大学の先生になったら,絶対ちゃんと教育するぞと思っていた 学生は場さえ与えれば自分で育つところがすごいと思った科学技術振興機構 研究広報主監 佐藤 勝昭
自分の「専門」にこだわらないことも重要
聞き手:光学の専門家以上に光学に通じておられる面も多々あるように見受けられます。先生がこれまで,どのような対象に興味を持って,専門分野や研究分野を決めてこられたのか,お伺い出来たらと思います。佐藤:古典的な「光学」は専門ではありませんが,「光物性」は専門です。著書「光と磁気」や「新しい磁気と光の科学」にありますように「磁気光学」が専門です。また,発光材料,太陽電池材料も扱ってきたので,「光デバイス」も専門です。教科書「応用電子物性工学」「応用物性」「機能材料のための量子工学」などで,光の伝搬,反射・吸収・発光などについて,基礎から応用まで解説しております。実際に,デバイスを考えるときには,専門を超えなければなりません。たとえば,HDDの高密度化のための光アシスト記録では,磁性体の性質だけでなく,光導波路,近接場変換器などの知識が必要です。近接場にはプラズモニクスも関係します。要するに自分の「専門」にこだわらないことが重要ではないでしょうか。
自分で切り拓いて得たものが非常に大きかった
佐藤:NHK基礎研の物性研究部では,自分たちでもびっくりするほど基礎的なことをやっていました。磁性半導体だとか。今,磁性半導体というのは新しい研究が進んでいるわけですが,当時は結晶を作るのに30日かかるとか,もう大変でした。当時,MBE(分子線エピタキシー法)とかそういう便利な仕掛けはありませんでしたし,できた結晶が1ミリか2ミリですから,実際測定するのも大変でした。小さな結晶でも光なら何とかなるだろうということで,分光的な研究をしました。光で物質の磁性を見るという磁気光学という分野があることを知り,それを毎週土曜日,東大から客員研究員として来ていただいていた菅野暁先生のセミナーで勉強しました。先生がセミナーに出ている人にテーマとして,フィジカル・レビューなどの論文を渡して,それを読んで次週か次々週にレジュメを作り,説明するのです。そういうことで物理屋の薫陶を受けました。
大学に残っていたら,京大の一つのアカデミックな流れに染まってしまうものですが,1度切れていましたから,そちらとは全然関係なく,自分で切り拓くことができたのです。そういう新しい物理の仲間といいますか,そこでの得たものというのは非常に大きかったです。NHK基礎研では,すごくいい経験をしたと思います。
よくリニアモデルで,基礎研究があって,それから応用研究があるというような言い方をする人が多いですが,それは全然違うと思います。実際に使ってみて,それからもう一回基礎に戻ってくる,フィードバックループがあって,初めて物は進むのです。スパイラルなのです。 <次ページへ続く>
佐藤 勝昭(さとう・かつあき)
1942 兵庫県生まれ 1966 京都大学大学院工学研究科修士課程 修了 1966-1984 NHK(日本放送協会)勤務 1978 工学博士(京都大学) 1984-2005 東京農工大学 2005-2007 同理事副学長(教育担当) 2007東京農工大学名誉教授 2007-2010東京農工大学工学府特任教授 2007-2013科学技術振興機構(JST)「革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス」研究総括 2007-2012 JST基礎研究制度評価タスクフォース(兼務) 2008- JST研究広報主監 2010- JST研究開発戦略センター(CRDS)フェロー(兼務)●研究分野
磁気光学,半導体光物性,近接場光学,結晶工学,高温超伝導,磁性体ナノ構造
●主な活動・受賞歴等
2015 応用物理学会 業績賞(教育業績) 2014 日本結晶成長学会 貢献賞 2007 応用物理学会 フェロー表彰 2003 日本磁気学会 業績賞 2003 応用物理学会 JJAP編集貢献賞 2001 日本磁気学会 論文賞 2001 Int. Superconductive Electronics Conf. 2001 (ISEC'01) Excellent Poster Award 2000 Materials Research Society Best Poster Award 1997 日本磁気学会 出版賞
●画歴
1950-1954 小学生時代, 伊藤継郎(新制作)の児童画教室に学ぶ 1953から油彩をはじめる 1957-1960 大阪府立北野高校で美術選択 岡島吉郎(国画会)に学ぶ 1968-1984 NHK技研美術部で樋渡涓二(日府展前理事長)に師事 1970日府展に出品。中島哲郎に学ぶ 1974 ぎゃらりー渋谷で第1回個展 1978-2001銀座詩季画廊で個展(第2回?10回)二人展3回開催 現在 一般社団法人日本画府理事(洋画部審査員) 日府賞,記念賞,愛知県知事賞等受賞 2007- 麻生区美術家協会事務局長,麻生区文化協会総務 2008- アルテリッカ新ゆり美術展実行委員長