山場を越えたら,あとは丁寧に(株)ニコン 取締役兼常務執行役員 大木 裕史
趣味は書く・弾く・撮るの3拍子
聞き手:大木常務は“大変な趣味人”として,作曲・ピアノ演奏,小説執筆など多彩な趣味をお持ちとのことですが,それぞれどのように楽しんでおられるのでしょうか。大木:ニコンのウェブサイトに掲載したピアノ演奏の写真や作曲した譜面は,いまさらながらキザな感じがして,掲載しない方がよかったと後悔しています(笑)。ピアノの演奏は,子どものころから自己流で続けただけにいい加減なもので,演奏する曲のジャンルは“格好がつく”こともありジャズが中心です。ただし,既存のジャズの楽譜には,プロの演奏から聴き取って譜面に起こしたものがありますが,ほとんどの場合非常に難しくて私には演奏不可能です。そのため,持っているジャズのCDを聴いて「これなら自分でも弾けそうだ」と思える,比較的ゆっくりしたテンポで,ジャズの雰囲気を醸し出せる曲を選び,それを何度も聴き直しては自分で楽譜に落としています。もともとベースとドラムを合わせたピアノトリオの曲を,ピアノソロ用の楽譜にするため,ベースのパートも採り入れる必要があり,その作業は結構難しく時間もかかります。しかし,譜面にしたあとは自分で弾くことができるので,いまでもこの方法でジャズを演奏しています。
小説については,現在断筆中です。最後に書いていたのは,確か2004年ころであったと記憶しています。過去には,一時インターネット上の通信販売サイトで私の作品が市販されたこともありました。このサイトの運営会社が主催する文学賞を,偶然インターネット上で見つけて応募したところ入賞し,入賞作品としてオンライン上で販売されることになったのです。しかし,数年後に廃刊になり,結局ほとんど売れませんでした(笑)。また,1990年には星新一のようなファンタジー系のショートショート小説が市販雑誌に掲載されたこともあります。誌上で募集していたコンテストに投稿したら入選し「ベストショートショート」というコーナーに掲載されました。読書は,30歳を過ぎてから推理小説がほとんどで,島田荘司の「御手洗潔シリーズ」「吉敷竹史シリーズ」,トーマス・H・クックの作品などを好んで読んでいます。島田荘司の文筆力はほんとにすごいと思います。トーマス・H・クックの作品は,最初から読者に期待を持たせるような伏線,謎めいたフレーズが何度も何度も現れ読者に何だろう?と思わせているうちに次第にそのフレーズに向かってストーリーが収束していく様が圧巻です。
そのほかには,“下町散策”があります。散策関連の本を参考にJR山手線の内側や外側,ときには横浜方面にも出向きます。これまで訪れて最も印象深かった所は,西尾久(東京・荒川区)にある商店街です。JR田端駅を下車して,10分弱歩いていくとその商店街はこつ然と現れます。昭和の薫りが漂う,活気のある商店街です。さりげない看板に書かれた文字のフォントに今はない昭和を感じてノスタルジックな感傷に浸り,昭和40年代を彷彿させる喫茶店の佇まいに郷愁を覚え,店内でコーヒーを飲みながら“昭和”を満喫しました。最近は下町の散策にとどまらず,よく“階段巡り”にも出掛けています。東京の町中にある階段を紹介した本から,私の趣向に合いそうな階段を選び出し,それを効率よく見て回れるように計画を立ててから訪れています。訪れた場所は,一眼レフカメラで撮影します。撮りたい風景を自分で切り取って撮影する,あの達成感・満足感は一眼レフカメラでなければ味わえない感覚です。 <次ページへ続く>
大木 裕史(おおき・ひろし)
1954年愛知県生まれ。1977年東京工業大学理学部応用物理学科卒業。1979年東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了。1979年~ニコン(元・日本光学工業)入社〔光学部(当時)に配属〕。2006年「ニコン光工学寄付研究部門」特任教授就任。2008年ニコン執行役員,コアテクノロジーセンター研究開発本部長就任。2011年ニコン常務執行役員,コアテクノロジーセンター副センター長兼研究開発本部長就任。2012年ニコン取締役兼常務執行役員,コアテクノロジーセンター長,カスタムプロダクツ事業部管掌就任。●2005年渋谷眞人,大木裕史箸『回折と結像の光学』朝倉書店刊(2005),2010年応用物理学会フェロー称号授与