【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

液晶媒質中の「欠陥」を制御する大阪大学* 産業技術総合研究所** 吉田 浩之*,福田 順一**,尾﨑 雅則*

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 「欠陥」は材料において機械的・光学的・電気的性質を決める重要な要素である。「欠陥」と聞くと結晶性材料を思い浮かべる方も多いと思うが,実は液体と固体の中間相である液晶も多様な欠陥を形成する。液晶では異方的な形状の分子が集団として向きを揃えて並んでおり,空間的に一様でない分子配向分布において,一意に配向方向を定義できない特異点のことを欠陥と呼ぶ(図1)。液晶における欠陥は位相幾何学的(トポロジカル)な性質を持ち,バルクとは異なる粘弾性的,あるいは光学的な性質を示すことから,近年,新しい応用を拓くものとして注目を集めている。例えば,トポロジカル欠陥の導入により,液晶の粘弾性的な性質が変わり,自己修復能を持つゲル材料を実現できることが報告されている。また,光渦と呼ばれるレーザー加工に用いられる特異な光波を生成できることが知られている。
 これまで液晶中の欠陥に関する研究の多くは,偶然生成された欠陥や特殊な形状を持つ基板を用いて生成された欠陥が利用されることが多く,その形状を任意に制御することは容易ではなかった。我々は液晶を保持する基板の界面に特異点を有する配向容易軸をパターニングすることで,特定の本数と形状を持つ欠陥を生成できることを明らかにした。図2に示すように,特異点を有する配向容易軸分布を基板に形成し,その特異点が若干ずれるように配置することで,特異点を結ぶように線状の欠陥が生成される。生成される欠陥の形状は液晶の弾性理論により予測可能であり,基板のパターンを変えることで様々な本数や形状を持つ欠陥を作りだすことができる。さらに,生成した欠陥はコロイド粒子などの微小物体を捕捉するテンプレートとして利用でき,液晶が外部印加電界によって配向方向を変えることを利用して,制御性良く動かすことができる(図3)。
 液晶中の欠陥を制御する技術が開発されたことで,学術的な興味から研究されることが多かった欠陥を工学の対象として扱うことが可能となる。社会的にはディスプレイの代名詞になっている「液晶」であるが,実は防弾チョッキに使われる機能性高分子素材や太陽電池などに応用される有機半導体など,多くの材料系において見られる。本技術は液晶を機能化する手段として,幅広い分野への応用に貢献することが期待される。

参考文献

  • H. Yoshida, K. Asakura, J. Fukuda, and M. Ozaki: “Three-dimensional positioning and control of colloidal objects utilizing engineered liquid crystalline defect networks”, Nat. Commun., Vol. 6, 7180(2015)

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