研究者として成功するためには新しい発明と併せて大いなる努力が必要KLA-Tencor Corp CTO Dr. Ben Tsai
身体,感情,精神のすべてが趣味
聞き手:仕事以外で,例えば休日,何をされてお過ごしでしょうか?Ben:そうですね,人間は物理的な身体,感情,精神を持っていますが,私はどのことに関しても趣味としています。
身体面ではヨガやウォーキングを。今朝もホテルのそばを闊歩してきました。毎日,1万歩,歩くことが目標ですが米国では難しいですね,車での移動がほとんどですので。感情面に関しては,子供の時から継続して写真を撮ること,それとミステリーのTV番組を見ることも好きです。日本の「相棒」も好きな番組です。
また精神面では,人間の感情や精神等を使って,科学と宗教を同じように考えることが私は好きです。スタンフォード大学を引退されましたウイリアム テイラー先生の研究されていることに大変,興味があります。超ひも理論により,量子力学と宗教的な経験,感情の力等を同一視するために10次元モデルを使う,とかです。
同じ内容に関して,日本の本山博先生の本もたくさん,読んでいます。本山先生は, 井の頭にあるIARP(国際宗教・超心理学会)の会長をされています。
KLA-Tencorの様な高度の技術を使っている多くの会社では,技術の限界をさらに進めるよう,常に努力しています。しかしながら技術の限界は必ずきます。次の100年までには,人間の感情や見ることができない部分を考えた技術領域に向かうのではないかと思っています。
大変大雑把な表現ですが,量子力学では,粒子性と波動性があるとしています。それは光学やホトニクスだけではなく,どんなものにも,例えば人間にも,あてはまるのではないでしょうか。
ですから,先に述べたように人間の感情や精神等を使い,科学と宗教を同じように考えることが,私は好きなのです。
しかしながら,今の技術に関しては,ほとんど科学的なものを基盤にしたものであり,感情や精神等を使っているものは大変少ないと思います。
人間を次の高いレベルに引き上げるためのブレークスルーは,この両方-科学と感情や精神-を一緒にして使用することだと思います。
最近のシリコンバレーでは,いろいろな意味でFacebookやTwitterといったSNSが大変,成功していますが,彼らは両方,使っていると思っています。この様なハードウエアでもソフトウェアでもない,感情や精神に関するもの,人間の間での相互作用を取り扱うことで,大きなビジネスになるのだと思います。
この様な両方,使う技術が,必ず,将来の人間のための技術になると私は信じています。
人間の歴史は振り子の振動の様なことが,しばしばあります。ヨーロッパでのルネサンスでも,多くの宗教と他の感情や精神等とが基本になったと思います。
今では,科学が進歩し,すべてのものは材質でできているとして説明できていますが,実際はどうでしょうか?
人間の感情や精神等を使って,科学と宗教を同じように考えることで,ルネサンスの中世の時代の様な状態に再び,振り子の様に戻るころではないでしょうか?
日本では上司の意見を尊重しすぎる
聞き手:それでは最後に日本の若い研究者,開発者に対して,メッセージをいただけないでしょうか?Ben:かの偉大なる発明家,トーマス・エジソンの格言にある様に,天才でも「1%のひらめきと99%の努力」とされています。この格言に従いますと,研究者として成功するためには,新しい発明と併せて大いなる努力が必要となります。
私のこれまでの経験から思うことは,日本の教育システムは,大いなる努力をできるようにするためには,大変良いものです。多くの人が勤勉によく働いていると思います。しかしながら技術を専門とする者を育てるようと考えた時に,創造性のある考えかたを鍛え上げていくことに対しては向いていないと思います。その大きな理由のひとつは,日本の教育システムにあると思います。
私は台湾で大学を,米国で大学院の学生として過ごし,学位を取得しました。教育システムは,台湾,特に米国ではもっともっとOpenです。例えば米国のカリフォルニア州のある会社内で,技術の内容に関して,話し合う,あるいはディベートするとします。この時,会社の上下の関係を意識して議論する,ということはありません。単にアイデアが重要です。
アジアの国,もちろん日本もですが,上司の意見を尊重しすぎることが多々あると思います。もし良いアイデアが生まれた場合,上司から意見が出るとそれに皆,賛同し,それに従って進めていく,といった具合だと思います。「No」とは言いません。これはすごく悪いシステムで,創造性を伸ばすためには不利な環境であると思います。
もちろん先生や年上の方々を敬うことは大事なことです。しかしながら技術に関して議論する時には,利点が何かに関して議論すべきです。先輩がこう考えるからと言って後輩がそう考える必要はないと思います。多くの違う考えがあるはずですから。
この様に日本の技術に携わる方には,今の様に勤勉に働き,年上の方々を敬うことは継続し,アイデアが出てきたら,それをより良いものにするよう,開かれた議論をされる様になることを期待します。
Dr.Ben Tsai( ベン・ツァイ)
国立台湾大学から電気工学の学士号を受け,イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校で電気工学の修士号と博士号を取得。 1984年KLA-Tencor社の前身となるKLA Instruments社に入社。1994年CTO就任。2004年から二年間東京エレクトロンの技術担当の副社長を務め,2006年KLA-Tencor社に復帰。●KLA-Tencor 社について
本社はアメリカ合衆国カリフォルニア州。半導体設備産業におけるリーディング・カンパニーであったKLA社とTencor社の合併により1997年5月に誕生した。以来,半導体検査・計測装置メーカーの枠を超え,ソフトウェアの開発・充実や先端企業の買収などにより,歩留まり管理=イールド・マネジメント・ソリューションの専門技術集団として,業界での地位を確立している。アメリカ,ヨーロッパ,日本及びアジア太平洋地域にサポート拠点を展開し,売り上げの15?20%をR&Dに費やす研究開発型の企業である。URL:http://www.kla-tencor.com/