日本の光学産業が沈黙した羊の群れのように見える矢部 輝
楽しみで問題点の把握にもなるIODCのレンズ設計問題
聞き手:矢部さんとIODCのレンズ設計問題とのかかわりをお聞かせください。矢部:IODCのレンズ設計問題は実用とはかけ離れていて誰も経験したことのないような設計条件で,しかし設計条件と評価の方法は厳密に定義されて出題されます。ですから特定の分野での設計経験に依存しない純粋な設計能力が競われるわけです。IODCの半年位前に出題され2月位前に締め切られ,会期中の水曜日の夜に結果が発表されます。私は1990年からの問題を知っていましたが,自分で解いたのは1998年が初めてでした。1994年まではグローバル最適化の方法を知らなかったので,自分で解くのは大変だったのです。

聞き手:たびたびお話に出るエスケープ函数によるグローバル最適化ですが,非常に強力なもののようです。
矢部:そうです。しかし業界全体で見るとその評価は必ずしも高くはないかもしれません。エスケープ函数によるグローバル最適化の考え方は非常に簡単で1行の式で表現できます。その式も高校の数学レベルで理解できます。インプリメンテーションも容易なので多くのソフト開発者がこの方法を試してみたはずです。そして「なんだ,大した効果はないじゃないか」とかなりの人が思ったと私は推測しています。しかし大した効果がなかった時,その開発者は自分のソフトのローカル最適化能力を疑ってみるべきだったのです。エスケープ函数によるグローバル最適化はローカル最適化の繰り返しで構成されていて,特に一つのローカルミニマムから脱出する時に最適化の難しい領域を通り抜ける必要があります。ここをすんなりと通り抜けるのがローカル最適化の能力の高さなのです。


矢部 輝(やべ・あきら)
1953年岩手県生まれ 1978年東京大学物理学科卒業 1978年富士写真光機入社2003年富士写真光機退職 現在は,独立のレンズ設計者として活動
●研究分野
応用光学,光学設計