大学の先生になったら,絶対ちゃんと教育するぞと思っていた 学生は場さえ与えれば自分で育つところがすごいと思った科学技術振興機構 研究広報主監 佐藤 勝昭
よい質問をした学生たちに座布団をあげることで,よい質問が集まった
佐藤:私はインターネットをすごく早くからやっているのです。1996年からホームページを作っています。1995年にいた秋田君という東電に就職した学生がホームページを作るアルバイトをしていまして,それで研究室のホームページも作ってくれました。そのころ,それまでは大学のネット回線はショボくて全然使い物にならなかったのですが,やっと高速回線の1.5Mbpsがつながったということで,じゃあ,ホームページ作ろうよ,ということで,その学生がプロトタイプを作ってくれました。そして,修了するときに「先生,私は卒業します。学生に頼むと次につながらないから,先生が覚えるといいですよ,ずっと先生は残るのですから」と, HTMLタグの手ほどきをしてくれまして,分からなくなったら,いいサイトのソースコードを見ればいいですよというアドバイスももらいました。それ以来ずっとそうしています。ああいう手作りのホームページですから,本当にシンプルで軽いのです。テキストにタグを最小限付けていますから。 ホームページの運用を始めてから,「ああ,これは授業に使えるな」と思いました。学生さんたちもこれからのインターネット時代にちゃんと適応しないといけないから,それを読んでもらえるようにしようと思いました。それより前からずっと質問コーナーを設けていたのですが,授業の最後の15分前に,裏紙を半分に切ったのをみんなに配って,そこに授業の始まったころにやった話を復習で質問するわけです。それに答えろと。そうすると,それに答えられないのは遅刻しているということです。それから次に,今度は君たちから私に対する質問を出してくれと。良い質問には座布団をあげますと。座布団というのはボーダーラインのときに加点するということです。そうすると,みんなこぞって質問をしてくれるし,とってもいい質問をしてくれます。それをネットに載せるようにしました。そのネットに対して,農工大以外の人から質問が来るのです。それをみて,これは,非常にいいなと思いましたね。学生さんたちの質問をある程度まとめて,物質の不思議というコーナーにしていたのですが,質問がいっぱい来るようになったので,Q&Aコーナーを作ろうということになって,2000年ごろに作りました。そのころになると,検索エンジンが非常に普及してきて,検索が当たり前になってきたわけです。
HPにしろ,いつでも時代の先取りをしてきた
佐藤:私がやってきたことは,時代を先取りしていると思うのです。私のホームページには,私の授業のすべてのパワーポイントがPDF化して貼り付けてあります。それから試験問題,標準回答までアップしています。なぜそうしたかというと,これからインターネット時代になるのを見据えて,学生さんたちにどんどんアクセスしてもらうためです。そして,自分のところの学生だけではなく,せっかく作った教材を多くの人に見てもらいたいですからね。教材つくるのも,結構面倒くさいのです。図面も全部自分で作っていますから,ほかの人にも使ってもらえばいいじゃないかと思います。別にお金を取るのでなく,ネットに出たら自由ですから。結構使っている人がいるみたいです。特に,企業から大学に移籍したばかりの先生は,ネタを持っていないから,佐藤先生のを使わせていただいていますと言われますから。聞き手:それが,教育にもつながってきたのでしょうか。
佐藤:私は,1989年に教授になったときには,形式上は物理工学に入っていて,それから2000年ごろ組織編成があったときに,物理システム工学科に移りました。物理システム工学科というのは,半分が教養の物理の先生だったのです。それと元々の応用物理の先生が一緒になって,そこに私らみたいな電気電子系の人間が入って作った学科だったのですが,教育熱心なのです。教育論議をして,必ず授業には演習を付けようとか,それから学生本位の授業をしようというようなことを,絶えず話し合っていたのです。
そういう経験があり,評議員になったときも教育担当をやらせていただいたり,その後も,教育担当の副学長をやらせていただいたのです。大学はすごく教育をおろそかにするというか,教育よりも研究するためのものになっていたのです。先生になるのも,論文どれだけ書いたかですから,要するに,教育を考えていなかったのです。
私はNHKにいるときから,後輩を見ていて,ちゃんと教育されていないなと思っていたので,自分が大学の先生になったら,絶対ちゃんと教育するぞと思っていました。先生が片手間で,雑用として教育している限りは,絶対だめだと思うのです。だから,どんな授業でも1時間半の授業をやるからには,3時間ぐらいの準備をしないといけないと思っていました。授業をすごく大切にして,そして受講者が家で復習ができるように,すべての授業の情報はネットで公開するようにしました。
eラーニングに関しても,少人数でやるときにはすごく効果があると思いました。チャレンジなのです。そういうのを先取りしていかないといけないと思うのです。 <次ページへ続く>
佐藤 勝昭(さとう・かつあき)
1942 兵庫県生まれ 1966 京都大学大学院工学研究科修士課程 修了 1966-1984 NHK(日本放送協会)勤務 1978 工学博士(京都大学) 1984-2005 東京農工大学 2005-2007 同理事副学長(教育担当) 2007東京農工大学名誉教授 2007-2010東京農工大学工学府特任教授 2007-2013科学技術振興機構(JST)「革新的次世代デバイスを目指す材料とプロセス」研究総括 2007-2012 JST基礎研究制度評価タスクフォース(兼務) 2008- JST研究広報主監 2010- JST研究開発戦略センター(CRDS)フェロー(兼務)●研究分野
磁気光学,半導体光物性,近接場光学,結晶工学,高温超伝導,磁性体ナノ構造
●主な活動・受賞歴等
2015 応用物理学会 業績賞(教育業績) 2014 日本結晶成長学会 貢献賞 2007 応用物理学会 フェロー表彰 2003 日本磁気学会 業績賞 2003 応用物理学会 JJAP編集貢献賞 2001 日本磁気学会 論文賞 2001 Int. Superconductive Electronics Conf. 2001 (ISEC'01) Excellent Poster Award 2000 Materials Research Society Best Poster Award 1997 日本磁気学会 出版賞
●画歴
1950-1954 小学生時代, 伊藤継郎(新制作)の児童画教室に学ぶ 1953から油彩をはじめる 1957-1960 大阪府立北野高校で美術選択 岡島吉郎(国画会)に学ぶ 1968-1984 NHK技研美術部で樋渡涓二(日府展前理事長)に師事 1970日府展に出品。中島哲郎に学ぶ 1974 ぎゃらりー渋谷で第1回個展 1978-2001銀座詩季画廊で個展(第2回?10回)二人展3回開催 現在 一般社団法人日本画府理事(洋画部審査員) 日府賞,記念賞,愛知県知事賞等受賞 2007- 麻生区美術家協会事務局長,麻生区文化協会総務 2008- アルテリッカ新ゆり美術展実行委員長