うまくいかない時,どうしていいかわからない時には第三者の意見をよく聞く北海道大学 齊藤 晋聖
常日ごろから,外の世界がどうなっているのかというのを意識する
聞き手:ありがとうございます。複数のテーマを持つことはご自身が指導を受けたということですが,齊藤先生も研究室でそのように指導なさっているのでしょうか?齊藤:大学院の修士の学生には,さすがに複数の研究テーマを持って進めていきなさいとは指導はしていないのですが,うまくいかないような状況になりそうな時は,毎週行う研究室でのディスカッションの機会で,その時にみんなで話し合うようにしています。
あとは,できるだけ研究成果を出せるような,うまくいかなくてもそれなりに成果を出せるような形で研究を進めていけるように指導をしています。
今の学生さんはすごく恵まれていると思います。修士の学生でも,OFCとかECOCとか,トップカンファレンスにどんどん行けますからね。
常日ごろから,外の世界がどうなっているのかというのを意識するようにしていないと,学生であってもその気にならないと思います。
私が初めて国際会議に出たのは修士の2年生の時でした。それも国内での国際会議でした。それでも国際会議はこんなにすごいものなんだと,かなりいい意味での刺激を受けて,もっともっとやらないといけないなと感じました。
ですから研究室の学生には,自分の狭い世界じゃなくて,外がどうなっているのか,今の世の中の流れがどうなっていて,その中で自分の研究がどういう位置付けで,何をやっているのかというのを意識するように指導しています。反面教師ではありませんが,私が学生の時にそれができていなかったということもありますので。
特にドクターへ行く学生ですと,どんどん専門的になっていくので,自分の研究が世の中ではどういう位置付けで,それがうまくいくと世の中にどんないいことがあるのかを意識しながらやってほしいなと思います。自分ができていなかったという反省もこめて。
ドクターの学生には,確実に学位を取るために1つの研究テーマだけではなく,複数の研究テーマを持ち,リスク分散をして,1つがうまくいかなくても結果を出せるような感じで研究計画やスケジュールを立てるように指導しています。
どこでも光が光っているという,明るい未来を期待しています
聞き手:それでは,最後に若手研究者,学生さんに向けてメッセージとか光学の魅力お伝えください。齊藤:最近の若い人というか情報エレクトロニクスに入ってくる学生さんは,なかなか通信をやってやろうという人があまりいないのがちょっとさみしいのです。これは北大の情報エレクトロニクス学科だけの話なのかもしれないのですが。それよりも,皆さんゲームやソフトウェア関係により興味があるようですね。
今のわれわれが発展してきたのは,電気というかエレクトロニクスの技術がどんどん発展してきたことに尽きると思います。電気の信号を自在に操ることができているから故だと思うのですが,光はまだそこまで行っていない。
光を自由自在に操ることができる段階になっていないので,まだまだやるべきことはたくさんあると思うのです。光を光のまま自由自在に操ることができたら,さらに未来,この先の社会が大きく変わると思います。それを体験できるというか,コントリビューションできる研究分野なので,ぜひ若い優秀な研究者にこの分野で活躍していただきたい。
私の専門は通信技術ですが,光の技術はそれ以外にも医療,エネルギー,環境,工業や加工など,いろいろな分野にどんどん活躍の場が広がっています。今後さらにどんどん光の技術が入り込み重要性が増して,将来,光を自由自在に操る時代がもう当たり前になると,私はそう予想というか,期待も含めて考えています。それにぜひ若い研究者が挑戦してほしいですね。
なかなかこう光の宣伝をして,光通信技術はこんなにすごいですよといっても,ああそうかと思った学生さん,じゃあ自分でやってみようとなかなか思ってくれない。
私が光通信がこれからの主役になると思って研究を始めた90年代前半は,ようやくインターネットが商用化しはじめて,日本ではまだ家庭にインターネットが普及しておらず,研究機関でようやく自由にインターネットができるような状況でした。実際に触れて見て,日本とアメリカをつないでいるのは光ケーブル,光通信はすごいなと思ったものです。
それが,あれよあれよという間に通信技術が発展して,インターネットも当たり前になりました。
YouTuberが小学生の将来の夢になるとは,すごい時代になったなと思います。私の子どももYouTubeを結構見ていますから。だからもう本当に,あの90年代に光関係の研究を始めた私自身,その当時から考えても,こんなに速くなるとは全然考えていませんでした。
漠然と光通信でどんどん伝送容量が速くなるとは考えていましたが,それによって世の中がこんなに大きく変わるというのは,全然予想できなかった。だから今の状況も,また10年20年たったら,また世の中がガラッと変わり,さらに便利というか,楽しいというか,魅力あるものに変わっているのかなと思っています。
私はよく学生に,世の中に光があふれる社会なんですよ,光あふれる社会を目指して頑張っていきましょうというふうにいっているのです。そういうふうな本当に明るい,文字通り明るいというか。光にあふれているような,それが当たり前になる,今,電気でやっているものをどんどん光に置き換えていって,どこでも光が光っているという,明るい未来を期待しています。
齊藤 晋聖(さいとう・くにまさ)
1997年 北海道大学工学部電子工学科 卒業 1999年 北海道大学大学院工学研究科電子情報工学専攻修士課程 修了 1999年 日本学術振興会特別研究員(DC1) 2001年 北海道大学大学院工学研究科電子情報工学専攻博士後期課程 修了 2001年 北海道大学大学院工学研究科助手 2004年 北海道大学大学院情報科学研究科助手 2005年 北海道大学大学院情報科学研究科助教授 2007年 北海道大学大学院情報科学研究科准教授 2013年 北海道大学大学院情報科学研究科教授現在に至る
●研究分野
光ファイバー通信,光エレクトロニクス,光ファイバー応用技術,光・電波科学,計算科学 ●主な活動・受賞歴等
1999年 平成10年度電子情報通信学会論文賞受賞 1999年 平成11年度電気関係学会北海道支部連合大会若手講演者表彰受賞 2001年 平成12年度電気関係学会優秀論文発表賞受賞 2002年 平成13年度電子情報通信学会学術奨励賞受賞 2003年 平成14年度丹羽保次郎記念論文賞受賞 2004年 国際会議 Opto-Electronics and Communications Conference(OECC 2004)Best Paper Award受賞 2005年 エリクソン・ヤングサイエンティスト・アワード2005受賞 2008年 平成20年度文部科学大臣表彰若手科学賞受賞 2009年 船井情報科学奨励賞受賞 2011年 東北大学電気通信研究所RIEC Award受賞 2015年 第12回(平成27年度)日本学術振興会賞 2017年 IEEE Photonics Society Distinguished Lecturers Award