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山場を越えたら,あとは丁寧に(株)ニコン 取締役兼常務執行役員 大木 裕史

産業における数学の実用化を推進

聞き手:このような寄付講座以外にも,ニコンとして先端レーザー科学教育研究コンソーシアム(CORAL)の先端光科学講義・先端光科学実験実習などが実施されています。こうした講義はどのような経緯で開講に至っているのでしょうか。

大木:レーザー科学教育研究コンソーシアムは,寄付研究部門の開講とほぼ同時期に,東京大学大学院理学系研究科(附属超高速強光子場科学研究センター)を核に17社の光学メーカーや光学関連会社で組織されています。こうした企業の方々が東京大学,慶應義塾大学,電気通信大学の大学院生を対象に,講義や実験実習を半期に数回担当し,院生は規定数を出席すると単位が取得できる新たな仕組みです。ニコンも同コンソーシアムへの参加依頼を受け,寄付研究部門のプログラムを基に先端光科学講義「光学産業における光学技術」,先端光科学実験実習「レンズ設計・基礎から実戦まで」を実施しています。講義は当初私が行っていましたが,一昨年からはニコンの森孝司・研究開発本部長が務めています。
 一方,私は以前から数学を強化したいとの思いがあり,数年前,東京大学大学院数理科学研究科長で当時日本数学会の会長も務めておられた東京大学の坪井俊先生を紹介いただき,「われわれが現在取り組んでいる開発テーマは物理分野だけでなく,純粋な数学専攻の研究者の方々にも適性があるのではないでしょうか」と相談をさせていただきました。
 このようなご縁を通じて,東大大学院数理科学研究科において複数の講師がオムニバス形式で講義する冬学期「社会数理特別講義」で,「先端産業技術が求める数理解析」と題する2回の講義を担当させていただいています。この講義では,「光学産業にはこのような数学的テーマがあり,これが数学科の研究者にとっても数学的と感じられるかは不明であるものの,私たちから見るとこれはまさしく数学的である」という内容で話をしています。
 現在,大学の数学科・数学専攻や数学関連学会などでは「数学は国内の製造業に貢献すべき」との考えにより,さまざまな仕掛けを通じて産業界とのパイプを太くしようとする機運が高まってきています。現在,こうしたアプローチを先行して進めている方々と連携して,さらなる進展を図っていきたいと考えています。そのためには,産業界でも数学をきちんと理解しておくことが必要条件になります。 <次ページへ続く>
大木 裕史(おおき・ひろし)

大木 裕史(おおき・ひろし)

1954年愛知県生まれ。1977年東京工業大学理学部応用物理学科卒業。1979年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。1979年~ニコン(元・日本光学工業)入社〔光学部(当時)に配属〕。2006年「ニコン光工学寄付研究部門」特任教授就任。2008年ニコン執行役員,コアテクノロジーセンター研究開発本部長就任。2011年ニコン常務執行役員,コアテクノロジーセンター副センター長兼研究開発本部長就任。2012年ニコン取締役兼常務執行役員,コアテクノロジーセンター長,カスタムプロダクツ事業部管掌就任。
●2005年渋谷眞人,大木裕史箸『回折と結像の光学』朝倉書店刊(2005),2010年応用物理学会フェロー称号授与

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