テクノロジーで古い業界の生産性を上げ,さらにその先へ株式会社スマテン 代表取締役社長 都築 啓一
学生時代の起業,そして震災でのボランティア経験で感じた社会貢献に必要なこと
聞き手:都築社長が「スマテン」を立ち上げるまでいくつかの会社を立ち上げていらっしゃったそうですね。まずそのことについてお話ししていただけますか。都築:大学在学中に名古屋市内で飲食店を立ち上げたのが,最初の起業でした。起業の前にバックパッカーとしてアジアを中心に世界を旅していて,その時の仲間と一緒に飲食店をはじめたのです。当時私は学生でしたから,世の中にどんな仕事があるのかもよくわかっていませんでした。そこで,いろいろな経営者の話を聞くことができるのではないかと思ったことと,スモールスタートしやすかったため,社会勉強の意味も兼ねて飲食店を起業したのです。
飲食店経営を5年ほど続けた2011年に,東日本大震災が起きました。発災から1週間後に私は個人としてボランティアに参加しました。この時感じたのは,社会貢献は必要なことではあるものの,継続するためにはボランティアでは限界があるということでした。
そこで,被災地から地元に戻り,社会貢献の観点で事業を立ち上げていきました。まず始めたのが太陽光発電事業です。東日本大震災による原子力発電所事故がきっかけとなり,再生エネルギーの普及が必要と考えたからです。当時,愛知県を中心に岐阜県や三重県などで土地を購入し,発電所を設置して販売するという事業を7年近く続けました。
また,福祉の会社も立ち上げて,グループホームや就労支援施設の運営もはじめました。太陽光発電とは別の観点での社会貢献と考えた事業ですが,運営していくうちに,自分の強みとのマッチングや本当にやりたいことを考えた時に少し方向性が違うように感じ,最終的には福祉の会社は売却しました。
そしてその後,消防設備会社を立ち上げました。消防設備業界との出会いは,スマテンを立ち上げる前,防犯カメラの販売をしていた時にさかのぼります。防犯カメラ事業は,飲食店経営の時の経験から必要と考えてはじめたものです。その当時,オフィスがあったビルにたまたま消防設備関連の企業が入っていたのです。
消防設備会社を立ち上げた後,まず点検を行う職人を集めました。その時知ったのはこの業界は歴史のある業界だからか非常に旧態依然であり,報告書などのデジタル化もほとんど進んでいないという現実でした。そこで,報告書の自動化などで点検する職人さんの負担を軽減することが急務と考え,アプリケーション「スマテンUP」を開発しました。消防点検者向けアプリとしては日本初となります。このアプリによって報告書作成時間が2時間から30分に短縮できるようになりました。しかしこのアプリケーション開発には予想の何倍ものコストがかかってしまいました。それでこの業界で続けるか,開発を中断して別のビジネスに進むかの判断に迫られたのです。でも私としてはこの局面で,ようやく面白いところにたどり着くことができたという感覚を持っていたのです。そこで,思い切って当時運営していた企業を全て整理してこの業界に注力しました。 <次ページへ続く>
都築 啓一(つづき けいいち)氏 ご経歴
学生時代にバックパッカーとして世界を旅した後,飲食店を開業。その後大学を中退して飲食店の店舗を経営していた際に東日本大震災が発生し,復興支援ボランティアとして活動する。この時の経験をもとに太陽光発電や福祉関係の企業を起業する。その後消防業界に注目し,この業界のデジタル化の必要性を感じて2018年にスマテンを設立。