セミナーレポート

脳と人工知能理化学研究所 栄誉研究員 甘利 俊一

本記事は、画像センシング展2018にて開催された招待講演を記事化したものになります。

脳-人間とは何か

 ここ数年来,人工知能は世界に衝撃を与え,人間の知的能力を超えるのか,大きな関心が持たれてきました。もしそうであるならば,新しい産業革命が起こり,われわれの社会と文明の仕組みが変わるかしれません。
 人間は,考え,言葉を獲得し,社会をつくり,すばらしい文明を持つに至りました。これは奇跡ともいえます。こうした脳がどのようにしてできあがったのか,宇宙誌を振り返ってみたいと思います。138億年前にビッグバンがあり,エネルギー・物質が広がり,時間と空間が始まりました。物理の法則が働き,宇宙が形成されたのです。46億年前に地球が誕生し,その後10億年ほど経った36億年前に生命が生まれました。
 生命は物質ですが,自分の情報を自分の中に記録し,その情報を使って自己を複製することができるという自己再生能力をもつ非常に奇妙な物質です。その情報はDNAという形で書き込まれています。このときに,物理の法則だけで動いてきた世界に,情報というものが働き出しました。それが進化です。物質も情報も揺らぎます。物質の生存に,より都合のいい構造にあたると,それが生き残り,発展していきます。そうして,生命体は進化を続けていきました。これは,情報駆動で情報が物質を使って自己を主張して進化していったという見方もできます。さらに,その結果として,細胞と細胞がくっつき多細胞になり,多細胞が共同して機能分担をします。そして,脳という情報処理に特化した部分を持ち出し,類人猿からさらに人間が生まれました。700万年前に人類が登場し,われわれ新人は20万年前にアフリカで生まれ,その後全世界に広がっていきました。
 宇宙では物質の法則が貫かれています。しかし,生命体の発展は,進化の法則であり,情報が大きな役割を果たしています。そのうえで,人間は意識や心があり,社会や文化をつくっています。文明・文化がどう発展しているのかはまた別の法則になります。このように,宇宙はいろいろな階層からできているのです。

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理化学研究所 栄誉研究員 甘利 俊一

数理工学を専攻する研究者である。情報幾何など,情報の数理を扱う数学理論を提唱する一方,脳の仕組みを数理の立場で明らかにする,数理脳科学の建設に励んでいる。東京大学工学部,同大学院で数理工学を専攻,九州大学助教授,東京大学助教授,教授を経て,現在同名誉教授。理化学研究所の脳科学総合研究センターのセンター長を5年間勤め,現在は理化学研究所の栄誉研究員。電子情報通信学会会長,国際神経回路網学会会長などを務め,文化功労者,日本学士院賞,IEEEピオーレ賞,神経回路網パイオニア賞,Gabor賞など多数を受賞。囲碁6段,テニスやスキーを楽しむ。日本棋院の囲碁大使。

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