【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

部品実装後の電子回路を非破壊に立体成形する技術産業技術総合研究所 金澤 周介

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 電子回路に自在な立体形状を与えうる技術を開発した。半導体チップなどの電子部品を搭載させた回路を破損させることなく立体成形する技術である。広く用いられている真空成形法に改良を加えた「熱投影成形法」により,回路の形成は平坦な状態で行い,それを完成させたのちに目的の形状に成形することが可能となった。簡易な手法で幅広い立体回路を生み出す新技術が,エレクトロニクスに新しい風を吹き込む。
 平面状に完成させた回路を壊さずに立体成形できることが熱投影成形法の特長である。図1のように,LEDパネルを立体化する前後でまったく変わらず駆動させることができる。LEDチップに限らず,センサーチップやICチップなど多彩な部品にも応用可能である。こうした電子部品は基板上にはんだ付け等で実装され,電気的に接続されている。従来の成形技術を用いた場合,シートが大きく延伸,湾曲することで接続部が破損してしまう。熱投影成形法では真空成形の加熱機構を改良することでこの問題を解決した。図2のように,チップ実装部を含む回路が形成された樹脂のシートを成形機にセットした後に,シート全面を加熱するのではなく,実装部近傍は室温に保ちつつ,それ以外の領域を加熱してシートを軟化させる。このヒートプロジェクション処理によって実装部の変形を最小限に留めながら,それ以外の箇所が金型に追従して変形することで目的の立体形状を得る。加熱機構を改良した以外は従来型の真空成形と同様であり,平面状での回路形成とも併せた一連の製造工程を高速で行えるため,量産に適した工法であることも特長である。
 熱投影成形法の応用先としては自動車内装部品の分野が最有力である。自動車内部のように曲面に覆われた空間に回路を埋設するうえでは,流線形の筐体と回路を一体化させるのが最も効率的なためである。一方,これまでにない新しい機器の創出にも期待したい。人が触れる操作機器に快適な使用感を付与する,あるいはインテリアも兼ねる家電の意匠性を高める上でも,電子回路の立体化は有用と考えられる。回路の自在な立体化を通じて,エレクトロニクスに新たな付加価値がもたらされていくことを期待したい。

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OplusE 2021年5・6月号(第479号)

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