【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

広告やサイン表示の概念を変える全方向ディスプレイ技術産業技術総合研究所 大山 潤爾

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 国立研究開発法人 産業技術総合研究所は,どの方向から見ても見ている方向を正面にした画像を表示できる全方向ディスプレイ技術を開発した。近い将来,広告やサインやテレビなど様々な用途での実用化が期待されている。
 高齢化や国際化に対応するため,情報を効果的に表示するアクセシブルデザインは,公的機関にとっても民間企業にとっても緊急性の高い課題として注目を集めている。我々は,これまでに感覚知覚認知特性の研究から,製品や空間の表示内容のアクセシビリティ改善に貢献してきたが,正面から見ている場合の表示デザインの改善は可能でも,表示器の設置面の角度による見にくさは解決できなかった。よって,なるべく多くの利用者が見るであろう方向を想定して設置角度を設計し,見にくさを軽減できるように配慮する以外に対処方法はなかった。
 我々は,こうした問題を解決するため,特殊なレンズと画像加工技術を使った曲面ディスプレイの研究を進め,どこからみても画像が自分の方向を向いているように見える全方向ディスプレイ技術(特許申請中)を開発した。従来の表示では平面であっても曲面であっても,ある方向から見やすいように設置した場合,それ以外の角度からは見にくい(図1上)。一方,全方向ディスプレイでは,円柱の側面のどの方向に対しても正面向きの画像を表示できる(図1下,図2)。
 本技術によって3つの効果が期待できる。1点目は,空港や駅や病院などの公共施設の情報環境整備である。必要な情報を探すために,立ち止まったり,歩き回ったりすることは,混雑や事故の原因の1つとなっている。全方位ディスプレイにより,人の移動がスムーズになり,公共空間の安全安心の向上が期待できる。2点目は,広告宣伝などの訴求効果である。本技術は,利用者の方向が常に正面になるように表示し,利用者の移動にも表示が回転してついてくるような効果を与えられるため,各利用者に個別に応対しているような特別感を演出できる。また,同時に何人の利用者が見ていても,すべての利用者が同様に効果を実現できる(図3)ため,複数のディスプレイを様々な向きに設置する以上の効果を1つの表示器で実現し,限られた設置スペースで最大限の表示効果を得られる。例えば,コンビニやパチンコ店の店舗脇には,電動で回転する広告塔が設置されているが,本技術では,動力を使わずに,全方向に正面向きの看板を表示できる。3点目は,共感や一体感の向上である。例えば,図4のような観客席の中央に設置される大型ディスプレイでも,席の方向による見やすさの不平等感が生じにくい。また,家族で本技術を応用したテレビを囲んで団らんできるようになるなど,映像コンテンツの楽しみ方を広げ,新しい生活スタイルを提案できると期待できる。
 本技術は,量産化すれば現実的なコストで製造できると試算される。現在,ラボ研究から事業化のフェーズへの展開を進めており,事業化に積極的な企業も多いため,2年以内には実用化できると考えている。特に,2020年の東京オリンピック・パラリンピックでの都市情報環境整備やドバイ万博での展示に本技術で貢献することを目標に国や民間企業との連携を進めている。

参考文献
動画等http://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2016/pr20160509/pr20160509.html
アクセシビリティ研究 Ohyama,J.,Itoh,N.,Kurakata,K.,Sagawa,K. Time reduction design method for cognitive assist technology. LNCS, vol. 9193, pp. 94–103. Springer, Heidelberg(2015)

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