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圧力をかけると光る応力発光印刷大日本印刷(株) 情報ソリューション事業部 青山 祐子,前川 博一

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 有価証券やIDカードのように金銭的価値を有する製品や個人情報が担持された製品において偽造が発生すると,製品全般ひいては各企業・団体に対する消費者の信頼を失う恐れがあるため,これまでに様々な偽造防止技術が開発されてきた。中でもブラックライト(紫外線)を照射して可視光を発光する蛍光体は,光れば真,光らなければ贋とする,明瞭で簡便な判定手法であるため,古くから真贋判定用の材料として利用されてきた。その一方で,一般市場に蛍光材料が出回ったことによるセキュリティーレベルの低下や,ブラックライトの購入及びメンテナンスなどのコスト面での負荷が問題となっている。
 そこで器具を使用せずに発光を確認する技術を開発するべく,圧力をかけると発光する応力発光体に着目した。応力発光体とは1990年代に独立行政法人産業技術総合研究所の徐超男氏らによって見いだされた材料で,力を加えたときだけ発光し,蓄えた光エネルギーをすべて消費するまで繰り返し発光することができる無機材料である。代表的な化合物はユウロピウム含有アルミン酸ストロンチウムで,格子欠陥が多数存在する結晶構造を有している。発光のメカニズムについては解明されていない部分も多いが,欠陥格子に補足された電子が外部から力を加わった際に解放され,解放された電子が再びユウロピウムに補足された際に光が生じると考えられている(図1)。
 このような応力発光体を偽造防止対策が必要な媒体に塗布して,折り曲げたり擦ったりする際に光らせることができれば,器具を使用せずに発光により真贋を判定することが可能となる。我々はインキの盛量が多くかつ量産性が高いフレキソ印刷での製品開発を行った。暗い場所でミシン目を切り取る(図2),折り曲げる,印刷物の上から硬いペン先でなぞるなどの動作をすると,目視で緑色の発光を確認することができた。なお光量はインキの盛量すなわち印刷物中の応力発光体の含有量によって調整できることも確認した。また,フェードメーターで耐光性を評価したところ,通常光換算で14ヶ月程度光を照射した場合でも発光を確認でき,有価証券類として十分な耐光性を有することを確認した。
 以上のように器具を使用せずに発光を確認するという当初の目的が達成されたが,太陽光下や室内光下では発光を確認しづらいことが現状の課題である。今後は発光をより確認しやすくするため材料及び加工の両面から改良し,有価証券類はもちろんのこと,接着加工された基材を剥がす際の力を使って発光させるような封緘シールなど幅広く展開していく。

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