技術者になりたいという子どもを増やしたい静岡大学/兵庫県立大学 寺西 信一
本当に誇らしいしうれしい
聞き手:寺西さまは埋め込み型イメージセンサーの開発でデジタル画像の画質を上げたことにより第3回「エリザベス女王工学賞」を受賞されました。おめでとうございます。まずは受賞の率直な感想をお聞かせください。寺西:ありがとうございます。40年間イメージセンサーを開発してきて,技術者として最高の賞を頂けるということで,本当に誇らしい,うれしいと思っています。
そして非常に幸運だったなと感じています。多くの技術が,非常に重要で社会の役に立っていて,どれが無くなっても生活が成り立たなくなるのですが,そういったものの中からイメージセンサーが選ばれたというのは非常に幸運であったと思います。選考はすごく大変だったのではないかと思っています。
イメージセンサーはデジタルカメラや携帯,スマートフォンなど,目立つところにあるのが良かったのかなと感じました。これが例えば素材だと,非常に重要で大発明があったとしてもなかなか難しいのかもしれません。このエリザベス女王工学賞の第一回はインターネットとwebブラウザーに対してで,これは大変立派な業績でかつ目立ちますよね。
3つ目は感謝です。いろいろとメディアやwebで取り上げてもらい,いろんな人から「おめでとう」という言葉を頂きました。長い間音信不通だった人からも連絡をもらったりしました。私は今63歳なのですが,残りの日にちを考えると少ないわけです。定年のときも1つの区切りだったのですが,あらためて今までを振り返って,いろいろな人に感謝できたことが非常にありがたいと思っています。
4つ目は,自分自身のステップアップでしょうか。実のところ自分自身は賞をもらおうがもらうまいが変わらないわけです。しかし,もし受賞しなかったら今日のインタビューもなかったはずで,つまり周りの人の見る目が変わってしまっています。そうなると自分だけがそこに追いついていないというのはまずいと考え,少しでもそういう期待に沿うように自分も成長しないといけないと感じています。
幸いにもいろんな機会を新たに得ることができています。今日もそうですが,今まで会わなかったような人に会うとか,いままでにない経験をいくつもさせてもらっています。今までよりももっと間口が広くなり,そういうことを糧にしてステップアップしていかないといけないなと思っています。
最後に,技術者の社会的地位向上です。これは昔から思っているのですが,技術者はやはり地味ですよね。自分から宣伝することもなかなかありません。企業に勤めている技術者は,何か新製品が出ても技術者個人の名前は出ないのです。新聞やニュースでも,社長がだれだれの会社が新しい製品を発表したという記事になっていて,技術者は黒子になってしまっています。ですから技術者の地位をもっと上げていきたいのです。
子どもに「将来何になりたいの?」と聞いたら,サッカー選手や野球選手,ゲームクリエイターやパティシエが人気で,たまに科学者になりたいという子がいる程度で技術者になりたいという子どもはそうはいません。でも,日本はものづくりをして貿易をして稼がないと成り立たない国です。そのためには技術者を日本で育てる必要があります。育てるためには志望してもらう必要があります。ですから,暗い面ではなく,技術者というのはこんなにいいのだよというのを世に知らしめていくことが必要です。
こういう賞をもらったからにはそういうことをやる責務もあるのかなと思っていますが,なかなか大変なので,大きな声では言えていません(笑)。実は受賞者発表会の時に財団の理事長から感想を聞かれたときにもこのことを答えました。発表会が終わった後にアン王女が1人1人と少しずつ話をしてくださったのですが,その時に「日本でそうなのですから,イギリスはとても大変なのですよ」と言われました。イギリスは世界の工場といわれていましたが今では全く違う状況になっています。それを立て直すことも考えてエリザベス女王工学賞というのは始まったと聞きます。日本はイギリスよりましというかはるかに上をいっているとアン王女は思っていたようです。それが私の発言を聞いて,日本でもそうなのかと驚かれていたのが非常に印象的でした。
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寺西 信一(てらにし・のぶかず)
1978年 東京大学理学系大学院物理学専攻修士課程修了 1978年 日本電気株式会入社,イメージセンサーとカメラの開発に従事 2000年 松下電器産業(現:パナソニック)株式会社入社,イメージセンサーの開発・マーケティングに従事 2013年 同社定年退職 2013年 国立大学法人静岡大学 電子工学研究所特任教授(現在に至る),低ノイズ化及びフォトカウンティングイメージセンサーの開発,新機能イメージセンサーの開発 2013年 公立大学法人兵庫県立大学 高度産業科学技術研究所特任教授(現在に至る),X線イメージセンサーの開発 2013年 International Image Sensor Society President(現在に至る)。●職務内容
イメージセンサーの開発
●主な受賞歴等
1993年 全国発明表彰経済団体連合会会長発明賞 1997年 科学技術庁長官賞研究功績者 2000年 映像情報メディア学会丹羽高柳賞業績賞 2003年 映像情報メディア学会フェロー 2010年 IEEE Fellow 2010年 英国王立写真協会進歩賞,および名誉フェロー 2011年 米国写真協会進歩賞 2013年 映像情報メディア学会丹羽高柳賞功績賞 2013年 山崎貞一賞 2013年 IEEE EDS J.J.Ebers賞 2017年 エリザベス女王工学賞