苦労して,問題に真面目に向き合って解決した人たちというのは強くなる東京工業大学栄誉教授 末松 安晴
失敗は成功の元
末松:新しいことをはじめるとすぐに成果は出ません。ですから失敗であっても「こういう考えでやって,こういう結果です」というまとまった理論は,きちんと論文にしてまとめるようにしました。「これではうまく行かない」と書く必要はなくて,「きちんとやるとこういう性能しか出ません」と書いておけば,ほかの人が見ればすぐ分かりますから。そうして1つの考えができていきます。それをずっと積み重ねていくことで,先が開けてくる。大学の一番良いところは,全部成功してすべて積極的な成果がでなくてもよいということです。学生は1つのシステマチックな考えで研究して,その結果がどうだったかということをまとめ,それで卒業していけばいいのです。それを,次の職場で,別の仕事を成功させる足場とすれば良いわけです。だから,最初から全部成功しなくてもしかたがない。学生時代は,一つ一つの課題に対して,この結果はこうですということを論理的にきちんと結末をつければ立派な訓練になります。
私は,学生に「人の論文はあまり読まないほうがいいよ」とよく言いました。つまり,「読む時間に同じことを自分で考えて答えを出せ」ということです。少し乱暴な言い方ですけれども,今は,全部読んで調べて,やられていないところを研究しますが,そうではなく「こういうことがちょっと知りたいです」と言うなら,「自分の頭でやってみろ。結果を出せれば,読まなくたっていいじゃないか。読むと同じぐらいの時間で答えができるよ」と言う意味です。自分でやれば必ず新しいことをほんの少しでも見つけるから,それを学会に報告するというやり方をしていました。ですから,問題を設定したら,これに対してその答えは人に頼らないで自分で出すほうがいい訓練になります。
研究しているときは周りをいつも見て,これで良いかと年中考え続けていなければ駄目です。それは世の中が動いていることにいつも目を向けているということです。その中で自分の目標を軌道修正しながら貫いていくことが絶対に必要です。だから,軌道修正しながら,ちゃんと最後の実現することまできちんとやり通すことです。その途中で,大切なことに気が付くのです。 <次ページへ続く>
末松 安晴(すえまつ・やすはる)
1932年 岐阜県生まれ 1951年 岐阜県立中津高校卒業 1955年 東京工業大学理工学部電気工学コ?ス卒業 1960年 東京工業大学大学院理工学研究科修了(工学博士) 1960年 東京工業大学理工学部電気工学科助手 1961年 東京工業大学理工学部電気工学科助教授 1967年-1968年 オハイオ州立大学 文部省在外研究員 1973年 東京工業大学工学部電子物理工学科教授 1989年 東京工業大学学長に就任 1997年-2001年 高知工科大学学長に就任 2001年-2005年 国立情報学研究所所長に就任 2010年 高柳健次郎財団理事長 2011年 東京工業大学栄誉教授●研究分野
光通信技術,レーザーデバイス
●主な受賞歴等
1983年 ワルデマー・ポールセン金メダル 1983年 コミュニケーション功労者内閣総理大臣表彰 1986年 デビット・サーノフ賞 1989年 東レ科学技術賞 1994年 ジョン・チンダル賞 1994年 C&C賞 C&C財団 1994年 放送文化賞(日本放送協会) 1996年 紫綬褒章 1997年 エドワード・ライン賞 2003年 IEEEメダル(ジェームス・マリガンJr. エヂュケーション) 2003年 文化功労者 2006年 瑞宝重光章 2014年 日本国際賞