うまくいかない時,どうしていいかわからない時には第三者の意見をよく聞く北海道大学 齊藤 晋聖
3つぐらいの研究テーマをパラレルで常に持つようにする
聞き手:研究・開発プロセスにおいて,自信を喪失されたり試行錯誤して苦悩された苦いご経験がありましたら,ぜひそのエピソードをお聞かせください。齊藤:実は挫折したという具体的なエピソードは,これはというのが思い付かないのですが,先ほども少しいいましたが,教員になってすぐの時は,研究予算の獲得に苦労し,その時に少し悩んだというか,この先どうしたらいいのかなというのを考えました。予算を取るために研究テーマを考えるというのも変ですが,予算がないと研究ができないので。
何のためにその研究をするのか,それがなぜ重要なのか。やっぱり予算が付く研究は,重要といいますか,需要があるということをよく考えて,研究動向の把握を強く意識しはじめて,少し流れが変わったかなというふうに感じています。
どんな研究でも重要な面はあると思いますが,自分の中で重要だと思っていても,井の中の蛙的になっている可能性があったりする。それをちょっと変えて,積極的に世界の状況を見に行って,そこでの研究動向,この分野では今何が問題になっていて,それをどういうふうに皆さんが解決しようとしているのかというのをよく見ながら,そういう状況の中で研究室としての強みを生かして,どういうふうに社会に貢献できるのかなということを意識して,研究テーマを設定するようにしています。そうして研究も軌道に乗り,予算も取れるようになり,良いほうに働いていったかなと考えています。
これは私のボスであった小柴先生から教えていただいたことなのですが,必ず複数の研究テーマを持つように指導していただきました。
ちょっとうまくいくかわからないけれども,難しく長い期間で考えないといけない最重要な研究テーマがあったとして,それに時間をかけてもそれがうまくいくとは限らないので,これは確実に論文にはなるであろうというテーマをパラレルで進めておく。そうしてあと1つ,かなり時間がかかるであろうというテーマと確実に論文になるテーマの間にあるぐらいの,3つぐらいの研究テーマをパラレルで常に持つようにするのです。
1つの大きな仕事に何十年をかけるという方法もあるとは思いますが,そうではなく,それもやりつつ,コンスタントにアウトプットが出せるような研究スケジュールで,パラレルにいろんな仕事ができないと駄目だよという指導をしていただき,それをずっと意識しながらやってきました。
そのおかげで,アウトプット,研究業績もそれなりにコンスタントに出し続けてこれたと感謝しています。リスク管理をきちんとして,研究を進める上でうまくいかなかった時に,そこで悩んでしまって止まってしまうのではなく,そういうことも想定した上で,リスクを分散させてコンスタントにうまく進められるように意識しながらやってきました。
研究は生き物みたいなもの 最初からうまくいくものばかりではない
齊藤:研究は生き物みたいなものといわれたこともあります。最初からうまくいくものばかりではないと考える必要があります。テーマ設定もそうですが,いつやるのかということも重要です。例えば,昔思い付いたアイデアも,当時は計算や解析ができなかった。でも今のコンピューターの処理能力だと,十分短時間で計算できるようになった。そういう変化もあるので,いつやるのかという,その辺も大事かなと思っています。
あとは,常に意識しているのは,うまくいかない時,どうしていいかわからない時には,第三者の意見をよく聞くようにしています。専門家の第三者でもいいですし,分野外の第三者でもいいのですが,そういう第三者の意見を聞いたり,うまくいかないことに関して,ディスカッションをする機会をできるだけ持つようにしています。研究室でも毎週みんなで集まって,ディスカッションをしています。
だいたい皆さん自分の専門のことはすごく深く知っていて,そこに関しては皆さん負けないという自負はあると思うのですが,専門外の知識が分野外の人にとっては当たり前ということもよくあります。できるだけ自分の専門以外のことにも興味を持つようにしています。やはり時間も限られているので,分野外の知識をたくさん常に吸収していくのは大変なので,人さまに聞いてしまいます。
新しいアイデアみたいなのは,そんなに次々と出てくるものではないと私は考えています。だいたい自分が思い付くようなことは,他人も考えているということがほとんどです。すでに昔の人が考えているということも多いので,過去の文献を,広い範囲で調査するということをよくしています。
やはり分野外の情報は,そもそも結構新鮮です。それは普通にできますよとか,こういうことをしたら解決できるんじゃないですかというようなアドバイスがポロッと出てきたりもします。だから狭い範囲での知識で,うまくいかないと考えるのではなくて,じゃあうまくいかないことが当然なのか,それとも,ほかの分野の人から見ると,よくあることだったりしないのか,第三者の意見から意外なアイデアが出て来ることもあるので,大切にしています。
空間多重伝送用マルチコアファイバーの断面写真
(JLT2015, vol.34, no.1, pp 55-66, OFC2016 Th5A.2 & Th5C.3, ECOC2017 Th.PDP.A.6)
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齊藤 晋聖(さいとう・くにまさ)
1997年 北海道大学工学部電子工学科 卒業 1999年 北海道大学大学院工学研究科電子情報工学専攻修士課程 修了 1999年 日本学術振興会特別研究員(DC1) 2001年 北海道大学大学院工学研究科電子情報工学専攻博士後期課程 修了 2001年 北海道大学大学院工学研究科助手 2004年 北海道大学大学院情報科学研究科助手 2005年 北海道大学大学院情報科学研究科助教授 2007年 北海道大学大学院情報科学研究科准教授 2013年 北海道大学大学院情報科学研究科教授現在に至る
●研究分野
光ファイバー通信,光エレクトロニクス,光ファイバー応用技術,光・電波科学,計算科学 ●主な活動・受賞歴等
1999年 平成10年度電子情報通信学会論文賞受賞 1999年 平成11年度電気関係学会北海道支部連合大会若手講演者表彰受賞 2001年 平成12年度電気関係学会優秀論文発表賞受賞 2002年 平成13年度電子情報通信学会学術奨励賞受賞 2003年 平成14年度丹羽保次郎記念論文賞受賞 2004年 国際会議 Opto-Electronics and Communications Conference(OECC 2004)Best Paper Award受賞 2005年 エリクソン・ヤングサイエンティスト・アワード2005受賞 2008年 平成20年度文部科学大臣表彰若手科学賞受賞 2009年 船井情報科学奨励賞受賞 2011年 東北大学電気通信研究所RIEC Award受賞 2015年 第12回(平成27年度)日本学術振興会賞 2017年 IEEE Photonics Society Distinguished Lecturers Award