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放射線蛍光プラスチック「シンチレックス™」の開発帝人化成(株) 清水久賀

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 帝人化成(株)は,京都大学および放射線医学総合研究所と共に,放射線により直接ピーク波長425nmの青色蛍光を発光するプラスチック「シンチレックス™」を開発した。シンチレックスは,成型品の形で帝人化成が販売を行う(図1,図2)。
 開発の背景は,(1)放射線検出器は,原子力発電所や核燃料加工施設などの原子力施設や,病院などの放射線事業所における放射線管理に不可欠な機器であり,研究者のみならず原子力発電所周辺住民の方々など一般市民にも普及しつつある等,その社会的需要が高まっていること。(2)放射線検出器のセンサーとして使われるシンチレーター※には,蛍光剤を混ぜたガラスやポリビニルトルエンなどが使われることが一般的だが,これらの樹脂は特殊な生産工程を必要とするため,大量生産やコストダウンが非常に難しく,安価な放射線検出器を生産する上で大きな課題となっていたこと。(3)このような環境を踏まえ,京都大学の中村秀仁氏が放射線医学総合研究所在籍中に研究を始め,ペットボトルに使われていたPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂をセンサーとした放射線検出が可能であることを発見したこと。(4)この研究に帝人化成が着目し,ペットボトルを材料としたものではなく,素性のはっきりしたPET樹脂を京都大学に提供し,放射線による蛍光発光をさらに高めるためのアイデアを出して共同研究が始まった。PET樹脂のシンチレーターとしての性能は,放射線による発光量が既存の物より低く,蛍光波長が紫外線領域であるなど課題があったため,帝人化成から京都大学にいくつか試験素材を提供し,研究開発を重ねた結果,PET樹脂の課題を克服し,従来型シンチレーターと同等以上の性能を持つ,新しい樹脂の開発に成功した。
 このシンチレックスは,独自の分子構造を持つ特殊なポリエステル系化合物である(表1)。その特徴としては,(a)放射線による発光量や蛍光波長,屈折率などにおいて,従来のシンチレーターと同等以上の性能を有すること(図3,図4),(b)食器や容器用素材として広く使われているポリエステル系の化合物を原料としているため,素材の生産コストを低く抑えることができ,また射出成形にも適した加工性があるため,従来のシンチレーターよりトータルの製造コストを大幅(目標10% 以下)に抑えることが可能となり,放射線検出装置のコストダウンへの貢献が期待できること,(c)ガラスや金属系などの従来型シンチレーターと比較して,軽量かつ成形加工性も高いという樹脂ならではの優れた特長を有しているため,トラックモニターなどの大型のものからPET診断装置,X線CT診断装置などの中型の製品,軽量で持ち運びできる小型の放射線検出装置など幅広い製品の開発を可能にすること,などが挙げられる。
 今後の展開として,シンチレックスは小型・軽量の放射線検出器だけでなく,原子力発電所・核燃料加工施設・放射線事業所などにおける放射線管理や,空港・港湾設備・駅などにおける違法放射線物質検査,航空・宇宙開発,高エネルギー線などを使用する学術研究などさまざまな分野への市場展開を目指す。

※放射線を検知すると光を発生する物質のこと

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