【重要】技術情報誌『O plus E』休刊のお知らせ

技術的知識と十分なソフトスキルがなければ,大きなインパクトを与えることはできないWilhelm Ulrich

生活のバランスが重要です。それは全体として融合させること

聞き手:光学をこれから学ぼうとしている若い人へのアドバイスとして伝えておきたいことは何でしょうか。

Ulrich:光学を学ぶために大学に行き,物理や数学において専門技術能力の基礎を築き上げることは非常によいと思います。また工学部もよい選択だと思います。しかし,何を本当に学びたいのか常に考え検証していくことを薦めます。というのは,好きでなかったら,他の何かをするのがよいからです。
 さらに,学問以外にも興味を持って生活をバランスさせることが重要です。家族や友人との時間を持ち,スポーツや音楽をするのです。これが新たな見識やアイディアと共にあなたを鼓舞してくれ,より充実し成功につながると思います。
 大学で学んだ後には何をするべきでしょうか? 大学か産業界かを決めることになります。私自身は,より実際的にということで,企業での仕事を選びました。なぜ我々は仕事をしなければならないのでしょうか? まさにお金を稼ぐためでしょうか? それとも他に何か重要なことは無いでしょうか。たいていの場合,社会に前向きに現実的にインパクトのあるような仕事を特に望むでしょう。家族や友人に何をやっているかを分かりやすく楽しく説明できます。社会と実際に関わりがある事を話せれば,ポジティブな気持ちになれます。私の場合には,医療機器や顕微鏡を開発し,光学系の解像力を向上できると,人々の生活をよりよくするのだと話すことが嬉しかったです。

聞き手:そうですね。数学と社会との関連性を説明するのは少し難しいかもしれません(笑)。

Ulrich:確かに,数学は容易でありませんが,どのような挑戦も怠惰よりははるかによいことです。そして,新しい応用が,優秀な人が開発した優れた解を必要としており,それによって困難な問題を解くことができるでしょう。それゆえ,そのような準備として,数学を学ぶことはよいと思います。たとえ困難な仕事をハードに行わなければならなくても,現実的な問題を解くことはポジティブな意味をもち,満足感を与えてくれるでしょう。そして生活のバランス,IQとEQのコンビネーション,家族や友達,趣味・・・がよい結果を導いてくれるでしょう。
 バランスというのは分配を意味するわけではなく,物事を全体として融合させることです。様々な見識によって自分自身を鼓舞し,自分の考え方だけでなく,他人の着想を常に受け入れることが,成功への1つの鍵でしょう。
 そして,すでに言いましたが,しっかりした科学技術の基礎が重要です。確かな科学の基礎がなくては,革新的な(光学)製品の開発や,顧客の要求を満たす解を見つけることなどできません。

聞き手:Ulrichさんは,人生においてバランスが重要と言っています。若い頃あるいは大学時代,趣味やスポーツなど何かされていましたか。

Ulrich:いつもスポーツを,特にバレーボールを楽しんでいました。チームの中で友人たちとスポーツを楽しんでいました。試合に勝つという目標とチームの気持ちがうまく融合していたと思います。エネルギーをもらいました。練習の後はよくパブに行きました。

聞き手:もう1つ質問があります。数年前ISOのレセプションで,大学ランキングについて聞いてみました。彼らは大学ランキングなど気にしなくてよいと答えてくれました。私もそう思いますが,Ulrichさんはどう思いますか。

Ulrich:ランキングはしばしば大学における研究成果に関係しています。どんな有名な先生がいるか,ノーベル賞あるいは有名な賞を取ったのかということです。それゆえ,最新の基礎技術を学ぶのであれば,そのようなグループに入るのはよい選択だと思います。
 しかし,スタンフォードやMITやケンブリッジでなくても,満足のいく仕事を見つけられるし,成功してキャリアを得ることもできます。ランキング上位の大学は多くの場合高い授業料で,だれでもが賄えるわけではありません。それゆえ,学費が払えなくて通うことができず,やる気を失うかもしれず,危険をはらんだ選択になるかもしれません。

聞き手:ドイツでは,どのように大学を選ぶのでしょうか。ランキングでしょうか,将来の仕事を考えてでしょうか。

Ulrich:一般的な答えはないと思います。自分の家族の近くの大学を選ぶ人もいますし,逆にひとりの生活にあこがれて自分の家からできるだけ離れた大学を選ぶ人もいます(笑)。ランキングをチェックしてそれで決める人もいます。異国の異なる文化から経験を学ぶことは大変重要な動機になるでしょう。MITやケンブリッジの授業料を払える人はいますが,ごく少数です。
 多分,ある文化においては,履歴書をよくするために高いランクの大学での成績や名声を得ることが,本当に重要なのかもしれません。これは別の国ではまったく違う状況だと思います。誤解しないでいただきたいのですが,私は高い志や優れた能力を尊敬し評価していますが,それは単なる点数評価であってはなりません。私の個人的な経験も含めた見方からは, 個人的なパーソナリティーや振る舞いは同じように重要です。これが長い間のうちに人より優れた成果をもたらす重要な鍵にしばしばなります。

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Wilhelm Ulrich

Wilhelm Ulrich(うぃるへるむ・うるりっひ)

ハンブルグ大学より応用科学のengineering degree(engineering degree from the University for Applied Science in Hamburg)を授与される。1980年 ツァイス光学設計の数学部門に入社し,様々な事業の最先端光学設計プロジェクトに従事(カメラ, 顕微鏡, レーザー走査顕微鏡, 医療顕微鏡,眼底カメラ,赤外光学系,干渉計,半導体露光用光学系)。1995~1997年 アーレン大学において,光エレクトロニクスの学生向けに光学設計の専門講義(associate lecturer)を行った。1997~2009年 カールツァイスSMT(SMT:Semiconductor Manufacturing Technology)AGにおいて最先端半導体露光装置の光学設計の長を務めた。2009年7月から現在 光学システム(レンズマウンティング基本設計を含む)設計の長を務めた。2014年~ オーバーコーヘンとイエナでのカールツァイス研究所のシステムエンジニアとアルゴリズムに関する責任者を務めている。2012~2014年 ミュンヘンのビジネスコーチング学院(Munich Academy for Business Coaching)でコーチング技術を学んだ。2013年~ ISO TC172“Optics and Photonics”のChairman。

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