苦労して,問題に真面目に向き合って解決した人たちというのは強くなる東京工業大学栄誉教授 末松 安晴
この研究は外国ではできなかった
末松:私は,国立大学の講座研究費の有り難さに加えて,日本の企業人は大したものだと思います。若い私は初期のころにはなかなか研究費に手が届かなかったことがありましたが,ずいぶん企業人に助けられました。例えば山崎貞一さん。当時はTDKの社長でしたが,見かえりを求めないで,「自分は若いころにあまり研究できなかったけれども,今,良い研究ができるならいくらでも金を出す」と言ってくださいました。当時の何千万,今の価値では何億でしょうけれども,それだけのものを手にしました。また,文部省の科学研究費が国力の増加につれて傾斜配分でどんどん増えていったことにも助けられました。このレーザーをやる1年前に特別推進研究に採択していただき,文部省に大変に助けられたのです。 しかし,若いころに助けてくださった企業人がいらっしゃらなかったら,成果は出せませんでしたでしょう。そこが,日本のすごいところです。だから,この研究は外国ではできなかったと思います。山崎さんは,本当に良い仕事を支援するつもりでいらした。私はいくら出してもいいといわれて,それに応えるにはよっぽど良い研究をしないと応えられないと思いました。でも,そのおかげでものすごい自信と同時に,本当に「この世にないものを創ろう」という意気込みになりました。また,安立電機の社長の磯英治さんには,それより前の助教授任官直後に,見かえりを求めないで寄付をしていただきました。そういう方々がおられたのは,戦後の日本の大変な力だったと思います。 <次ページへ続く>末松 安晴(すえまつ・やすはる)
1932年 岐阜県生まれ 1951年 岐阜県立中津高校卒業 1955年 東京工業大学理工学部電気工学コ?ス卒業 1960年 東京工業大学大学院理工学研究科修了(工学博士) 1960年 東京工業大学理工学部電気工学科助手 1961年 東京工業大学理工学部電気工学科助教授 1967年-1968年 オハイオ州立大学 文部省在外研究員 1973年 東京工業大学工学部電子物理工学科教授 1989年 東京工業大学学長に就任 1997年-2001年 高知工科大学学長に就任 2001年-2005年 国立情報学研究所所長に就任 2010年 高柳健次郎財団理事長 2011年 東京工業大学栄誉教授●研究分野
光通信技術,レーザーデバイス
●主な受賞歴等
1983年 ワルデマー・ポールセン金メダル 1983年 コミュニケーション功労者内閣総理大臣表彰 1986年 デビット・サーノフ賞 1989年 東レ科学技術賞 1994年 ジョン・チンダル賞 1994年 C&C賞 C&C財団 1994年 放送文化賞(日本放送協会) 1996年 紫綬褒章 1997年 エドワード・ライン賞 2003年 IEEEメダル(ジェームス・マリガンJr. エヂュケーション) 2003年 文化功労者 2006年 瑞宝重光章 2014年 日本国際賞