出口を見据えたデバイス研究を東京工業大学 精密工学研究所附属 フォトニクス集積システム研究センター 教授 小山 二三夫
この世にないものを創る喜び
聞き手:小山先生の恩師は末松先生,伊賀先生になると思いますが,お2人についての思い出などをお聞かせください。小山:私の学位論文の指導は末松先生で,卒業研究から含めますと6年間お世話になりました。本当のところ,実は卒業研究の配属でじゃんけんで負けてしまって末松先生のところに決まったのです(笑)。いや,でも世の中って分からないですよね,本当に。それで末松先生のような光通信の草分けである大先生と巡り会えたんですから。他の研究室に配属されていたら,今たぶん私は大学にはいないと思います。
卒業研究のときは,半導体材料ではない特殊な材料の光スイッチと,それから末松先生の主要研究である単一モードレーザーで学位論文を取得し,その後伊賀先生の研究室に助手として採用してもらいました。
末松先生の研究室では,システム的な思考を常に持ち続けながら将来を切り拓くデバイス研究を行う,システムマインドを持つことの重要性の指導を受けました。これは,出口でどのようなシステムが考えられるかからスタートして,それに求められるデバイス性能を考えて研究をしていく思考なんですけれども。
末松先生は,光通信のまだ勃興期に,単一波長で動く「動的単一モード半導体レーザー」の必要性を強く認識されて,現在の大容量光通信の根幹となるレーザー技術を先導されたわけです。
伊賀先生は,デバイス研究というのは“この世の中にないものを創る”という,まさに独創的なデバイスを創るということを常に実践されています。工学研究者は,いわば“神”として創造物を創るという非常に高尚な考え方をベースに,いわゆる理学研究とは一線を画したものになるわけです。単にものをつくるだけではなく,それを実現するためにはいろんな新しいコンセプトであるとか,それを実現するための材料であるとか,場合によっては物理も新しいものを考えなければいけないとか,いろんな広がりがある。だから,工学研究というのは,ものづくりが最終的には必要なんですけれども,それを支える裾野は実は非常に広くて,いわば工学研究者は創造者たれ,というお考えです。それは大変勉強になります。
伊賀先生は学生の指導においても同様に,研究はある点では深く行わなければいけない部分がありますので,すべてを網羅することはできませんけれども,学生諸君には常にそういうマインドを持つようにと,ある種狭い研究テーマをベースに,それを支える分野を広く勉強する指導をされてきたんではないかと思います。私も,その辺はよく肝に銘じて,学生諸君にはそのような指導をするようにしています。
一方,末松先生は,私が学生の時代はかなり細部に至るまで助言をするスタイルでした。朝「こういう方針はどうだ」とふと言われて,夕方「あれはどうなった」と言うこともありました。伊賀先生はかなりそういう意味では放任主義,と言うと怒られますけど(笑),いわゆる学生の自主性もかなり尊重されておられました。実は放っておくというのも,全然研究が進まない場合もありますので大変と言えば大変で(笑)。ただ優秀な学生にとっては,ある程度放任主義的な指導は,非常に重要だと思いますので,最後はバランスだと考えています。ある方向性を与えて,あるタイミングで助言しつつ,学生の自律性をいかに伸ばすか。両先生のいいところをできるだけ吸収し,実践したいとは思っているんですが,まだできていません。もちろん学生の能力であるとか気質に応じて,それぞれ必ずしも1つ,1通りのやり方ではいかないと思いますけどね。 <次ページへ続く>
小山 二三夫(こやま・ふみお)
1957年東京都生まれ。1980年東京工業大学 電気電子工学卒業。1985年東京工業大学理工学研究科電子物理工学博士修了。1985年東京工業大学精密工学研究所助手。1988年東京工業大学精密工学研究所助教授。2000年東京工業大学精密工学研究所教授。●研究分野:光エレクトロニクス,面発光レーザーと光マイクロマシン,半導体光集積回路の研究,超高速光データリンクの研究。
●1985年英Electronics Letters 論文賞,1986年米電気学会学生論文賞,1988年英Electronics Letlers 論文賞,1989年電子情報通信学会論文賞,1989年電子情報通信学会奨励賞,1998年丸文学術賞,1998年応用物理学会会誌賞,2002年電子情報通信学会論文賞,2004年市村学術賞功績賞,2005年電子情報通信学会エレクトロニクスソサイエティ賞,2007年文部科学大臣表彰科学技術賞,2008年IEEE/LEOS William Streifer Award, 2011年Microoptics Award,2012年応用物理学会光・電子集積技術業績賞など受賞。