電子のさざ波で動く光ピンセット北海道大学*,科学技術振興機構さきがけ**,東京工業大学***,坪井泰之*,**,東海林竜也**,松村有里子***
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高輝度のレーザービームを集光すると,その焦点に細胞など小さな微粒子を捕捉できる。これは,“輻射圧”と呼ばれる力によるもので,レーザービームを走査し,焦点を動かせば捕捉された微粒子を自在に操ることができる。これは光ピンセットと呼ばれ,すでに市販化されている。この光ピンセットで,細胞よりも小さなタンパク質やDNAなどの「高分子」を捕まえたり,操ったりできれば,創薬や生物学を大きく発展させることができる可能性がある。しかし,輻射圧は捕まえる粒子のサイズ(体積)に比例するため,これら小さな高分子を,今までの光ピンセットで捕まえ,操ることは容易ではなかった。レーザーの強度を増大させれば輻射圧も大きくなるが,多光子吸収によるダメージやコスト,安全性の観点からは現実的なアプローチとは言えない。したがって,よりDNAやタンパク質などの小さなナノ粒子を安定に捕捉するには,全く新しい学理に基づく光ピンセットの開発が必要になる。
私たちは,特殊なナノ構造を施した貴金属が生む“プラズモン”と呼ばれる電子の“さざ波”に着目した。赤い光でプラズモンを光励起すると,その電場強度は貴金属ナノ構造に表面近傍で,およそ1万倍まで増強する。このプラズモン増強効果はそのまま輻射圧の増強に応用できる。私たちは,図1に示すような概念に基づくプラズモン光ピンセットを開発し,細胞やウイルスよりもはるかに小さい分子(鎖状高分子やDNA)や高分子微粒子を自在に捕捉・操作することに成功した1)。図2に示すように,ポリススチレンのナノ粒子を貴金属ナノ構造上に安定に捕捉したり,自己組織化作用によって,ヘキサゴン状に配列させることができる2)。捕捉したナノ粒子は,光軸の操作により,構造上を二次元的に自由に操ることもできる。図3には蛍光染色したDNAを捕捉し,マイクロリングパターンを形成し,さらにそのリングを「A」の形に配列した様子を示した3)。私たちは,こうした現象を分光計測し,輻射圧を定量評価する理論的な研究も進めている。
このようなプラズモン光ピンセットは,細胞への遺伝子導入や医療診断に役立つDNAチップ,プロテインチップの開発につながるかもしれない。また,ナノ空間における単分子の自在操作やそれに基づく選択的合成や分離など,革新的な技術開発につながることが期待される。
私たちは,特殊なナノ構造を施した貴金属が生む“プラズモン”と呼ばれる電子の“さざ波”に着目した。赤い光でプラズモンを光励起すると,その電場強度は貴金属ナノ構造に表面近傍で,およそ1万倍まで増強する。このプラズモン増強効果はそのまま輻射圧の増強に応用できる。私たちは,図1に示すような概念に基づくプラズモン光ピンセットを開発し,細胞やウイルスよりもはるかに小さい分子(鎖状高分子やDNA)や高分子微粒子を自在に捕捉・操作することに成功した1)。図2に示すように,ポリススチレンのナノ粒子を貴金属ナノ構造上に安定に捕捉したり,自己組織化作用によって,ヘキサゴン状に配列させることができる2)。捕捉したナノ粒子は,光軸の操作により,構造上を二次元的に自由に操ることもできる。図3には蛍光染色したDNAを捕捉し,マイクロリングパターンを形成し,さらにそのリングを「A」の形に配列した様子を示した3)。私たちは,こうした現象を分光計測し,輻射圧を定量評価する理論的な研究も進めている。
このようなプラズモン光ピンセットは,細胞への遺伝子導入や医療診断に役立つDNAチップ,プロテインチップの開発につながるかもしれない。また,ナノ空間における単分子の自在操作やそれに基づく選択的合成や分離など,革新的な技術開発につながることが期待される。
参考文献
- Toshimitsu, Y. Matsumura, T. Shoji, N. Kitamura, M. Takase, K. Murakoshi, H. Yamauchi, S. Ito, H. Miyasaka, A. Nobuhiro, Y. Mizumoto, H. Ishihara, and Y. Tsuboi : “Metallic-nanostructure-enhanced optical trapping of flexible polymer chains in aqueous solution as revealed by confocal fluorescence microspectroscopy,” J. Phys. Chem. C, Vol. 116, No. 27, pp. 14610-14618 (2012)
- Shoji, M. Shibata, N. Kitamura, F. Nagasawa, M. Takase, K. Murakoshi, A. Nobuhiro, Y. Mizumoto, H. Ishihara, and Y. Tsuboi : “Reversible photoinduced-formation and manipulation of a two-dimensional closely packed assembly of polystyrene nanospheres on a metallic nanostructure,” J. Phys. Chem. C., Vol. 117, No. 6, pp. 2500-2506 (2013)
- Shoji, J. Saitoh, N. Kitamura, F. Nagasawa, K. Murakoshi, H. Yamauchi, S. Ito, H. Miyasaka, H. Ishihara, and Y. Tsuboi : “Permanent fixing or reversible trapping and release of DNA micropatterns on a gold nanostructure using continuous-wave or femtosecond-pulsed near-infrared laser light,” J. Am. Chem. Soc., Vol. 35, No. 17, pp. 6643-6648 (2013)