとして,それらが同じ強さで同時に刺激されたら苦みが生じるというのと同じくらい筋が通らない話だ。
E. Hering(1880) - 15 Schrödingerの色彩論2 アフィン変換と混同色(2017年3月号掲載)
アメリカの医師は病名にドイツ語を,ドイツの医師はラテン語を,古代ローマの医師はギリシャ語を使った。患者に病名を知らせたくなかったからだ。
アメリカ映画:見知らぬ人でなく(1955)中の台詞 - 14 Schrödingerの色彩論1(2017年2月号掲載)
私は測定の意味することを直接観察することによって知る理論家だ。このような理論家がもっといればいいのにと私は思ったことであった。
Schrödinger:自伝(1985) - 13 HelmholtzからKönigへ3 基本色感覚曲線の推定(2017年1月号掲載)
Königは私に「若し将来,異色間の明るさの比較ができるようになるか,或いはとりわけ網膜内の光化学物質の研究が進めば基本色感覚そのものの直接測定が可能になるであろう」と語った。
König論文集 編集者の注記(1903) - 12 HelmholtzからKönigへ2 色感覚曲線の測定(2016年12月号掲載)
勝れた精神の持主は小さなことに喜びを見出す。
G. K. Chesterton:Heretics - 11 HelmholtzからKönigへ1 混色装置の概要と1色性色覚異常の測定(2016年10月号掲載)
誰彼もあらず一天自尊の秋
飯田蛇笏:椿花集 - 10 Maxwellの色彩論3 2色性色覚異常の色彩論(2016年9月号掲載)
視覚器官は人が変わっても驚くほど互いによく似ていて,色覚異常の目さえ知覚系には違いはなく,その一部が欠落しているだけである。
J. C. Maxwell:1860論文補遺 - 9 Maxwellの色彩論2 白色スペクトルとカラーボックス(2016年8月号掲載)
我々が視覚の神経作用の性質について手にしているすべての証拠は,神経を興奮させる視物質(agent)の性質が何であれ,視覚が人によって違うのはその感度に多少の差があるだけだということを明らかにしている。
J. C. Maxwell(1861) - 8 Maxwellの色彩論1 色紙(いろがみ)と回転色円盤(2016年7月号掲載)
栴檀は二葉よりかうばしとこそみえたれ。
平家物語巻第1 - 7 HelmholtzとGrassmann(2016年6月号掲載)
どんな白日の眩暈のなかでならそんなにも深く燃える色をみせて咲く薔薇の狂おしい秘密が明かされるというのか
渋沢孝輔—薔薇・悲歌— - 6 Youngの色彩理論2 新規性と独創性(2016年5月号掲載)
「先生の今日の御講演は,全く出鱈目であります」といわれるんだ。いや驚いたね。…「今日のお話と限らず, この頃先生が, この談話会でお話をなさいますものは, 全部出鱈目であります」。…
中谷宇吉郎:長岡と寺田 - 5 Youngの色彩理論1 自説の展開(2016年4月号掲載)
すべての可能な波動に完全に同調する無限に多くの粒子が網膜に内蔵されていると考えるのは現実的でないので,例えば3種類の主要な色として赤・黄・青だけを想定することが必要になる。
Young:1802論文 - 4 色覚異常と生理学的3原色仮説 BoyleからPalmerまで(2016年3月号掲載)
私はしばしば本気で,ある花が青かピンクのどちらに見えるかを人に尋ねたが冗談を言っていると受け取られるのが常であった。
J. Dalton(1798) - 3 NewtonとYoungの間 18世紀色彩論の担い手たち(2016年2月号掲載)
人は努力する限り迷うものだ
Goethe:ファウスト - 2 ニュートンの色度図 音楽の調和と色の調和(2016年1月号掲載)
楽というものは調和を得た音声,その配列です。だから人間に調和を教える。いろんな違った音をハーモニーに規律していく。
吉川幸次郎 - 1 ニュートンの色彩論(2015年12月号掲載)
異なる光線は異なる屈折能を示すのと同様に,どんな色を示すかの点でも異なっている
I. Newton:光と色の理論
目次
1 | ニュートンの色彩論 | 2015年12月号掲載 |
2 | ニュートンの色度図 音楽の調和と色の調和 | 2016年1月号掲載 |
3 | NewtonとYoungの間 18世紀色彩論の担い手たち | 2016年2月号掲載 |
4 | 色覚異常と生理学的3原色仮説 BoyleからPalmerまで | 2016年3月号掲載 |
5 | Youngの色彩理論1 自説の展開 | 2016年4月号掲載 |
6 | Youngの色彩理論2 新規性と独創性 | 2016年5月号掲載 |
7 | HelmholtzとGrassmann | 2016年6月号掲載 |
8 | Maxwellの色彩論1 色紙(いろがみ)と回転色円盤 | 2016年7月号掲載 |
9 | Maxwellの色彩論2 白色スペクトルとカラーボックス | 2016年8月号掲載 |
10 | Maxwellの色彩論3 2色性色覚異常の色彩論 | 2016年9月号掲載 |
11 | HelmholtzからKönigへ1 混色装置の概要と1色性色覚異常の測定 | 2016年10月号掲載 |
12 | HelmholtzからKönigへ2 色感覚曲線の測定 | 2016年12月号掲載 |
13 | HelmholtzからKönigへ3 基本色感覚曲線の推定 | 2017年1月号掲載 |
14 | Schrödingerの色彩論1 | 2017年2月号掲載 |
15 | Schrödingerの色彩論2 アフィン変換と混同色 | 2017年3月号掲載 |
16 | 3原色説と反対色説 | 2017年4月号掲載 |
17 | Hering の反対色理論 | 2017年5月号掲載 |
18 | ICO(1964)国際会議東京,京都インタビュー再録 -ICO-24(2017)東京開催に寄せて- |
2017年6月号掲載 |
19 | 3原色理論と4原色理論を結ぶもの Schrödingerの数学的洞察 | 2017年7月号掲載 |
20 | 埋もれていた反対色理論定量化の試み キャンセレーション法の発見 | 2017年8月号掲載 |
21 | 正三角形色度図から直角三角形色度図へ | 2017年9月号掲載 |
22 | RGB表色系とXYZ表色系 | 2017年11月号掲載 |
23 | 均等な表色系への道 | 2017年12月号掲載 |
24 | 機械式シャッターと撮像素子シャッター | 2018年1月号掲載 |
25 | 索引 | |
26 | 付録 (A)目次(『光の鉛筆』~『第10・光の鉛筆』) (B)補足と参照表題リスト (C)総索引(『光の鉛筆』~『第10・光の鉛筆』) |
「光の鉛筆」シリーズ
著者
1933年群馬県富岡市生れ。1956年東京大学理学部物理学科卒。同年日本光学工業(株)(現(株)ニコン)に入社。1967年工学博士,1987年取締役,1993年常務取締役開発本部長,1997年取締役副社長,2001年顧問。専攻応用光学。1964年応用物理学会光学論文賞,2004年応用物理学会業績賞(教育業績)受賞。