セミナーレポート
画像認識と周辺要素をバランスさせて実現するセキュリティ~分野を跨いでバランスについて考える~セコム(株) IS研究所副所長 黒川 高晴
本記事は、画像センシング展2018にて開催された誰にでもわかる特別講演を記事化したものになります。
セキュリティサービスのバランス
画像を使ったセキュリティサービスでは,ご契約先にカメラを設置し,夜間無人になる事務所などを監視します。不審者が侵入すると,カメラがそれを自動で認識し,コントロールセンターに異常信号と画像が送信されます。センターでは,必要に応じて警察に通報し,並行して緊急対処員に指示を出して,指示を受けた緊急対処員がご契約先に急行します。このモデルは,センターや緊急対処員などの「人によるサービス」と,カメラなどの「機械による自動認識」の両者によって成立しています。サービスの原点は人です。人は人と接することで安心を得ます。不審者が侵入したときに,ロボットが対応するよりも,人が駆けつけて「大丈夫ですか」と声を掛けるほうが安心します。しかし,無人の事務所を見張るのであれば,人がずっと立っているのは非効率的です。人を必要としないところは機械に任せることで,生産性の向上や負荷の軽減が図れます。そのため,機械の認識精度を極限まで高め,本当に必要な場合のみ人が対応するのが理想です。
セキュリティのバランスは,人と機械の環から生まれます。人は技術特性を把握した効率よいサービス運用を,機械は認識技術をより強固にブラッシュアップすることを目指し,常にこのサイクルを回していきます。こうした回転によって,現場と開発の人的交流が生まれ,社内的信頼が高まり,組織的なバランスが得られます。そして,サービスの品質が向上することで,社会的信頼が高まり,社会に対するバランスが得られるようになるのです。
近年,セキュリティサービスの分野でもドローンが注目されていますが,そこでは移動体の役割をどう捉えるかが重要になります。固定カメラをたくさん並べただけでは実現できない価値を創造して初めて,移動することの意義が生まれます。セキュリティが目指すのは死角がないことです。移動体は対象に接近することで,固定カメラでは捉えきれない詳細な画像を撮ることが可能です。そこに移動体の価値を見出せば,固定カメラで大局を,ドローンで詳細を認識するセキュリティサービスが成立します。どこまでを固定カメラで,どこまでをドローンでまかなうか,両者の間で最適な位置を常に探る姿勢が必要なのです。
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セコム(株) IS研究所副所長 黒川 高晴
1997年,東京大学計数工学科修士課程修了。同年,セコムに入社。以降,画像圧縮,屋外監視,人物検知・追跡などコンピュータビジョンの研究開発に従事。2016年,セコムIS研究所 副所長。主な興味は,深層学習が浸透した現在もビジョンの中間表現。