本物を目指して「門前,市を成す」であれ東京大学 教授 古澤 明
光をやっておけば,きれいな物理が学べる
聞き手:今後の光学分野を担う若者,若手研究者・技術者にメッセージをお願いします。古澤:光の量子力学というかすべての物理学的発見は光なんです。相対性理論もそうだし,いろいろな最初の原理の確認実験は光で行われているので,「基礎学問を目指すのなら,光は面白いよ」と言えます。産業分野でも,通信に関してはもう光しかあり得ないですし,コンピューターも光になってしまえばもっといいですね。 その時に重要なポイントは,今はクロックの周波数がギガヘルツとかぐらいで単なる電磁波ですが,周波数が10テラぐらいになったら「光」と呼ぶだけです。結局,高速の情報処理をやろうとしたら光になってしまうんです。電磁気学というか,電子回路も周波数が高くなっていけば,光回路になってしまうわけです。半導体も高速になれば光処理装置になってくるし,そういった意味で,必然的にみんなが光を学ぶことになるんではないですか。だから,電子工学というのが,物理工学や(量子)光工学というふうに変わってくるんではないですかね。また,光は光学会社が独占するようなものではもはやなくなってきていますよね。昔の電線屋さんが光ファイバー屋さんになっていて,日立とかもかなり光にシフトしてきています。だから,すべてのハイエンドの回路は光に変わっていくので,光がとても重要なのではないですか。
聞き手:これから,「物理にちょっと興味がある」という人は,ぜひ光の分野を目指して間違いないということですね。
古澤:うん,つぶしが利きますね(笑)。光をやっておけば,きれいな物理が学べるので。光というのは,量子性も波動性も目に見えますよね。波動性は干渉縞がそもそも見えるし,量子性だってショットノイズは普通のディテクターで見えます。だから,量子力学を目で見ることができるんです。 基礎学問を学ぶ上で光はとても重要だし,光を学んでいればもっと複雑な固体とかにも行けます。そういった意味でもつぶしが利くし,いいんではないでしょうか。でも,もはや光と物理というのはそんなに離れておらず,電子物性も光物性ももはや混然一体となり,電子には質量があるぐらいです。電磁場か電子か,というそれだけの違いになってきているので,「物理においでよ」と言えば,必然的に光に入ってくると思います。
古澤 明(ふるさわ・あきら)
1984年,東京大学工学部物理工学科卒業。1986年,東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。同年,株式会社ニコン入社。ニコンに在籍しながら,1988~90年は東京大学先端科学技術研究センター研究員を,1996~98年はカリフォルニア工科大学客員研究員を務める。帰国後,ニコンに復帰した後,2000年から東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻助教授。2007年,東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻教授。現在に至る。●専門:非線形光学,量子光学(光化学ホールバーニング,フォトンエコー,スクイージング,キャビティ聞き手ED,原子トラップ量子テレポーテーション,量子コンピューター)
●主な受賞歴等:1998年,Caltechで「量子テレポーテーション実験」に世界で初めて成功し,『Science』の1998年10大成果に選出される。2004年には3者間の量子もつれ制御に,2009年には9者間の量子もつれ制御に成功。久保亮五記念賞,日本学術振興会賞,日本学士院学術奨励賞,量子通信国際賞などを受賞。