つぶれそうでも取り乱さずに冷静になること株式会社光コム 代表取締役 会長 興梠 元伸
研究から未来を予測したい
聞き手:最後に光学分野の若手技術者や学生等に向けて,研究も起業も含めて光の面白さを教えて下さい。興梠:僕は研究して未来が予測できるようになりたいと考えています。今の自分だけの問題ではなく,もっと大きな視野で未来がある程度見通せるようになりたい。だから学生にもそうなってほしい。自分でも未来を見通すのは難しいんですが,それを目指して開発をしていきたいと思うんですが,そうなるのはどうしたらいいんですかね(笑)。
あとは,光の分野だけにこだわる必要もないと思います。ある程度広い分野が見られてその中での光もオーバーラップして,それで未来が読めるような研究者,技術者にみんななってほしいです。一つのことに高く登っていけば,上から下が見られるから未来も見えるのかもしれないけど,光だけではなく工学分野として技術革新をすることで未来はよくなるんだということを見据えて研究を行って,そこから先自分が研究者に進むのか技術者になるのか考え,進んだらまた考えてを繰り返して,よりよいものからよりよい世界を造ってほしいです。
今,僕がやっている仕事は,光も電気も機械も全部やるんです。CADを使って機械設計もすれば,電気回路の設計もするし,結局何でも屋さんなんです。いろんなことができないと製品ができない。最近ではレンズ設計までします。何で俺がレンズ設計しているんだろうなんて思いながら(笑)。でも,やってみると面白い世界だと思います。今までやってきたいろんなことが積み重なってきています。板金設計なんてできなかったですし(笑)。いろんなことができるようになって,それで次の製品が良くなるんだと思います。
ただ,大学ですべてを網羅して学ぶ必要はないと思っています。大学は基本的なことをみっちりとやるべきで,細かいところは後で構わないと思います。ただ,知らないことを学べるときに学んで自分のものにしていくことが大事だと思います。
ベンチャーを興してからは,常に崖っぷちといったらあれですが,ぎりぎりのところでよく10年もっているなと思っています。最初はわりと気楽にやっていました。つぶれるにしても成功するにしても今ではないので後回し(笑)。とりあえずつくるぞと。それで何年かたつと危機がやってくるわけです。それを何回か乗り越えたというところですね。
つぶれないためには精神的にタフじゃないとだめですね。鈍感になったほうがいいかもしれない(笑)。つぶれそうでも取り乱さずに冷静になることです。
壁にぶつかったときも,意外と当たり前のことにずいぶん悩んでいたりしますよね。1回迷路に入っちゃうと出られないこともあります。でもそれは,浅いトラップがいっぱいあって変なところに引っ掛かっているだけなんです。よく考えたら当たり前のことじゃないかってわかったりするんです。思考のトラップから抜け出すためには,逃げずに一生懸命もがくしかないと思っています。
趣味として剣道を小学生のころから40年近く続けています。わりと手をつけたらずっと通すことが多いですね。ただ,剣道みたいな習い事は大体親の意向で始めますから,最初のころは面白くないんですよ。面白くなるまで大体10年ぐらいかかりました(笑)。だから何でもとりあえず10年やめずにやると,何か面白くなるかもしれないと思っています。
興梠元伸(こうろぎ・もとのぶ)
1966年滋賀県生まれ。1987年静岡大学工学部光電機械工学科卒。1987年東京工業大学大学院総合理工学研究科物理情報博士課程入学。2007年株式会社光コム代表取締役社長に就任。2010年株式会社光コム 代表取締役会長に就任。●研究分野 光通信,光デバイス
●業績・受賞等 2008年井上春成賞